第3話 注進





 

 扁平なカエル顔のカヨさんは、のほほんと見えるのだろうか。

 何も知らず幸せそうな顔をしているのが癪に障るのだろうか。

 友人と思っていた人から注進されて、ひどく驚くことがある。

 ――あなたのこと、あの人、こう言っていたわよ。

 同じ話を三度聞かされたときは、さすがに勘弁してと思った。


 あなたはいい人だと言うけど、あちらはあなたを少しもよく思っていない。

 そのことを知っていて教えてあげないのは良心が許さないのであるらしい。

 

 はるかむかし、ふと耳もとに口を寄せた家臣の注進を、織田信長は聞き捨てた。

 せっかくの好意を無視された家臣は恨みに思い、出奔して一向一揆を扇動した。

 制圧の際、部下に命じて生け捕りにさせた旧家臣に、かつて注進を聞かなかったときの厭な顔を見い出した信長は、ふと笑い「この男を斬ってしまえ」と命じた。

 

 少しむかし、俳壇の首領たる高浜虚子は主宰する俳誌『ホトトギス』に掌編小説「厭な顔」を発表し、自分から離反してゆく門弟の水原秋櫻子に報いた。怖い話。

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