第8話 夢のような友情と時間





---5月24日---



~月曜日~中間試験当日



「んっ...」

照らす朝日とすずめの鳴く声。

「んん〜...ん?」

彼女は重いまぶたを開けて、視界に映る制服姿の俺を見て目を覚ます。

「え?」

「おはよっ。やっと起きた」

俺の声を聞いて、目を掻きながらゆっくりと体を起こす。

「...おはよう?」

「うん。おはよう」

不思議そうに答える彼女は、同じ言葉を返す俺を見て確信する。

「やっちまった...」

しっかりと朝まで寝てしまった事に、絶望し這いつくばる。

「まあ、きっと何とかなるよ...あれだけ勉強頑張ってたんだし」

「...そうかなぁ?」

俯いたまま、不安そうに答える。

「うん!頑張ろっ!」

「...おぅ」

そう言うと彼女はゆっくりと体を起こす。

「そんな事より、早くしないと遅刻するわよ?」

館宮さんが制服のリボンを付けながら忠告する。それを聞いた彼女は、恐る恐る時計へと目を向ける。

「...え?」

現在〜07:45分。

朝礼〜08:15分。

ここから学校まで徒歩30分。

it's a パジャマ。

オワタ。



彼女は今から着替えて顔を洗い。どうにか朝食まで食べて間に合わないか、テスト前に頭をフル回転させて考えた。


そして導き出した結果...





「ありがとう未帆さ〜ん」

未帆さんというチート技に手を出し、

「いえいえ」

高速移動を可能にする、黒き燃料エネルギー車〈リムジン〉を走らせて、何とか間に合ったのだった。

「すみません、私達まで...」

「ありがとうございます」

校門前に着き、朝登校する生徒の視線が集う中、車を降りてお礼を言う。

「いえそんな。メイドとして当然の勤めですので」

手を前で重ね綺麗なお辞儀と共にそう言い残し、未帆さんは車を走らせる。

一日お世話になりメイドとしての仕事もこなした上、一切その疲れを見せず去り行く姿、まさに——

「メイドの鑑だ...」




教室に入ると同時に朝のチャイムが鳴る。

遅れて5分後に担任が大きな欠伸あくびを隠す事なくなびかせながら入ってきて、徐に口を開く。

「はぁい。皆席につけ〜」



「「「「着いてるんだが」」」」



空席の無い教室に寝ぼけ眼と声で言う担任に、席についている皆がまたも意識の中で口が揃う。

「ん?おぉ、優秀優秀」

教壇に立ち、我が放漫さをほっぽり出して生徒達を褒める。そう、これが担任。

「(あぁはならずに生きよう...)」

日々の担任を見て、毎回そう心に言い聞かす。ある種の反面教師というやつだ。


ちなみに気になる傷跡は右手首にガーゼ処置。担任メンヘラ説浮上。



「さて、今日は何の日でしょう?」

教壇に手を着き問いを投げ掛けるが、正解を答える間も与えず言葉を続ける。

「正解は皆大好き中間テストの幕開け日でした〜」

「「「えぇ〜」」」

生徒からの肩を落とす声とサッカー部男子のブーイングが教室にめぐる。

「はいはい、落ち着け〜。そう焦らずとも直ぐに用紙配ってやるから」

慣れた様子で生徒からの声を受け流し、手元のテスト用紙をパラパラとめくって見せ、窓際の席から順に一枚ずつ裏向けで配られていく。

「ほいっ」

涼哉から手元に回ってきたテスト用紙を見て、

「ありがと」

俺は端の席に座る彼女に目をやる。彼女は両の手で胸を押さえ、柄にも無く緊張した面持ちで小さく息を吐いていた。

きっと、ここ数日と昨日。怒られ、時には言い合いになるも、それでもずっと丁寧に教えてくれていた館宮さんへ、彼女なりに結果として恩返ししたかったのだろうと、その日の夜。目を瞑って1人考えていた。


《キーン、コーン...》


チャイムの音が鳴り、担任の開始の合図と共に皆一斉に用紙を捲りペンを握って筆先を走らせる。




いつもは平均点さえ取れればそれでいいと思っていた俺だったが、今回は何故か少しだけ、ペンを止めることを躊躇ためらう自分がいた。






---5月26日---


~水曜日~



「やばい...心の臓が今にも胸元を引き裂いて踊り出しそう」

彼女が一枚の紙を強く握りしめとても深刻な面持ちで口ばむ。

「なんだよそのカオスな例え...」

彼女の変わった例え方に瞬時にツッコむ。

「ま、まあ。分からなくもないわ...私も久々に胸が高鳴っているもの」

彼女同様、小刻みに手元が震えながらもそれを隠す様に強気な笑みを浮かべる館宮さん。ただその目は笑っておらず、どちらかと言うと追い詰められてか狂気さを帯びていた。

「いや〜緊張するね〜」

前三者とは異なり、緊張の言葉を口にするも全くその感じを思わせない口調で、1人違った意味で胸を高鳴らす涼哉。



そう、今俺たちの手元には5教科全ての結果がある。

そのたった一枚の紙に受験時程、多大な時間を消費して臨んだ訳でも無いはずなのに、何故か僕たちの足を止めるのには軽く容易よういで、掌に重くのしかかっていた。



「どうする?一斉に開く?」

放課後の図書室で4人。円になるように並び、張り詰めた空気の中俺は皆の顔を覗

く。


「そうね。変に引き伸ばすよりけり一気に見た方の方が良いのかものしれないわね」

俺の提案に乗るも、動揺から日本語がクセすごになる館宮さん。


「皆...今までほんとありがとう」

一つの小説のラストシーンの様なセリフを吐き涙ぐむ彼女。


「いいね。これが青春なんだねっ」

1人客観的な視点で楽しんでいる涼哉。


「いいね?いっせーのせっ!で開くよ?」

「そうよ。なんじ如何いかなるなる事も先送りは家事前睡眠夜中4時って言うものね」

「あぁ...もし次生まれ変わったら鳥になりたい」

「あっやべ。反応して開いちゃった...」

皆がそれぞれの世界に入ってる中、静かに開いた用紙を閉じる涼哉。



そんなこんななやり取りが数分続き、ようやく息を揃えて



「いくよ...?いっせーのーせっ!!」


勢いよく中央に各々の成績が顔を見せる。



________________________

1年3組 滝宮 功樹


古文 数A 英 生物 日本史 合計


75 70 64 82 80 371

_________________________________


_________________________________

1年3組 館宮 誘希


古文 数A 英 生物 日本史 合計


98 95 98 97 100  488 

_________________________________



_________________________________

1年3組 詩波 涼哉


古文 数A 英 生物 日本史 合計


98 100 100 99 98 495

_________________________________



かく各々の結果が開かれるも、俺達は自分の結果を差し置いて真っ先に彼女の手元に目がいった。



       ・

       ・ 

       ・

       ・



_________________________________

1年3組 花澤 栞


古文 数A 英 生物 日本史 合計


61 54 41 43 51 250

_________________________________




「・・・」

震えた両の手で開き、そこから薄らと見えた成績に彼女と俺達の時が止まったかのような、刹那せつなが凝縮された。時奥。智覚永劫ちかくえいごう、開く瞳孔どうこう



「え...」



漏れた吐息声。既に開いた口から一晩置いたような掠れて今にも消えそうな声。

そんなまだこの現状を消化しきれていない彼女に、一番に声を掛けたのは館宮さんだった。



「やった...やったじゃない!!」

その初めて見せるような高揚をまとった館宮さんの声に続き、同じく彼女に称揚しょうようの声を上げる。

「すごい...すごいよ!」

ここ数週間の間、彼女の学力レベルを間近で見てきてたがゆえに、この良くも悪くも無い。いや、どちらかと言うと恐らく悪い成績に、全教科満点を取ったと同じくらい俺達含め彼女にとっては衝撃で言葉が出ず。出ても単調な言葉しか出ない様な状態の中、浴びせられる称賛の声に彼女自身もようやく、この現実に追いついた。


「えっ...嘘。これ本当にあたいの?」

「そうよ!あなたのよ!」

目にした現実を疑うも、それに答える館宮さんの嬉しさ混じりの声に彼女の疑いは確信へと変わり、再度自分の成績表を目にした後。

握りしめた成績表を胸に抱き、俯きながら小刻みに体を身震いさせて、


「ぅぅぅううぅぅうううううううぁやあったぁああ!!!」


喜びのあまり彼女は大きく声をあげた。彼女の喜ぶ姿を皆で囲むように俺達もその夕日爛漫らんまんな笑顔につられて歓喜した。





この日。

まだ少し、僕らの青かった関係が一つの春を越して、淡く、優しい夕焼け色に染められた“忘れない一日”となった。




「あ〜、えっと...あんた、じゃなくて。えっと...」

口をごもらせながら何か伝えようとするも、中々言葉が出てこずモゾモゾする彼女。

それに対し館宮さんは少し微笑んで、やれやれと言わんばかりな表情で彼女に優しく声を掛ける。


誘希ゆうきでいいわ」


「お、おう。分かった」

そう言うと、彼女は嬉しさを隠そうとするも照れさと一緒に顔から溢れ出し、鏡の自分に気付かないまま平然を装う。

「誘希...ありがとう!」

「おっ...おう」

その突然呼ばれた名前呼びと、彼女の口から出たとても綺麗な感謝の言葉に驚きと照れ臭さを隠せず、普段の口調を忘れる程動揺しながらも真っ直ぐ見つめる彼女の笑顔に、思わず目を逸らして彼女の言葉を受け止める。

「えっと、じゃあ誘希もあたいの事、名前で呼んでくれるって事だよね?」

「え?!なんでそうなるのよっ」

「なんでって...そうじゃないと変じゃん」

その至極しごく当たり前の問いに、館宮さんの聡明そうめいな脳は機能せず。疑問を覚えるも周りにいる俺と涼哉が同時に首を縦に振るのを見て、渋々と受け入れる。

「わ、分かったわよ...しっ...栞」

ほんのりと赤く染まった頬と図書室でなければ掻き消されそうなほど小さな声で呟く館宮さんに、彼女はまた嬉しさを隠し切れていない口元で答える。


「おう!」




「名前...独り占め出来なくなったな」

涼哉がニヤつきながらこちらにコソッと呟く。

「なっ!そんな事考えてっ」

俺の反応に笑いながら謝る涼哉の言葉にすぐさま否定したものの、2人のやりとりを目にして懐かしさと嬉しさ。安心の中にあった小さな寂しさを言葉で突かれた気がした。




-追伸-

優しい夕焼け色はもう今に、茜色あかねいろへと染めかけていた。








---6月18日---



~金曜日~球技大会当日



今日は球技大会。男子は《サッカー》《野球》《卓球》の中から一つ選択して競い合う。女子は《ドッジボール》《テニス》《バトミントン》の3種目。



俺は中学時代卓球部だった事と、あまり人気が無さそうといった理由で《卓球》を選んだのだが、何故かそれに涼哉まで着いてきた。サッカー部エースの涼哉にどうしてサッカーを選ばなかったのかと聞くと、どうやらサッカー部だからといってチヤホヤと担ぎ上げられるのが嫌らしい。まあ、納得の理由だ。

それと雑談なのだが先生の話によると、例年人気の無いバトミントンらしいのだが今年の選択者は過去一らしい。





体育館にて、上下青いジャージに身を纏った男子数人による台の上で玉を打つ音と、女子数人によるシャトルがラケットをかする音だけがこの有り余る広い空間に響く。



手に取った橙色のピンポン玉を指先から大きく宙へと浮かし、一方向に回る綺麗な回転軸は一切ブレる事なく、構えた手元目掛けて落ちてくる。


鋭く光らせた涼哉の眼差しは確かにその玉をしっかりととらえ、利き手に持ったラケットを深く引き、落ちてくるなタイミングを待つ。


待って。


待って。


待って。



玉はそのまま台の上をバウンドし、


とても綺麗なフォームで再度跳ね上がったピンポン玉の下の空を斬る。


その光景をただひたすら見続ける俺の横で、カウントマンがまた俺のポイントを一枚めくる。


「なあ〜、俺これ卓球できてる?」

サーブ権が移ると必ず1ラリーも出来ずに終わり、涼哉に移るとまた同じ空を斬る光景と共に俺に点が入る。こんなあまりにも2人競技とは思えない様なやり取りが繰り返される度に、自分がしっかりとこの競技をやれているのか不安になる。

「え?うん、出来てると思うよ!いや〜でもさすが元卓球部だね。手も足も出ないよっ」

「(え...なんか褒められたんだけど...)」

その名選手をたたえるようなとても綺麗な瞳と、真っ直ぐにこの競技と向き合い流れる汗を見て“涼哉が下手なだけだよ”と喉まで浮かび上がってきた言葉をギュッと締めて押さえ込む。

「やっぱ足技ならともかく手を使う競技は苦手だよ」

俺が流す汗とはまるで別物かの様に、涼哉が流す汗はその笑顔とオーラのせいか汗すらも涼哉を輝かせる真珠のアクセサリーに思えてくる。


「なあ、涼哉」

「ん?」

「...いや、やっぱり何でもない。続けよ」

「??おう!」

「(危ない...また言っちゃならない事を言いかけてしまった。気を付けねば...)」






“涼哉...その汗いつ流したの?”







運動場にて、女子達の歓声...いや悲鳴に近い声とボールを弾く金属音。汗を流す男子達の声の掛け合い。舞う砂埃すなぼこり。眩しく照らす太陽の眼差しは外にいるもの達の時間を短く凝縮する。




「ねぇ」

広大な運動場の隅に、石灰で引かれた白い枠取り。

「何?」

丁度その半分になる所に一本の白線が戦線を決めるかの様に引かれていく。

「あなた、どうしてドッジボールを選んだの?」

他クラスの担任の女教師が首に掛けた甲高い下を巻くような笛の音を鳴らして、それぞれ会話が飛び交う中、軽く注意を交えてルールの説明を進めていく。

「どうしてって...誘希がドッジボール選んだから」

今までの彼女からして、そのあり得ない回答とまだ慣れていないのか彼女の名前呼びに少し動揺するも、直ぐにいつもの凜然な様子で彼女に返す。

「それ、理由になってないわよ?」

「そうか?」

眉を曲げて真剣に首を傾げる彼女に対し、館宮さんの口角が少し曲がり優しく答える。

「そうよ」

そうこうしている内に彼女達3組と2組の、戦いとは名ばかりの小さな争いが始まろうとしていた。

「はい、じゃあ始めるわよ〜。もう一度言うけど顔面はセーフね、それじゃあ始めっ!」

女教師の声の後に、合図の笛を短く切って鳴らす。

『...誘希はどうしてドッジボールにしたの?』

始まってもなお、ふと気になったのか顔は相手陣地を向き構えつつ、会話を続けようとする彼女。それは何か不思議な事があったら直ぐに母に問いかける娘の様な口振り。

「どうしてって...そりゃあ」

その質問返しに館宮さんが答えようとした


“その時”


「ブォッ」

すぐ隣で鳴ったその鈍い音に目をやると、彼女の顔面が綺麗にドッジボールにおおわれていた。

この一瞬にしておきた状況を理解し対応すべく、館宮さんは極限にまで集中し、時を凝縮して顔をドッジボールで覆われた彼女を見つめ整理する。*世にゆう【ゾーン】というやつだ。


①彼女は私に質問を投げかけてきて、それに私が答えようとしたら顔面ドッジボール。

②開始早々、相手側から投げられたボールが彼女の顔面にクリティカルヒット。

③そうだとしても、彼女は話しつつもずっと前を向いていたから視界にはとらえてたはず。

④捉えてたのにも関わらずあの子は顔面目掛けて飛んでくるボールを1ミリたりとも避けなかった。


ゾーンに入り、1秒も無い刹那せつなの時間の中で脳を走らせて導き出した答え。



それは...





「えっ...?」





この一言に尽きた。




彼女の顔を覆っていたボールが剥がれ地面に落ち、鼻を赤くした彼女の顔があらわになる。それと同時に高い笛の音が鳴り女教師が駆け寄って来る。

「タイム、ターイム!ちょっと大丈夫!?」

「あ゛い」

頭をふらつかせながら、答える彼女。

「あなた、どうして避けなかったのよ」

心配しつつ、どうしても理解できなかった状況に疑問を隠せず問い掛ける。すると彼女は目を回しつつも口を開く。

「いやぁ〜、飛んでくるの見えてたんだけど、質問の答えが気になりすぎて避けるの忘れちゃったあ」

そう言うと彼女は鼻から血液を垂れ流しながら先生の胸元に倒れてしまった。

そのまま彼女は複数の先生に保健室へと肩を貸して貰う形で運ばれて行く。

彼女の放った斜め上をいく回答に、館宮さんは呆気あっけにとられるも、彼女らしい回答とそれにどこか納得してしまう自分にクスッと笑みが溢れる。


「栞ー!!」

連れられ離脱してしまう彼女に、館宮さんが大きく名前を呼んで声を掛ける。

「ん?」

まだ少し朦朧もうろうとしつつも、自分を呼ぶ声の方へと向き。次第に輪郭りんかくがはっきりしていく視界の中目に映ったのは...



ドッジボールを片脇に、普段見せない様な照らす笑顔の館宮さんだった。



館宮さんはそのまま手に取ったボールを突き出し、


胸を張って、


自信満々に答える。



『一番、得意だからよっ』



私にそう放った誘希は、この時一番運動場内で輝いて見えた。

「期待、してる!」



そう彼女が満面の笑顔で返すと、館宮さんはその後文字通り、相手チームに恐怖とトラウマ。絶望を植え付けたのだった。




「いててっ」

「はいっ、これで大丈夫!」

白衣で身をまとった大人の魅力をこの体では抑えきれないと言わんばかりにかもし出した、妖艶揺蕩ようえんたゆたう保健の先生が、無駄に揺れる胸に似合わず童顔な瞳を向けて、笑顔で医療箱を閉じる。

複数の教師の手を借り保健室で見てもらった所、鼻血と少しの腫れ以外は問題無いらしい。

「ありがとうございます」

座りながら軽い会釈と共にお礼を言う。

その後すぐ、保健室の扉を叩く人影が扉越しに映り先生が席を立ち扉を開けると、


そこには——


体操着の汚れた10数名の女子生徒がおびえた様子で節々ふしぶしを押さえ痛々しそうに並んでいた。

「え!皆どうしたの!?」

その光景に驚き心配の声を掛ける先生に対し、まだ怯えた状態の皆が口を揃えてこう答える。


「「「ドッジボールです...」」」


この時、彼女は全てを察した。脳裏に浮かぶ館宮さんを胸に。そして、痛々しい彼女達を前に想像が膨み、1つの疑問が頭を過ぎる。




「(あれ...ドッジボールって...鉄球とかだったっけ??)」



鼻につく薬品の匂いが充満する一室で、硬く繋がり始めた友情を前に。

彼女は密かに“館宮さんを怒らせてはならない”という警鐘けいしょうを、

心の隅へと置いたのであった。






水無月みなづきももう欠け、百日紅さるすべりの花が開く頃。

天の川のせせらぎを胸に、今。それぞれの想いが揺れ動く《林間学校》が始まろうとしていた。





[これってどういう意味?教えて、Hey Siri ]のコーナー(拍手喝采)

*【喧騒盲目けんそうもうもく】~第1話より~

  ・・・脇目も振らず、騒がしく声を上げる自分を第三者目線で見えていない。

     自覚していない様子

*【和気藹狂わきあいきょう】~第3話より~

  ・・・和やかに楽しく話す様。それを狂いの部分が上回る事。

    (例)狂った嗤い声。狂った内容。




〜テスト前日夜。館宮さん以外眠りについて30分が経った頃〜


〈カキカキカキカキ〉


功「あ!」

館「うわっびっくりしたぁ...何?」

功「んん〜〜...」

館「...寝てる」

功「ん〜ちがぁう、ちがうよぉ。絶対違うってぇ...(スピィ~)」

館「(何の夢見てるのかしら...)」

栞「ん゛ん〜...隠し味はいちごオレ...(スピィ~)」

館「(“絶対”に違うわ...何と合わせたのか知らないけれど、それだけは絶対に違うわ。って、なんか寝言で会話成立してる...)」

涼「ん〜〜...おかわり大盛りでぇ〜...(スピィ~)」

館「・・・・・あなた起きてるでしょ」

涼「んん〜日曜に学校に来た委員長〜〜...(スピィ~)」

館「ねっ。マジでね」



2日後。〜館宮さんの実験結果〜

『ラーメンといちごオレは“合う”』

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