お題:『薬』【薬物魔法少女ケミカルフォー第40話 なんてこと!? *まさかまさか*の仲間割れ!】

*これまでのあらすじ*

わたし、魔法少女ケミカルフォーの一員、ピンク!

わたしたちケミカルフォーは、世界征服を目論む悪の組織ポイズンドラグーンとの戦いを繰り広げてるの!

ついに最後の幹部オーバードーザーを倒し、ボスのテトロドロキ神のいる紅天狗塔のありかを突き止めたんだ!

けど、その周囲は紅天狗塔から放たれる毒ガスで近寄れない魔の領域。

だけど安心して! 私たちの頼れる仲間、薬の妖精ヤクたんがそれに耐性をつける薬を見つけてくれたの!

でも……


(ここから本編)



「これが……その薬だっていうのかよッ!」


 レッドが、”それ”を前にわなわなとした表情と大声で叫んだ。

 いつも勢いを失わない私たちの頼れるアタッカーのレッド。

 いつも燃える心でくじけそうになる私たちを鼓舞してくれたレッド。

 そんな彼女でも、こればっかりは無理だった。

 なぜならそれは、薬の妖精ヤクたんが私たちに差し出してくれた薬は、


「座薬じゃありませんの!!!」


 イエローの言葉に、残りのケミカルフォーがみんな沈黙する。

 座薬。

 肝臓で分解されずに体に届く素敵なお薬。

 ロケットや銃弾みたいな形をして、突き刺して投与するそのお薬。

 白くて小さいそれを前に、わたしたちは身動きが取れませんでした。


「あの。ヤクたんさん」


 いつも冷静なブルーが、おずおずと片手を上げて問いかけた。


「あなたは我々にこういいたいのですか。

 ────お尻を出せと。

 この、思春期真っ只中である私たち魔法少女に向けて」

「そうでヤクよ?」


 ストレート! めちゃくちゃストレートに言いましたよこの妖精!

 お尻なんてはっきりと言われたせいで真っ赤になる私たちの顔。


「君たちはここまでに色々な戦いを繰り広げてきたでヤク。

 アシッ童子の魔法少女の服だけ溶かす酸性雨攻撃を受けた時も、

 ヘドローン操る触手生物ドクトパスの繰り出す魔法少女の服だけ溶かす攻撃を受けた時も、

 それに負けることなくくじけることなく戦って来た君たち」


「思い返せば服だけ溶かす攻撃をしすぎでしたわよねポイズンドラグーン幹部」

「私たち薬物魔法少女の体は酸性攻撃への耐性がありますからね。奴らの主要攻撃は服にしか効かないというのが正確かと」

「なあ……今気づいたんだがじゃあ服にも耐性つけてもらえばよかったんじゃねえか?」

「ちっ気づかれ………そうでヤクね、ボクがうっかりしてたでヤクよ」


 あれ、なんか変な舌打ちが聞こえましたね?


「とにかく、君たちはどんな敵が相手だろうと勇敢に戦って来た訳でヤクよ!

 だから今更ボクや仲間の前でお尻を突き出すことぐらいどうってことないはずでヤク!」


「そ、そんなこと言われても、なァ……」

「わ、私、世話役のばあや以外の前でお尻を丸出しにしたことなどありませんのよ!?

 それがこんな、いきなり野外でだなんて……」

「私も嫌。うら若き乙女であるからには、そういうことは人前でやりたくない」

「わ、わたしも……恥ずかしいし……」


 ケミカルフォーみんなの拒絶に、けれどヤクたんは更に勢いを増して叫びます。


「そんな! 君たちはこの世界がどうなってしまってもいいんでヤク!?

 悪の組織ポイズンドラグーンが企むのはただの世界征服じゃなくて、全人類ドロドロ計画でヤクよ!

 この星に生きる人間たち全部をドロドロに溶かして融合させ、ボスのテトロドトキ神が超生物に羽化する栄養にする。

 そんな自分勝手で危険な計画から家族やお友達を守れるのは、もはや君たちだけなんでヤク!」

 だから、

「この薬を誰かお尻にぶすって刺して、紅天狗塔の毒ガス噴霧装置を壊しに!さあ!」


 ヤクたんの言葉に、わたしは拳を握ります。

 この星の生きとし生けるものを守れるのは私たちだけ。

 大好きなお母さん。憧れの先輩。それらの顔を脳裏に浮かべて勇気をチャージ補充して。

 戦いに挑むことに、恐怖も怯えも何もない。

 だけどもそれはそれとして。


「で、本音は?」

「私たちは清純ですみたいな感じの魔法少女がお尻を突き出して恥ずかしがってる姿が見たい」

「こんっの……ドスケベマスコット!!!」


 どうしよう。私たちの頼れる妖精さんにまさかこんな性癖があっただなんて。

 握った拳をそのまま突き出し、ヤクたんの顔面へクリティカルストレート。

 変態妖精が地平線の向こうに飛んでいくのを確認して、わたしは振り返ります。


「さて、身近な悪は消え去ったけど────」


 ヤクたんの手放した座薬が降ってくるのを魔法少女動体視力で捉えてキャッチし、わたしは問いました。


「この薬、結局誰が使おうか?」


 どうせ誰かが使わなければ世界は救えないのです。

 この薬を私欲に使おうとした悪の妖精は私が拳で封印しましたが、けれど10分もあれば戻ってくるでしょう。

 なので今です。あの妖精が彼方へ消えているうちにさっさと使用し忘れ去る。

 それが変態の野望を封じつつ世界と尊厳を両方とも守る唯一の道のはずでしょう。


「い、幾ら変態が消えたからといって、私やっぱり嫌ですわよ野外で人前で座薬注入なんて!」

「私も。嫌。恥ずかしい」

「ア、アタシだって困るぜ!」


 犠牲になるのを拒否する三人。

 ちょっと恥ずかしさを我慢するだけで世界を救えるというのに、彼女たちの正義の心はどうなったというのか。

 無論私も嫌ですが。


「だって……ナマのお尻なんて、カレシにだって見せたことないのに……」

「レッド、今なんていいました? 彼氏?」

「そ、それまさかヤスカズくん!? ヤスカズくんのことですの!?

 ヤ、ヤスカズくんはわたしの幼馴染なのに……泥棒猫……」

「イ、イエローが泣いちゃったよ!?」


 なんてことでしょう。あれだけ固い結束で結ばれていたはずのケミカルフォーが仲間割れです。

 これが悪の力とでも言うのでしょうか。なんて卑劣なんでしょう。なんで敵じゃなくマスコットが原因なんでしょう。


 大泣きをして動かないイエロー。

 しどろもどろになりながら要領を得ない弁解を続けるレッド。

 額を押さえて黙っているブルー。

 どうすればいいか分からなくてわたわたするわたしピンク。


「こんな座薬があったからこんなことに────」


 私は思わず、手に持った座薬を投げ捨てようとして────そこで天啓が降って来ました。


「そうだ、

 ────この薬、ヤクたんのお尻にぶち込めばいいんじゃないかな?」


「「「あっ」」」



*世界は救われました

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