町の光が心を融かす

チデン

第1話  始業式

 始業式の朝、担任の先生が教室に入る


「今日から一緒に勉強する転校生を紹介する。入ってきなさい」


 先生の一言で一気に教室が騒がしくなる。

 教室の扉を開けて中に入り、先生に言われた通りに自己紹介をする。


厳原隼人いづはらはやとです。よろしくお願いします」

「はい!先生、厳原君と仲良くなるために厳原くんへの質問コーナーを要求します」


 とバスケ部っぽい男子が言った。


「始業式まで時間あるし、いいぞ」

「じゃあ俺から。好きな教科と嫌いな教科は?」


 さっきの奴が無難な事を聞いてきた。とりあえずふつうに返す。


「好きなのは古典、地理、化学で嫌いなのは数学、物理です」

「はーい」


 次に手をあげたのは、顔のパーツの整った可愛い女子だ。


「厳原君は彼女いたことありますか?」


 来ると思っていた質問だが2本目で来るとは思っていなかった

 元カノなら1人いるが、言うと確実に面倒な事になるので


「いません」


 と言うとまた賑やかになった。まじかだの意外だの。

 人の彼女ぐらいどうでもいいだろうに

 その後もみんなの質問に答えていると


「よーし、そろそろ時間だー体育館いくぞー」


 と言われたのでみんなで並んで体育館に行く。

 その途中でそっと抜け出して階段を登る。

 屋上へ行くのだ。始業式の校長のありがたい話など聞く気になれない。

 この学校の屋上が空いていることは朝確認していた。

 屋上に続く扉を開け屋上へ出る。

 給水塔の上に出るため梯子を登る。登り切ったそこは絶景だ。

 A高は少し高い丘の上に立っているのでここからこの街を一望できる

 学校が終わるまではここで寝ようと思い目を閉じるといつのまにか意識は暗い闇の中に落ちていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目を開けると、太陽が真南より少し西に傾いていた。

 下を見ると最後と思わしき集団が下校しているところだった。

 腹が減ってきたので昼は何を食おうか考えていると下で扉が開く音がした。


「ここにも居ないのかな〜」


 という発言とともに出てきたのは茶色の髪を肩の下の辺りまで伸ばした女の子だった。

 ふと彼女が振り返り目があった。朝の質問コーナーで彼女がいたかと聞いてきた子だ。

 そのまま梯子を登って来て、俺の目の前で腰に手を当てて立った。

 なんだか少し怒っている感じだ。


「なんで始業式前に消えるの?あ、私冷水綾乃ひやみずあやの

「校長のありがたいお言葉なんか聞く必要がないから。あとなんでわざわざ冷水がここに来たの?」


 突き離すたように冷たく言い放つと

 はぁ、とため息をつかれた


「心配したからだよ、急に消えるし」


 何故初対面の人に心配されるんだろうと思っていたらまたはぁ、とため息をつかれた。


「やっぱ覚えてないんだ、ならいいけど」

 よくなさそうに言われても困る。

「ごめん」


 とりあえず謝ると


「謝罪の気持ちがあるなら今から付き合って」

「何するの?」

「お昼ご飯をうちで食べてもらいます」


 どう言うことかわからず黙っていると


「あ、うちラーメン屋やってるから食べてってよ」


 やっと納得した。了承の意を伝えると嬉しそうに笑った。

 可愛い笑顔だと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る