第24話:期末試験、二人きりの勉強会ではなく?

「適当に座ってて。今飲み物持ってくるから」

「あ、うん。ありがとう」


 私はソファに座って雪の背中を見ていた。


 私と変わらない背丈。肩にギリギリ届かないくらいまで伸びた、サラサラでキラキラした銀色の髪。華奢な身体つきで、正直女の子にしか見えないその姿は、何度見ても羨ましいと思う。


(だってほら、くびれとか、チラッと見える頸とか。色気があるし)


 本人には絶対言わないけど。結構気にしてるっぽいし。でもやっぱり思うのだ。こんなに綺麗な子を、私は好きになったんだなと。


『あなたも頑張らないと、あっという間に取られちゃうわよ』


 先程怜奈に言われた言葉。何もこれはみずなの事だけを言っているわけじゃない。雪はモテる。大体は女の子として見られがちだけど、学園の生徒はもう彼が男であることは知っている。


 今まで触れてこなかったけど、実際雪は今日までに何度も告白されている。本人は全部断ってるみたいだし、中には男子もいたみたいだけど…。


 何にしても、私はああ言ったけど、やっぱり結構焦ってるかもしれない。今もこうして急遽、雪の部屋に上げてもらうくらいには。


「お待たせ。それで、何か話しでもあるの?」


 そんなことを考えていたら、いつのまにか雪が正面に座って、お茶を差し出してくれていた。


「あ、ありがとう。えっと、話というか…あ、そう! 勉強! 実はまだわかんないとこがあって、どうしても今日やっておかないと気になってさ!」

「ん、そうなの?じゃあ続き、二人だけでやっちゃおっか」


 微笑んでそう言った雪。


(可愛すぎてキュン死する)


 私のハートがブレイクしないか心配になってきた。


 そんな私をよそに、雪は私の隣に移動して座ると、顔を近づけて教科書を覗き込む。


「それでどこがわからないの?」

「あわ、えっと、ここなんだけど…」


(近い! メッチャいい匂い! 唇柔らかそう!)


 一度気になってしまうともう集中出来なかった。私はジッと雪の横顔を見つめていた。やっぱり、可愛いなぁ。


「…聞いてる? 飛鳥」

「へ!? あ、うんうん! 聞いてるよ!?」

「ほんとに? なんか心ここに在らずって感じだったよ?」


 バレてた。いやまあ、あれだけ露骨に見ていたらそうなるよね。


「…飛鳥、ほんとは別の目的があるんじゃないの?」

「うっ。…そう、だね。うん、雪の言う通りだよ。ほんとは勉強じゃなくて、聞きたいことがあるんだ」


 私は姿勢を正して、雪の方に体を向ける。


 言おう。はっきり好きだとは、まだ言えないけど。でも―――。


「雪はさ、好きな人とか、いないのかなって」

「………え?」




 飛鳥の質問に、ボクは固まった。


 好きな人……いきなり聞かれても、中々答えられない質問だろう。そもそもボクにはそういった人はまだいない。というより、確証を持てていない。


「えっと、今はいないかな。でも、どうして?」


 そう聞くと飛鳥は、顔を真っ赤にしながらも、決意に満ちた表情でこう言った。


「ならさ、私が雪を狙っても、いいよね?」

「……ん、えっと、それはつまり?」

「私が、雪の彼女に立候補しても、いいよね?」


 時が止まった…気がした。今飛鳥は何て言った? 彼女? ボクの?


「…あの、それって、そういう…こと?」

「…今は、はっきりそうとは言えない。多分、雪がまだそういう気持ちを理解してないと思うから」


 飛鳥はそのきれいな瞳を向けながら、ボクに言う。


「だから、雪がちゃんと理解したうえで、私を好きになってくれたら、その時はちゃんと私から告白する」

「――――――」

「だからその時までは、私を好きになってもらえるように、いっぱいアピールするから、そのつもりでいてね!」

「…う、うん。わかったよ」


 ボクはもうどう答えたらいいかまったくわからず、何とも普通な返事をしてしまう。確かに飛鳥は明確にそうとは言わなかったけど、でも誰がどう聞いてもそう言う事なのだろう。


 きっと今、ボクの顔はまた真っ赤になってる。心臓もバクバクしてる。コレがそうなのか、ただ恥ずかしさのあまりにうるさくなっているのか、わからない。


「じゃ、じゃあ、あの…私今日はこれで帰るね! また明日!」


 飛鳥も相当恥ずかしかったのか、同じく顔を真っ赤にしてそそくさと帰っていった。


「…明日から、まともに飛鳥の顔見れるかな」


 そっちの心配も尽きないのだった。



 私は家に帰ると、挨拶もせず速攻で部屋に入り、ベットにダイブする。思い返すのは先ほどの会話。


 言った。言ってやった! はっきり好きとは言ってないけど!


「~~~~~~~っ!!」


 誰もいないというのに、恥ずかしさのあまり枕に顔をうずめ、足をバタつかせる。ホコリが舞うことも気にしない。


(雪は、どう思ったかな)


 私はろくに確認もせずに帰ってしまったが、最後に見た彼の顔は、確かに真っ赤だった。どういう気持ちで私の話を聞いてたかな。嫌がられたりしてないかな。


 私の気持ちはいつの間にか心配に変わっていた。


 ―――あ、そうだ、怜奈にも報告しておこう。これからのアピールについてアドバイスとか欲しいし。


 携帯を取り出して怜奈にメッセージを送る。すると10秒もしないうちに返ってきた。相変わらず速いなぁ。


『そう。まああなたにしては上出来じゃないかしら』


 何か上から目線な気がするけど、気にせずメッセージを送る。


『それで、今後どうしたらいいかとかのアドバイスが欲しいんだけど、協力してくれる?』

『ええ、もちろん。みずなのことも応援はしたいけど、飛鳥とは昔からの付き合いだもの。少しだけ贔屓させてもらうわ』

『ありがとう! 怜奈、愛してる!』

『その言葉は姫様に言ってちょうだい。それはそうと…』

『うん? 何?』

『飛鳥、私のいないところで随分面白いことしてたのね。そういうことをするときは私のいるところでやりなさい』

『あんまりだ!? っていうかそんなの余計に恥ずかしすぎてパンクしちゃうよ!』

『あら、もし付き合うことになったら、それ以上に恥ずかしいことを』

『あー! あー! そういう話は今は無し!』

『残念ね。まあともかく、了解したわ。私も色々考えておくから、期待していて』

『なんかドッと疲れたけど、ありがとう。私も頑張るから!』

『ええ。それじゃ、おやすみなさい』

『うん! おやすみ!』


 メッセージでのやり取りを終えて、携帯を枕元に置く。


「よ~し! 頑張るぞ!」


 私はそう意気込んで、部屋を出るのだった。

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