第十三話 「交錯スル者達①」

 傘を差しながら帰る帰り道。いつもなら何気ない会話やくだらない話をしているツナギとシュウカだったが、今日は口が重い。

楽しい話ができるわけもなく、かといって『自分達にできることはなにもない』ことを考慮するとなにを話そうにも話せないでいた。


 駅にあと少しでたどり着くところでシュウカが口を開く。

「あ!えっと、その、忘れ物しちゃったかもぉ……」

「じゃあ学校に戻る?」

「いいよいいよ!ツーちゃんは。お家、先帰っててくれるかなぁ?」

「でも、あまり一人にならないほうが……」

「だいじょーぶ!いざとなれば錬金少女にでもなればいいんだし~」

相変わらず気ままな言い方をするシュウカ。けれどそれがこういう時、嬉しかったりもする。

「そう?じゃあ夕飯の準備してるね」

「うん!お家で待ってて~」

とシュウカは笑顔で手を振り、来た道を駆けていった。


(シュウちゃんは本当に相変わらずだなぁ)

 シュウカが視認できなくなるくらい遠ざかるまでは見送っていたツナギ。

視線を前に戻すと先行く人達の中に明らかに人ではない黒い靄が見えた。

「あれは……!」

ツナギはソレに気付かれないよう、後ろから追いかけていく。

(なんでこんな街中に……。それに、なんだか……)

なんだか周りの人間に交じっているようだとツナギは思っていた。

(最初はこんなんじゃなかったような……)

ツナギはソレを追いかけながらソレの今まで見てきた形を思い返す。

 最初こそただの黒い塊で、確かに所々人間の目や、腕、足など模していたが明らかに化け物という認識だった。それがどんどんと見慣れた形となっていき、今では完璧な人形になっている。

(なんか倒すの躊躇するなぁ)

と考えながらツナギは変身する機会を伺っていると、ソレは何かに気付いたような素振りを見せ、まるで人間が走るかのように二足でどこかへと逃げていくようだった。

(気づかれた!?)

ソレが進行方向を変え、大通りから道路の方へ走っていく。それをツナギも走り、追っていく。走りながら人気がなくなると変身しさらにスピードをあげる。

道路に出ると周りに人は一人も居らず、車も通っていなかった。


(……そういえば、いつもは人気が少ないところだったから気づかなかったけど。もしかして人払い、されてる……のかな?)

ツナギ達を錬金少女にした、不思議なクラスメイトの存在を思い出すツナギ。

(やっぱりなんか不思議なんだよなぁ)

そもそも自分がなぜ『錬金少女』にならなくてはいけなくて、チョウチョが言っていた『儀式』も『ソレ』もわからないことだらけだった。

ツナギは首をブンブン横に振る。

(今は目の前のソレを倒さなきゃ!)

ソレは道路に出た時点でツナギの視界からは消えていたが、すぐに見つけることができた。


「いた!」

その声にソレは怯えるように飛び跳ね、ツナギから遠ざかるように逃げていた。

(今までは襲ってきていたのに……?)

ツナギは地面についている足に力をいれる。すると接している地面は軋みツナギの足が沈んだ。

その瞬間、ビュンッと風を切ったような音が広がり、ツナギは高速でソレに追いつく。

「ギャッ」

驚いたような声がソレからした。

「やああ!」

ツナギは剣をソレの中心部へと突き刺す。

「あ゛あ゛あ゛ぁ゛」

断末魔をあげ、ソレは突き刺された勢いのまま倒れる。


「ふぅ……」

ツナギは息をついて、剣を倒れたソレから抜き出す。

(なんか、今回はあっけなかったな)

昨日の苦戦した戦いを思い出すツナギ。それと共に今日担任から告げられた三人のことも思い出す。

(事件……なのかな。そしたらなるべく早く帰ろ──)

ツナギが視線をあげ、変身を解こうとした刹那、声が聞こえた。


「よく、ソレを倒せるね……」


「え?」

声のした方を振り向く。

すると見慣れない服装をした、知り合いの顔が目についた。

「鳳来さん……?と、音無、さん……?」

ツナギの声は驚きを隠せず、降りしきる雨はその声をより小さくさせた。

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