第五話 「それぞれの想い-side K-③」

 連日、雨が続いていたある日、彼女から一通のメッセージが届いていた。

アタシはそれをみて飛び出した。

アタシなんかよりもずっと泥臭い努力をして、それしかみてこなかった彼女。アタシはそれをなにより尊敬していた。

自分になにもないことを知ってからは余計に。


 なんでこの世界は不条理に、人から大切なものを奪っていくのだろう。

雨に打たれながら傘も差さずに彼女の家の前まで来ていた。

また、アタシは守れなかったのだろうか。

自分の大切だと思うもの。それが他人の夢であっても、一緒にみれるのなら本望だと思い始めていたのに。


彼女は酷く沈んでいた。かける言葉がないのもわかる。

あの時、彼女がアタシに自分から話しかけなかったのも、そうなのだろう。

なにも言えない。

なにもできない。

なにも救えない。

ただただクソみたいなゲンジツだけがそこにあるだけ。

アタシの性格はただ黙っていることも出来なかったから、震える指でこう書いた。

「ごめんなさい」

別にアタシが悪いわけでもない。

悪いから謝ったのではなく、無力な自分への言い訳でしかなかった。

彼女はまたアタシが思ってもみない言葉を口にする。

「君は、強いね」

強かったらどれだけよかっただろう。

強かったらこんなことになってないんだろうな。

アタシは強くなんかない。

無力だからこうなっているんだ。

そう言いたい。だけど、喉からはなにも声がでない。

滲んでいた瞳から涙がこぼれ落ちる。

アタシは無力と後悔でいっぱいだった。

自分の時泣けなかった分があふれでたのかもしれない。

しばらく二人でゲンジツの痛みに泣いていた。



 そんな風に過ごした次の日、神様がチャンスをくれたのだと信仰もしていないのに勝手に思った。

不思議な少女と不思議な出来事。

わけもわからない状況で、告げられた機会。

もう神にでも悪魔でもなんでもすがらないとゲンジツは変わってくれない。アタシはその場で意思を固める。

「それで、どうするの?」

彼女に聞いた。

彼女はターゲットが知り合いだからか躊躇っていた。

「アタシは、あんたが、やらないんだったらやるわよ。だってどうせ叶うのは一人でしょ?」

心にないことも言ってみた。ここまで言えばやる気になってくれると思ったからだ。

アタシは、アイドルが本当のやりたかったことだなんてもう思わない。そもそも世の中からはもう忘れかけられている存在。

ニュースは一度広がり盛り上がっても、また次のニュースでもちきりになる。アタシである必要性は世の中にない。

けれど、彼女は違う。

きっと世界を目指せる。それだけの技量も努力で培ってきていた。それはちっぽけな一部のファンだけのものではなくなる。そう、アタシは信じているから。


「ははは……君は、本当に強いね」

また強いと言われた。

それは違う。

弱いからの決断、彼女に生きる責任を押し付けてる。それだけ自分が無力だから。

自分勝手なものよ。アタシがそうなってほしいからというアタシの勝手な願い。

「本当に、ありがとう」

「……こっちこそ、本当にありがとう」

やりたいことを見つけてくれて。

「え?なにか言った?」

「な、なんでもないわよ。」

聞かれなくて良かった気もするし悪かった気もするが、二度言う気も起きずにその時は誤魔化した。


そしてアタシ達は手を組んだ。

どうしようもないゲンジツを変えるために。

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