妹、魔物を狩る

「さあお兄ちゃん! ガンガン狩りますよ! バフよろしく!」


「えぇ……」


 そうして俺たちは町の周囲の、野良の魔物を狩ることになった。


 実用性がどの程度なのか不明なので安全な魔物を狩ることにした。のっけから大型の強敵をいきなり相手にするのはやめておきたかった。


 俺はレベルの上がった「妹バフ」を使う。


 ――

 使用項目を選択してください

 力「F]

 体力「F]

 魔力「F」

 精神力「F]

 素早さ「F」

 スキル「なし」

 ――


 妹のとなりで出てきた表示項目から、力と体力を選択する。

 ――

 使用項目を選択してください

 力「A]

 体力「A]

 魔力「F」

 精神力「F]

 素早さ「F」

 スキル「なし」

 ――


 これでいいのかなあ……?


「おっし! お兄ちゃん、なんか良い感じの力が湧き上がってけ来ますね! いける気がします!」


 言うが早いかミントは近くにいた野良イノシシを殴りつける、剣さえ使わない純粋なパワーでごり押しをしている。


 しばらくイノシシの聞くに堪えない悲鳴が響いていたのだが、数発妹がぶん殴った時点で倒れてしまった。


「おーい、大丈夫か?」


「もちろんですよ!」


 そう言う元気のよい返事が返ってきたとき脳内に音が響いた。


 ピコーン

 ――

 スキル「妹ヒール」を獲得しました

 ――


 うん……そのままの意味なんだろうな……


「ミント、ちょっと怪我しているな?」


 手のひらの擦り傷が見えたので早速試してみることにした。


 ――

 妹ヒールを使用します

 ――


 ぱあっと光がミントの手のひらを包み、傷はみるみる消えていった。どうやらそのままの意味で治療スキルらしい。


「お兄ちゃんがやったんですか、これ?」


「ああ、そうだと思う」


 ミントが笑顔で言う。


「お兄ちゃん! これいけますよ! 私が主力でお兄ちゃんが補助すれば負ける気がしないです!」


 兄としては妹を危険に巻き込みたくはないのだがなあ……


 そして俺たちはイノシシの牙を討伐の証拠に切り取って持って帰った。


 町に入り、ギルドに向かう。道中で「よう! お兄ちゃんじゃねえか? ははっ、本当に妹を連れて歩いてるとは思わなかった……ぐへ……」


 気の毒なヤジを飛ばそうとしたやつはミントの腹パンを食らって悶絶していた。


「お……おい、あの妹すごくね?」

「一発って……怖いんですけど……」


 周囲はそれ以上俺にヤジを飛ばすことはなかった、ミントが周囲をにらんだところ皆さん目をそらして酒や肉を口にしていた。


 ギルドに入り、素材買い取り担当部署に行く。


「あら、ユニさんじゃないですか? 何か狩ってきたんですか? 大丈夫ですか?」


 ミントがにこりと笑って宣言した。


「「私と」お兄ちゃんで狩ってきました、買い取ってください」


 そう言って牙を差し出す、討伐報酬と牙の素材としての価値が換金されるはずだ。


「これを……ミントさんが狩ったんですか?」


「「二人で」狩ったんです、何しろお兄ちゃんは「お兄ちゃん」ですからね」


 よく分からないというふうの受付を無視して牙を差し出す。


「あら? これは……ちょっと待ってください!」


 受付嬢はその牙を持って裏に引っ込んでしまった。


「ミント、あんまり人を威圧するもんじゃないぞ」


「だって、お兄ちゃんを馬鹿にしたらそりゃ腹が立つじゃないですか……」


 そうして少し待っているとギルマスが出てきた。


「これをユニが狩ったのか?」


 そう横柄に聞いてくるが、それなりの風貌をしているため言葉に重みを感じる。


「お兄ちゃんは支援ですね、狩ったのは私です」


 ギルマスが目を丸くした。


「いやいや! これ普通のイノシシじゃなくビッグボアの幼生だぞ!? 支援があったってそれなりの場数を踏んでないとキツい相手だぞ」


 そうだったのか、魔物狩りなんて初めてだから頑丈なイノシシ程度にしか思っていなかった。


 そしてミントは腕をカウンターに乗せて、腕相撲の姿勢をとった。


「お兄ちゃん、バフよろしく」


「ああ、分かった」


 ギルマスはミントがなにをやろうとしてるのか分かっていないようだった。


「ヘイギルマス! カモン!」


 何か変なノリで挑発をするミントにギルマスはようやく意図に気づいたのか手のひらを向けてきた。


「加減はしないぞ?」


「問題ないですよ? 負けたら私たち兄妹を認めてくださいね?」


「おいユニ、良いんだな? 大事な妹が怪我の一つもするかもしれないぞ?」


「御自分の心配をした方が良いですよ?」


「ああもう! じゃあ始めッ!」


 ビダーン


 妹バフの効果で力が強くなったミントに即手の甲を台たたきつけられるギルマス、痛そう……


 ギルマスが手を離し、手のひらを痛そうに振りながら言った。


「確かにすごい力だな、しかしこれだけ強いならユニが必要か?」


「私の強さはお兄ちゃんの強さですから!」


 ドヤ顔をするミント、確かにそうだろうがな。


「ところでユニ、回復も出来るならこの手を回復してくれないか? 痛いんだが?」


 ギルマスが真っ赤になった手の甲を見せながら言う。


 俺はヒールを試してみる。


 ――

 妹ヒールをギルマスに使用

 ――

 ピコ!


 ――

 Operation is not permitted!

 ――

 なにも起きなかった、やはり妹ヒールは妹専用という意味らしかった。


「無理みたいですね」


「どんだけピーキーなスキルなんだよ……」


 そうしてビッグボアの討伐報酬でその日の夕食の材料を買いそろえた。


 帰宅後、妹を眺めていると、妹の隣に出てくる項目に変化があった。


 ――

 ミント Lv.2

 ――


 どうやら強くなったようだ、数字が増えている。


 ――

 現在のステータス

 力「E」

 体力「E」

 魔力「F」

 精神力「F]

 素早さ「F」

 スキル「なし」

 ――


 力と体力のランクが上がっていた、どうやらバフをかけると成長補正もかかるらしい。


「どうしました? お兄ちゃん?」


「いや、何でもない」


 そう言いながら、コイツはどこまで行き着くのだろうと考えると期待と不安を覚えるのだった。

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