極めて優れた日本古典童話風のヒューマンドラマ

■いわゆる和風ファンタジーに属するスタイルの作品。形式としては昔話の形式である

■人の世界の理の外側に存在する生命体である『鬼』、当然人間社会の常識など知る由もない。
 その鬼の生活テリトリーには、人間の育てきれなかった赤子が口減らしとしてたびたび捨てられる。
 言葉と知恵を持たぬ鬼には野山の獣も、人間の赤子も区別はつかない。当然のように赤子の肉を食うて、いつしか鬼は言葉と知恵を身につける。人間の社会を知らぬ鬼はそれが当然のことと思っていた。いつものように捨てられた赤子を食らおうと思うと一人の女性がそれを阻止しようとする。それから鬼と赤子とその女性との3人による奇妙な暮らしが始まる。そしてそれは暖かくも悲劇的な、鬼の悲しい運命の始まりでもあった……

■丹念で精緻な言葉運びが、情感豊かな物語世界をしっかりと作り上げている。ラストシーンまでの流れは単なる安逸なハッピーエンドに終わらせない、とても深みのある読者の心の中に強い印象を残してくれる。とても良質の物語譚だ。

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