第44話:ボードゲーム、結果は?

 飛鳥は一ターン休みのため、ボクの番となる。

 ルーレットを回し、4で止まる。


「『お仕事大成功! あなたは一気に人気者に! 成功報酬90万円』。やった」

「雪が明るい人生を歩んでる」

「チクショー。この差は一体……」

「日頃の行いかしらね」

「俺何か悪いことしました!?」


 そんなこんなでゲームは進んでいく。駿介は更に借金を増やしていくばかり、対してボクはお金持ちになっていく。

 怜奈と美乃梨はどんどん愛を育み、その度に怜奈は駿介をからかうという構図が定着しつつあった。


 そして終盤に差し掛かった今の順位としては、怜奈→ボク→みずな→美乃梨→飛鳥→駿介となっている。もはや駿介の挽回はあり得ないかと思われる。


「私の番だね」


 飛鳥がルーレットを回す。矢印は1で止まる。


「あ、恋愛マスだ。よーし、雪! 幸せになろうね!」

「いやまだボクと決まったわけじゃないよ」

「私はやるときはやる女だからね。引いてみせるよ」


 言いながら怜奈が差し出したカードを引く。そして結果は…。


「ほら! 6! これで恋人同士だね、雪」

「まさかほんとに引くとは」

「引けないフラグじゃなくて、引くフラグだったのか」

「むむむぅ……」

「…みずな、顔が凄いことになってるわよ」

「あ、待って。まだこのマスの効果が書いてあるよ」

「え? …ほんとだ。『あなたは恋人と一緒に小旅行へ。恋人と共に赤マスへ移動する。一ターン休み』だって。赤マスって……あ、もうゴールの手前だ!」

「一気に進んだね。あと3マスでゴールだよ」

「な! そんなのありかよ!」

「……小旅行。なんて羨ましい」

「これは姫様か飛鳥ちゃんどっちかの勝ちかなぁ」


 もはや勝敗が見えてきたが、ここで駿介に大きな展開があった。


「はぁ。もう早く終わってくれ……」


 そう呟きながらルーレットを回す。矢印は3で止まる。


「えー、『ここであなたは転機を迎える! 石油を掘り当て一気に大金持ちに! 成功報酬1000万円。青マスへ移動し、効果を得る』………よっしゃー! 借金返済じゃー!」

「おおー! 最後の最後ですごーい!」

「良かったね、駿介」

「おう! さーて、青マスの効果はっと……『残念! なんとあなたはスリの被害者になってしまった! 持ち金全額失い、人生一からやり直すためスタート地点に戻る』…………………………は?」

「「「「「……………」」」」」


 もはや言葉も出ない。そのあまりの鬼畜さに。


(だからこのゲーム相当エグイって、飛鳥は言ったのか)


 終盤に差し掛かって、ようやくその本当の意味を理解した瞬間だった。


「…………ち、チクショーーーーーー!!!」


 駿介の絶叫がこの部屋に響いていた。


 ―――結果として、一位は飛鳥となり、ビリが駿介となった。

 まあ、わかりきった結果ではあったけど。


 終了後、早速飛鳥が罰ゲームの書かれたカードを一枚引くことに。


「うーんと……これ! 何々…『ビリの人はメイド服を着て一位に耳かきをしてあげる。且つその日一日は一位のメイドとしてご奉仕すること』………って、え」

「……本気?」

「これはちょっと…」

「飛鳥と駿介って組み合わせがまずいよね?」

「そうね。いっそこれは無しにして、他の罰ゲームを選んだ方が…」

「というか、そもそもメイド服ってあるの?」

「……それなら今ボクが持ってる。生徒会のやつ」

「ああ、なるほど」


 ボク達がこれは色んな意味でまずいと思っていると、駿介は突然「ふっふっふ」と笑いだす。


「お前たち、何か忘れてはいないか?」

「忘れてるって、何を」

「ふっ。それは……これだ!」


 そう言って取り出したのは、とある一枚のカード。


 そのカードの内容はというと。


「身代わりカード?」

「そういえば中盤辺りでそんなカードを購入してたっけ」

「そう! このカードは説明によれば、自分が罰ゲームを受ける代わりに、一人を指名して罰ゲームを受けてもらう。と書いてある! つまり、俺は罰ゲームを逃れられるというわけだ!」

「「「「おおおーーー!!」」」」


 ボク以外が驚きの声を上げる。確かにこれは大逆転とも言えるかもしれないけど。


 指名できるってことは、全部駿介次第だし、正直嫌な予感しかしてない。


「そして、俺が指名するのは当然! 雪、お前だー!」

「やっぱり」

「ナイスだよ! 福谷!」

「ぐぬぬぅ……やっぱりそうなるよね」

「まあ今回は諦めなさい、みずな」

「あはは、良かったね、飛鳥」


 反応はそれぞれ違うものの、なんだかんだでこのゲームを楽しんだ。


「それじゃ雪、早速お願いします」

「……わかったよ。ちょっと待ってて」


 ボクは一度自室へ向かい、メイド服に着替えてから戻る。


「まさか、家でも着る羽目になるとは」

「えへへ、似合ってるよ、雪。ちょー可愛い!」

「はい。とてもお似合いですよ」


 とみんなが褒めてくれるけど、やっぱり嬉しくは無い。


「…………こほん。では飛鳥様、こちらへどうぞ」

「おお、これが生徒会でのメイド雪ちゃん!」

「変なあだ名付けないでください」

「いーなー、飛鳥ちゃん」

「……そうね、少し羨ましいわね」


 ソファに座ったボクの隣に座って、頭をボクの膝の上に乗せてから、耳かきを始める。


「んっ………ふぁ……ぁぁ、気持ちいぃ」

「痒いところはございませんか」

「…だいじょうぶですぅ………」

「一瞬で蕩けきったわね」

「す、すごいね」

「うん、よほど気持ちいいんだろうね」

「ふにゃぁぁぁ………」


 耳かきは10分もないくらいで終了した。

 その後は他のゲームも開催し、大いに楽しんだ。


 そして日も暮れ始めたころ、そろそろ解散することに。


「あ、そういえばさ。一日ご奉仕って、夜まで続くの?」

「……あ、そういえば」

「え、そこまでする必要は無いんじゃ」

「しかもそれって、雪と飛鳥、どっちかの家に泊まるってことになるぞ」

「「………っ!」」


 駿介の言葉に、飛鳥とみずながビクッと反応する。


「そ、それありかも……雪、いいかな」

「い、いやいやだめだよ飛鳥ちゃん! そんな、男女二人きりでだなんて!」

「…けどまあ、罰ゲームは罰ゲームだもの。仕方ないわね」

「怜奈ちゃん!?」

「じゃあ後はお二人でごゆっくり~。駿介、送ってって」

「あいよ。じゃあな二人とも、また遊ぼうぜ」

「ではまた。……うまくやんなさいよ、飛鳥」

「ちょ! まだ話は終わってないってばーー~~!!」


 みんなが帰っていく中、ボクと飛鳥はその場に留まり。


「……あの、本当に泊まるのですか」

「うん! お世話になります!」


 そうして唐突に決まったお泊り。ボクは明日を迎えるまで、メイドから解放されることは無くなった。

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