バトルシーンを描いた小説

「――――【少女よ大志を抱けガールズ・ビー・アンビシャス】」


ウィリアム・スミス・クラークかのように差し出された右手から、一筋の光線銃レーザービームが放たれた。

間一髪、避けた私の頬を掠める。

たらり流れる一滴の血。微かに漂う焦げた匂い。

それは、取り残された髪の毛が焼けた証拠であり――――


(この出力が直撃すれば即死もあり得る、か……)


魔法少女の標準魔力障壁アンチマジックバリアを以てして防ぎきれないことの証明でもあった。


「早く、"妖精郷の鏡"の鏡を持って逃げて!」

「あ、あ、あ……」


後ろの新人は腰が抜けて立てなくなっていた。かろうじて、その手の鏡を離すことはしていないが、状況は最悪だった。


「んー、怖かったら全部投げ捨ててもいいんだよ~? ミルルが後はぜ~んぶなんとかしといてあげるから」

「あなたがするのを防ぐために私達がいるんだけどね?」

「オバさんも、すっこんでていいんですよ~~? 引退してもう15年ですし、歳には敵わないんじゃないでしょうかねぇ?」

「オバっ」


癇に障るが否定はできない。妖精少女ミチカとしての活動は15年前までのこと、今では一般人として生活する鈴木美知佳である。

しかし、後輩が妖精郷の鏡――かつて私が守り抜いたもの――を持って逃げ惑う姿を見かけてしまった。無視するには縁の近い話に過ぎた。

三十路にもなって魔法だなんてこっぱずかしいが、魔法少女の外見は何歳で変身しても一様である。かつてのような若々しい肌に、魔法で強化された身体能力。自分は魔法使いではないから魔力はかつてより落ち込んでいるが、そもそも自分の魔力ではなく妖精さんたちの力を借りて戦うのが妖精少女ミチカの特徴である。


「そんなこと言っていたら、罰を当ててやるんだから! 【風妖精の矢シルフィード・アロー】!」

「あ~ら年甲斐もな~い、っ!」


上空へ飛びあがると同時、魔力で召喚した弓で風妖精の力を乗せた矢を放つ。それは必中の追尾弾、避け切ることは叶わない。

局所的なつむじ風、或いはカマイタチの名の妖怪。矢の形を取ったそれは目標のファンシーな衣装を切り裂いた。彼女もまた、魔法少女である。


「チッ、乙女になんてことするのかしら。年寄りの若者への嫉妬ほど醜いものはないですよ~?」

「うるっさい!」

「じゃあこちらも遠慮なく」


――――斜めに構えた身体、少し曲げた右足。下に構えた腕を回して天井を指さした!


「【早起きは三十分の徳サンデー・モーニング・フィーバー】!!」


その指先から天へ放たれた光条が、宙で弾けて降り注ぐ。

ここは夜の住宅街。それはまるで流星群のように輝いて、燃え盛る隕石が如き威力を持っていた。


「くっ、【水妖精の遊び場ウンディーネ・レイク】!」


相手に倣って上に掲げた右腕。開いた手のひらから広く水を展開し、光線銃を乱反射させ減衰する。


「器用な能力だこと」

「単純な能力で助かるわ」

「じゃあ堕ちなさい!」


五本指から低威力の乱射。一発一発は大した脅威ではないが、避けているうちに飛行能力風妖精の加護は減衰していく。


「この、うざったい!」


風の妖精さんたちからもう疲れたのサインが出て、飛行を続けることを諦めた。


「そろそろ反撃のひとつでもしないとね! 【火妖精の憤怒サラマンダー・バースト】!」


それは単純な火炎放射、しかし敵だけを焼く妖精の炎。周囲への被害を生まない安全な攻撃だ。

敵はこれを飛びあがって避ける。飛行能力はないようだが、魔法少女の跳躍ならば民家の屋根に飛び乗るくらい造作もない。


「それじゃ、もう一度。【少女よ大志を抱けガールズ・ビー・アンビシャス】」


先ほどと同じく直線の光。しかし既知の予備動作の上、より距離を置いた状況では回避に難はない。


「同じ手は喰らわな、あ?」


直後、目にしたのは自分から視線の先に向かって伸びる一筋の光であった。


(――――ああ、だから光線使い、だったのか)


それは背に守った妖精郷の鏡に反射した光線銃。


「えっ、あ、うそ……あああああああ!!」

「バイバイ、オバさん」


心臓も肺も失って。

いやらしい笑みを浮かべた敵が、最期に見た光景だった。

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