第7話

 ラップトップの画面。彼女が、真夜中の駅前を駆け回っている。監視カメラがどんどん切り替わっていく。


 彼女は。左の拳で殴り、右の脚で蹴る。警備用の機械が、まるで子供のおもちゃみたいに、壊されていった。


 彼女を見ていると、なぜか、安心する。自分がここにいてもよいのだと、錯覚できる。


 親もいなければ、自分の出自すら分からない。気付いたらそこにいるだけの、何もない人生。だから、かもしれない。彼女に抱かれると、身体の中で、何かが燃える。生きていたいという思いのようなものが、芽生えていく。


 画面の向こうでは、彼女が戦っているのに。彼女とのセックス。なんとなく、思い出す。

 彼女は鎖を巻いている。その鎖が、自分の身体に食い込む。ちょっとだけ痛くて、身体に無数の擦り傷ができる。そのわずかな身体の感覚が、自分自身に、生きているというよく分からない実感を、与え続ける。


「おっと」


 彼女。もう、終わったらしい。


 黒いナイフの男に通信を入れる。


『こちらブラックナイフ。どうしたアクセラ』


「終わったよ。チェインが全部壊した。駅前の機械に狐が憑いてたよ」


『そうか。よくやった』


 雑音。


「セックス中?」


『ナイトリボルバーに股間を噛みちぎられる直前だよ』


「こわいなあ」


『助かった』


「きみの股間が助かったわけだ」


『まあな。報酬は、その部屋をやるよ。防音設備だから、ホテルよりはいいだろ』


「それはありがたいな」


『じゃあな。うわっ』


 通信が切れた。噛みちぎられたのだろうか。

 彼女が帰ってきたら、彼女が舐めてくる前にこちらから舐めようと、思った。

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