第4話 懐に入られたらおしまい

「小野田くん、おはようございます」

「え、お、おはようございます」


 あの先生のせいで、おかげで?

 朝、木森さんとあいさつを交わすようになった。


「あの、昨日、美ヶ原さんと……」

「ひっしーおはよー!」

「おはようございます……」


 これが肩パン……?

 パンチじゃないから肩平手打ち?


「はよ」

「あっ……美ヶ原さんもおはようございます」

「あっ、って何よ」

「……なんでもないです」


 なんで出るんでしょうね?

 話始めるときに勝手に出ちゃうんですよ……


「って、きもりさんじゃーん! はよー!」

「おはようございます」

「ひっしー仲いいのー?」

「いやぁ、あはは……」


 なんていえばいいのか。

 朝挨拶する関係ですって、俺からすれば進歩したなって感じだけど……さっちーさんたちからしたら……


「と、友達です!」


 木森さん……


「っ、そ、そうなんだー。いきなりおっきい声出すからびっくりしちゃった」

「あ、ごめんなさい……」

「おけおけ。さっちーでいいよー。あんまかかわりなかったけどよろしくー」

「はい……よろしくお願いします」

「んー、もーりー? なんか外人みたいだしー。下の名前はー?」

「晶子です」

「あっきーね。よろしく~。ほら、リンカも」

「なんで私まで……」

「ひっしーの友達ならリンカの友達でしょー」

「違う」


 美ヶ原さんは自分の席に向かってしまった。


「あー、ごめんねー。じゃ、ひっしー、お昼一緒に食べよーねー」

「あ……はい……」


 さっちーさんと美ヶ原さんは席が近いからか、席に戻った後でまた話し始めていた。


「あの、じゃあ、私も席に戻りますね」

「は、はい」



+++



「あの……美ヶ原さん?」

「あ゛」

「ひぇ」


 昼休みになって、結局ご相伴にお預かりに……あってる、これ?

 少し聞きたいことがあって話しかけたらキレられました、まる。


「あー、ひっしーって、昨日リンカのことそう呼んでたっけ?」

「え、呼び方ですか……?」


 ぼっちは基本的に人の名前を呼びませんよ……?


「えっとねー、リンカは苗字で呼ばれるのやなんだって」

「そうだったんですか……」


 だから朝も……?


「そりゃそうでしょ」


 まだ少しイライラしているように見える。


「美ヶ原って明らかにいじってくださいみたいじゃない」

「そんなことは……」

「あるの!」

「はい……」


 あるらしいです。


「ぴったりだと思うよねー、ひっしー?」

「ソウデスネー」

「はぁ?」


 なんで俺だけ!?


「むかつく」

「え……ご、ごめんなさい」

「バッティングセンターいくわよ」

「え?」

「あけときなさい」



+++



「あの人だよね……」


 女の先輩二人に混ざって一緒にご飯を食べてる男の先輩。

 写真で見せてもらった顔と多分一緒。


「優しそうな人だけど……」


 友達……いないんじゃ……?

 私の仲間なんじゃ……?


「この教室に何か用でしょうか?」

「ひ」


 いつの間にか女の人が近くにいた。

 多分先輩だよね……


「???」

「だ、大丈夫です! しちゅれいしますっ!」



+++



「それっ!」


 凜果さん(そう呼ぶことになった)は、一人でさっさと打ちに行ってしまったので、さっちーさんとストラックアウトで遊んでいた。


「けっこーむずいねー? はい、次ひっしー」

「運動苦手なんですけど……」

「じゃぁ~、勝ったら何でも聞いてあげる~」

「勝ったらって……さっちーさん、一つも当てられてませんよね」


 ほとんど届いてすらいなかった。


「こんなにむずかしいんだねー」

「初めてなんですか?」

「そーだよー。リンカについてきたときも一人でこれやるのはなーって」

「そんなもんですかー」

「そんなもんなのですよー」


 さっちーさんめちゃくちゃ話しやすい。

 こちらの陰を打ち消してなお、陽に振り切れてる……

 つまり、陽の人と関わる限り、陰の者ではなくなる……?

 これは、大発見かもしれない。

 あ、でもこっちから話しかけるとかできないわ。

 出来たら陰の者でも、陽よりの陰の者だ。

 え、じゃあ、俺は陰よりの陰……?

 あは、あはは……


「ひっしー?」 

「ハイナンデスカ」

「大丈夫?」


 そんなわけないない。

 ほかの人とおんなじくらいだって。

 普通、普通だから。


「ごめんなさい、どうしましたか?」

「それでラストだよー?」

「え?」


 すっぽ抜けました。


「あっ……」

「あはははは」

「そ、そんなに笑わなくても……」

「だって、どこ、ねらって、っ、壁に……」

「笑い過ぎですから!」

「たのしそうじゃん」


 いつの間にか凜果さんがこっちを覗いていた。


「あ、終わったのー?」

「すっきりしたー。りんかもそっちやるわ」

「お、勝負するー? 負けたら何でも聞いてもらうよー?」

「なんて勝負してんの……?」

「ちなみにウチとひっしーは同点だからねー」

「二人に負けるかもってことー?」

「いやー、負けはないんじゃなーい?」

「? ま、やるわ」



+++



「8枚ってすごいですね……」

「ねー。前テレビで見たプロと一緒なんだけど」

「たまたまでしょ」


 ちなみに罰ゲームは『しばらく鞄持って』だった。優しい。

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