ソシャゲにはソーシャル性が欠落してる


「……最近のソシャゲって、ソーシャルじゃないよね」


 昼食時。支倉さんは不意にそんなことを言い出した。


「どうしたんですか突然」

「いやさ、私がマルチプレイとかあんましないだけかもなんだけど、ソシャゲって表現よりもスマホゲーって表現のがしっくりくるなあって思って」

「はあ……」

「そもそもソシャゲのソーシャル性ってどこにあるんだろうね。イデア界?」

「……あの、これ哲学の話ですか?」

「いんや。ソシャゲの話。ソーシャルなお話」

「ソーシャル……?」


 なんだろう、何が言いたいのかよく分からない。


「今の時代、ソーシャルって言ったらソシャゲよりむしろSNS――ソーシャル・ネットワーキング・サービスの方だと思うんだけど、SNSのソシャゲ性はリツイート数を稼いだり『いいね』を稼いだりすることになるでしょ?」

「同意を求められても……」

「で、その時の最適解はなにか分かる?」

「なんですか」

「炎上」


 支倉さんは短くそう言って、水筒に入れていたあったかいスープをずずっと飲んだ。この寒い日にあったかそうなスープを飲んでいるところを見ると、少しだけ分けてもらいたくなる。


「……炎上なんてしたら、ゲームオーバーじゃないですか」

「真のゲームオーバーはアカバンでしょアカバン。アカウントをBANされるあれ。運営の不興を買って永久凍結されたらもう無理だし」


 ――BANって「禁止」とか「~を禁じる」とかそういう意味だっけ。


「逆に、凍結とかアカバンとか、そういうのさえ回避できればなんとかなると思う。まあ、炎上の内容によっては実質ゲームオーバーに追い込まれかねないけど」

「はあ……んでも、SNSのゲーム要素をそういう数字にだけ求めるのはあれじゃないですか?」

「というと?」

「もっとこう、交流関係の広がりとか人間関係の充実感……コミュニケーションの喜びとかそういうのを」

「それ、数値化できるの?」

「はい?」

「数値化。ほら、HPとか攻撃力とかゲームの勝敗って数字で決められるようにしとかないと公平性に欠けるでしょ? ……まあ、欲しいものリスト晒して貢がれた金額で勝負とかなら、そういう方向で数値化したことになるかもしんないけど……」

「…………支倉さんに友達ができない理由、なんとなく分かりました」

「え? なんでそういう話になるんです?」

「支倉さん、敬語はやめるんじゃなかったんですか?」

「あっ」


 口元を押さえ、支倉さんはこほんと咳払いする。


「ともかく! SNSをソシャゲとして捉えるとやっぱりそういう――他の人からもらった反応の量が勝負の指標として使えると思う」

「……はあ」

「で、その観点でソシャゲを見ると、やっぱりソシャゲに分類されてるものにはソーシャル性が足りないんだよね。ソーシャル性が」

「つまり、ソシャゲはみんなランキングとか競争の要素を導入するべきだと?」

「そうは言ってない。そんなことしたらクソゲールート一直線だしね」

「じゃあどういうことなんですか」

「いや、ソシャゲって呼ばれてるけどソーシャル要素なんて猫の額ほどもないよねって話。ガチャって言う割にボタンを押すだけで完結しちゃうしなにもガチャガチャしてなくない?みたいな」

「……はあ」


 結局、なにを言いたいのかよく分からないままだったがまあいいか。

 僕はペットボトルのミルクティーを一口飲んで、ゲームの画面に向き直る。今はイベントが開催中だ。イベントを進めて、せめて限定キャラの加入だけでも済ませておかないと。


 ……でも。このイベントを進めるにあたって他人の存在を特別意識することなんて、よく考えたらたしかに、なかったかもしれないな……。

 フレンドはNPCのように使えるし、フレンド抜きでもクリアすることはできる。

 このゲームで社会ソーシャルを意識する機会が皆無に等しいことを思うと、なるほどたしかにソシャゲにはソーシャル性ってやつが欠けてるのかもしれない。


(了)

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