第27話:夏休み、初日から読書感想文?

 噴水前に集合した後、ボク達はモールの中にあるという図書館へと向かった。


 図書館って静かな空間というイメージしかないし、実際そうであることから、騒がしいモールの中にあるというのはどうなんだろうと思ったけれど。


 入ってみると外の音はシャットされていて、ゆったりとした空間になっていた。


 館内はとても大きな半円状で、屋根が傘みたいになっているとてもオシャレな構造となっている。


「はぇ〜、すごいねぇ、こんな場所あったんだ〜」

「以前は来なかったからね。そもそも図書館があることすら知らなかったよ」

「けどここなら宿題も捗りそうだな」

「そうだね! さっそく始めようよ」


 ボク達は6人が座れる大きめのテーブル席に座って、作文用紙を取り出す。


「じゃあ、以前決めていた通り、今日は読書感想文をやろう! 半々に別れて、荷物番と本を探すチームに別れよっか」

「はーい!」


 くじ引きによりチームを決めて、さっそく本を探すチームは席を立つ。ちなみに探すチームはボク、怜奈、みずなの3人。


 数え切れないほどの本が並ぶ棚の前で、どの本にするか物色する。


「二人はどんなジャンルにするか決めてるの?」

「ええ、私はミステリー小説にしようと思ってるわ」

「私は恋愛ものですね」

「そっかー。ボクは何にしようかまだ迷ってるんだよね」

「あら、それならあなたにピッタリなのがあるわよ」


 怜奈はボクに一冊の本を取って渡した。そのタイトルを見てみると。


「えっと、『こんな私でも選んでくれる?〜TSした俺の恋愛事情〜』……これのどこがピッタリなのか、小一時間問い詰めたいのだけど?」

「ふふっ、冗談よ。本当はこっち」


 そう言ってもう一冊取って渡す。そのタイトルは。


「……『ボクと僕の入れ替わり。そして最後はボクになる』………怜奈?」

「ふふっ、冗談よ」

「怜奈さん……」


 尚もふざける怜奈と怒るボクの会話を聞いていたみずなが、苦笑いしていた。


「まったくもう、ボクがこれの感想文書いて提出したら、先生が本気に捉えちゃうでしょうが」

「……っ、ふふふ、ええ、そうね……ぷっ」

「笑いすぎ」


 ツボに入ったのか、笑いを必死に堪えようとする怜奈だが、どうやら耐えられなかったようだ。失礼するなぁ、もう。


「あ、あはは…」

「ふふっ。それで…結局どうするのかしら?」

「…そうだなぁ」

「あ、雪さん。これなんてどうですか?」


 今度はみずなが本を渡してきた。怜奈に散々からかわれたので、ちょっと警戒したけど、みずなはちゃんと選んでくれるだろうと思って受け取る。


「えーと、『ロリータ〜あ、ロシアのアレじゃないよ。ただロリを描いただけだよ〜』………」

「えへへ、冗談です。ちょっとやってみたくなっちゃって」

「みーずーなー?」

「ひぇ!? すみませーん!」

「……今更だけれど、こんなタイトルの本があるものなのね」


 みずなまでふざける始末。というかボクはロリじゃない。ロリコンでもないし。


「もういい、自分で選ぶから」

「ふふっ、悪かったわ。何かいいものがあったら持ってくるわね」

「私も興味が湧きそうな本探してみますね!」


 ボク達はその後も本を物色し、20分後には飛鳥達の元へ戻る。


 さらに30分経過して飛鳥達も本を持ってきた。ひとまずみんなの選んだ本を見せ合うことになった。


 飛鳥、美乃梨、ボク、怜奈、みずなの順で進んでいく。飛鳥とみずなは恋愛もの、美乃梨と怜奈とボクはミステリーでジャンル的にはまとまった形となった。


 そんな中、駿介はというと。


「俺はこれだ!」

「えーと、『これを読めばあなたもハーレムに!?』………これは」

「やっぱ男の夢はハーレムだろ? そして夢は叶えてこそ「駿介?」…………ヒッ!?」


 途中で遮った美乃梨の方を向くと、彼女からは絶対零度の空気が流れてきており、その表情は般若の面のごとく。


「ちょっと、

「あ、あの美乃梨さん? 腕はそっちには曲がらないって前にもいいいデデデデ!! あ、ちょ、助けてーーー!!」

「自業自得」


 良からぬ方向に腕を曲げられそうになりながら、駿介は引っ張られていった。


「………えーっと」

「気にしなくていいわ。それより始めましょう」

「あはは、こういう時の二人の反応は冷たいね」

「そ、そうだね」


 ボクと怜奈の冷たい反応に、飛鳥とみずなは苦笑い。



 やがて美乃梨達も戻ってきて、さっそく本を読み進める。あ、駿介は結局その本を読むことになった。あくまで現実では絶対叶えるなんて思わないことを条件に。



「………。この主人公、怪しいなぁ」

「……? どうしたんですか?」

「あ、うん。なんだかこの主人公の挙動が怪しいなぁって思って」

「ああ、あるわよね、実は主人公が犯人でした。という展開」

「ああわかる。そういうのって結構巧妙に隠すから、読者からの視点でもわかりにくいんだよね」

「そうそう。それで最後の最後で『アイツを殺したのは、俺だ』みたいな展開になるの。衝撃的で面白いよねー」


 みんながミステリー小説の話で盛り上がる中、駿介はやたら真剣に読んでいた。


 ………諦めていないのだろうか。


「ふむふむ、なるほど」

「……駿介、真剣に読んでるけど、叶える気なの?」

「いやいや、流石にもうそんな気は起こさないって。ただそれでも気にはなるだろ? だからちゃんと読んでおこうと思ってさ」

「……ふーん」

「なんだよ、その目は。疑ってんのか?」

「いくつも前科があるしね。疑うなって方が無理かな」

「ひでぇ。いや事実かもしれないが」

「けど私も少し気になるなぁ。何が書いてあるの?」


 飛鳥が好奇心で聞いてみる。


「えーと、『ハーレムを作るには、まず顔! 顔が良くないとハーレムは夢のまた夢!』」

「もう夢のない話になった!」

「『次に体格! ムッキムキなのはNG! かといって細すぎるのもダメ! 程よい筋肉を付けること!』」

「うーん、まあ納得できる、かなぁ」

「『お次は体臭! 当たり前だが臭う人には寄り付かない! 香水とかその辺のアイテムを使って誤魔化せ!』」

「臭いこと前提なの!? 失礼すぎない!?」

「しかも助言とも言えない適当さ」

「最低ですね」


 何なのだろうか、この本は。著者がどんな人なのかすごく気になってきた。


「『そして最後に、性格! やっぱり優しい性格、カッコいい性格、オラついた性格じゃないと誰もついては来ない! 今の自分の性格を見つめ直すのだ!』とまあ、他にも色々細かく書いてあるが、目立ってるのはこれかな」

「今すぐ捨てなさい」

「ダメだよ美乃梨。一応図書館のなんだから」

「ていうか性格が最後なの? 絶対最初に来るべきじゃ?」

「しかもオラついた性格って。それでハーレム作れるとは思えないけど」

「いやそもそも議論する余地が無いよ、こんな本」


 何ともおかしな、失礼な内容だった。これでお金とってるんだと思うと、なんか無性に腹が立つ。


「駿介、本当にそれで感想文書くつもり?」

「………、やめとくわ」

「懸命ね」


 結局最後は諦めた駿介。正直変に影響を受けなくて安心したボクと美乃梨だった。




 その日の夜。


「夕、今日のご飯は何?」

「親子丼に味噌汁よ。何かリクエストがあった?」

「ううん、ただ聞いてみただけ」

「……? そう」


 今日は夕が晩御飯を作っている。


 今思うと、随分と料理が上手くなったものだ。…オムハヤシだけは別だけど。


「何か言ったかしら」

「いえ何も」


 危ない、夕も怜奈も人の心を読む達人だった。


「あ、そうそう。雪、実は今、新曲を出そうかって話を社長としてるんだけど。その歌詞をまた雪に作ってほしいのよ。どうかしら」

「んー、うん、わかったー」

「お願いね」


 歌詞かぁ。夕は簡単に言ってるけど、結構作るの難しいんだよねぇ。


「テーマは?」

「あなた自身についてよ」

「まーたザックリしてるぅ」


 文句を言いながら、ソファに寝そべって歌詞を考えるのだった。

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