第7話 現代はSNSが発達してますからね。人と人の距離が以前より近くなりやすいとは思うんです。まあ、関わる人がいないなら距離なんて関係ないんですけどね。

『はじめまして』


 そんなメッセージが来た。

 今はベッドの上でYootubeを見ていた。

 いつも通りソシャゲの通知かと思ったら、これですよ。

 さて、ど、どうしよぉぉ!?!?


 ここ数日で4つも連絡先をゲットしてしまったから、いつかおこることではあったんですけどね、もうちょっと予兆というか、警告というか、そういうワンクッションが欲しいわけですよ陰キャですしおすし。あ、でも、ワンクッションの置き方がないわけで、そのワンクッションをメッセージに送るためのワンクッションが必要なわけで、そのワンクッションがって無限ループ突入しちゃうわけで。


「待てよ……」


 うん、一人で呟いてしまった失敗は後で何とかするとして、これ、待たせるのは悪では? あの、『あ、ごっめ~ん、お風呂入ってた~』と同じ感じになってしまうのでは? 即断即決! そりゃー!


『はじめまして』


 ふぅ……


 勢い任せで送っちゃったけど、誰から?

 安木さんからでした。安らがせて~、って、名前いじりは凜果さんからもおこられる。

 って、待って?

 安木さんから来たメッセージは『はじめまして』、俺が送ったメッセージも『はじめまして』……全く同じ!

 駄目だって、これじゃ『うっわ、この先輩つっまんね~』とか、『パクってんじゃねえよくそが』とか、さすがにないない、だってあの見た目だよ? ちんまり子ちゃんだよ?(失礼)


『おんなじですね?』


 脳裏に、あの笑みが……

 あれ、『おんなじですね』……?

 ま、まさか、まさかまさかまさか……!?

 意訳するとさっきの……?

 ち、ちがうっても~! あわてんぼうさん!


『せんぱいは今何してますか?』


 え、そんな彼女みたいな……

 なに、気になっちゃうのかい、お嬢さん。

 今は貴方との逢瀬を楽しんでますよ、ははは。

 逢瀬?


『もしかして、おいそがしいでしょうか?』


 あ!?

 返事返してない!?


『大丈夫です』


 いきなり後輩ちゃんに気を使わせる先輩って何?

 パワハラだパワハラ。

 ここは先輩らしく……

 あれ、今までも後輩って存在はしてたのに、そのすべてと関わりがないぞ……?

 どう接すれば? 焼きそばパン?


『焼きそばパンはお好きでしょうか?』

『や、焼きそばパンですか……? えっと、好きな方かもしれません』


 こっちの質問が悪いね、ごめんね。悪気が無いからって許されることじゃないので、今度焼きそばパン貢ぎますね。


『せんぱい、私にしてほしいことありませんか?』


 お、おぅ……

 してほしいこととな。


『私にできることなら何でもしますよ!』


 そのメッセージの後に『ふんすっ!』と力こぶを作っているキリンのスタンプが贈られてきた。キリン、だよね……?

 まって、何でも?

 え、えっっっっ!?

 

 ちょっと妄想タイム。長考に入ろう。ここは考える盤面だ。


 ……


 ……


『存在してくれてるだけで尊いです』

『せんぱい?』


 はっ!

 手が勝手に、まさか、何か宿って……?

 もしくは天使パワー。

 神のお導きかも。


『してほしいことはありますか?』


 くらえ、質問返し!

 これをくらったプレイヤーは、困惑する!

 もちろん送った側も困惑済みだ!


『このままおはなししてほしいです』


 ……



+++



 降って湧いた人生のボーナスタイムを終え、一息。

 今日は麦茶、そしてせんべい。

 穏やかな気持ちでクッションに座りながら過ごしていると、再びスマホが震えた。


『グループ通話が開始されました』


 oh……


 グループ……?

 あれ、参加して……してた!

 凜果さんとさっちーさんとのグループがあった。

 clovehorseクロブ・ホース? あの陽キャアプリ使ってくれませんか。盗み聞きできるんですよ。あの機能が欲しい。というか、clovehorseって、教室の状態を拡大させたアプリ。陽キャはいつでもうるさくて、陰キャはそれに口をはさむなと。怖い世の中。


『ねてんの?』


 ……

 返事に困る。

 これは、どうすべきだ?

 『起きてます』→『は?なんで無視してんの?』

 『今気づきました』→『貴様何様のつもりだ、我を待たせるとは極刑に値する』


『起きてます』


 危なかった……


『なんで無視すんの?』

『参加してもいいものかと、思っておりました』

『しろし』


 突撃ー!


「ひっしーねてるのかとおもったー」

「来るところだったって」

「そっかー、何してたの?」

「えっと、宿題ですかね……?」


 机の上に開いてありますからね!


「ちょうどよかったー」

「りんかたちもやるとこ」


 ……普段から一緒に宿題をやっていると……?

 なんて、なんて素敵な状況……


「退散します……」

「あ゛? なんで」

「ナンデモナイデスヨー」


 とっても居心地悪いんですけど。

 まるで、百合に挟まる男……許さねえからな!


「ひっしーって頭いい?」

「良くないです」

「どんくらい?」


 え、測られてる?

 一回落ち着こう、はい、深呼吸すぅ~……はぁ~……

 で、こういう時は試験の順位をこたえればいいはず。

 前回は333位中、155位。ほぼ真ん中。

 そのまま伝えると、どうなる?

 『クソ雑魚ナメクジプギャー』になる可能性……いや、誤魔化してバレた時、『ふ~ん、うちらだましたんだ~……わかってるよね?』になる可能性も。

 しょ、正直が一番ですよね! 最初から決めてました!


「前回の試験では155位でした」

「え、あたまいーじゃん!」

「チッ」

「ヒェ……」


 舌打ち、お、怒っちゃうかんな~許さないかんな~……これは顔面偏差値高水準にしか許されないですねすみません。


「ウチは250位で、リンカは330位だよー」

「は? なに勝手にいってんの?」

「どうせバレるんだしいいじゃーん」

「よくないし」


 ほー、それはそれは……


「あ゛?」

「なんで!?」


 なんでバレた!?

 え、怖すぎる!?


「バカ二人でがんばってるのー」

「りんかはバカじゃないし」

「あはは……」

「何笑ってんの」


 怖いですって!?

 貝になりますよ?


「期待のホープ、よろしくねー」

「何をですか?」

「え、これから課題一緒にやってくれるでしょー?」

「やんないの?」

「ヤリマスヨ」


 そう言うことになった。


「じゃー、カメラねー」

「え゛……」


 今の状態を映せと?

 どういう状態かわかってますか?

 学校から帰ったら、即パジャマ派の人間ですよ?

 映せるとお思いで?


「ほい」

「ん」


 普通にするじゃん。

 えぇ……二人ともめちゃくちゃかわいいやつ着てる……

 これだけで勘違いとかしないですけど、普通に恥ずかしい。こっちもかっこいいの……そもそも家にそんなものないですわ。


「あれ、ひっしーカメラ映ってないよー」


 今の状態は、二人の部屋着姿を一方的に覗いてる形。

 そして、自分の格好をもったいぶってるみたいな……


「あ、みえたみえた」


 恥はかき捨てって言いますもんね! 絶対今じゃないけど。



+++



「おつかれー」

「おつかれさまです」

「ふん」


 本日の課題を終え、休憩。

 もちろん、同じ場所にいるわけではないので、各々の飲み物やお菓子で。

 仲間意識のようなものが生まれている。

 共に戦った戦友のような……多分勝手に思ってるだけだなこれ。

 

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