第2話:取り敢えずクラスメイトに言ってみたけど、反応は?

「男です」宣言をしようという話をした次の日の朝、いつも通り朝食を取り、いつも通りに身支度をして、いつも通りに登校する。


 そう、努めていつも通りにしているが、ボクは内心まったく落ち着かない。昨日の朝で既に癖の強いクラスメイトだとわかっている以上、今日の宣言でみんながどんな反応をするか、分かるようで分からない。自意識過剰というわけではないが、嫌われることはまず無いと思う。ただ宣言したところでまず素直に信じるとも思えない。


「うーん…よし、帰ろう」


 考えた末、現実逃避に走ろうとする。


「いやダメに決まってるでしょ」

「そうそう、もう諦めて言っちゃおうよ、姫様」


しかし回り込まれてしまった。後ろから駿介と美乃梨がやって来ていた。


「おはよう雪」

「うん、おはよう。…帰っても」

「ダメ」

「デスヨネ」

「ほらほら、速く教室行こ?」

「はぁ…」


ため息を吐きつつ教室に入る。


「あ、姫様おはよ!」

「おはようございます、姫様」


 既に教室に入っていた飛鳥と怜奈が、こちらに気づいてやって来た。


「おはよう、飛鳥、怜奈」

「うん! 美乃梨と福谷もおはよ!」

「おはよう、飛鳥ちゃん、怜奈ちゃん」

「おう」

「ええ、おはようございます」


挨拶を終えるとボクらは先ほどの話を続けた。


「それで、いつ宣言するの?」

「うーん、やっぱ休み時間だよな。どうせ騒がしくしちまうだろうし」

「では予め大事な話がある事を伝えておいて、お昼か放課後に宣言する、というのはどうかしら?」

「それ採用! いいよね、姫様?」

「あ、うん」

「うん? どうした? 雪」

「いや、何でもないよ」

「そうか?」


気が重いことに変わりないが、もはややるしかないのだろう。確かにボクもこのまま誤解されっぱなしだと色々面倒だし。


「それじゃ私、皆に声かけておくね」

「あ、私も手伝うよ、飛鳥ちゃん」


飛鳥と美乃梨は一緒にクラスメイトのもとへ向かっていった。


「んじゃ俺も男子に声かけておくか」


そう言って駿介も去っていった。


「…何か気になることでもあるのかしら、姫様?」

「え、どうして?」

「先ほどから小難しい顔をしているわ。何か悩み事なら、話だけでも聞くわよ?」

「あー、いや、ほんとに大丈夫。心配してくれてありがとう、怜奈」

「…っ! いえ、当然のことよ、と、友達…なのだから」


と、少し頬を赤らめながら怜奈がそう言ってくれたのだった。



 その日の授業が終わり、いよいよ宣言をすることになった。意外に、というべきかやはりと言うべきか、残ってくれた生徒は数多く、どこから聞きつけたのか、どうやら他クラスの生徒や、学年が違う生徒までいるようだ。


「なんだか大事になってる」

「あはは、声掛けたのはクラスメイトだけなんだけど」

「ま、どっから情報漏れるかなんて分からんからなぁ」

「けどちょうどいいんじゃない? 結局みんなに知ってほしい事なんだし」

「そうね、何度も説明する手間が省けるなら、姫様も楽でしょうし」


確かに少しでも楽出来るのはありがたい。

一度深呼吸して、ボクは一歩前に出る。


「えっと、今日は集まってもらってありがとうございます。実はみんなに伝えたい事があって声を掛けさせてもらいました」


そこで区切ってから、周囲を見渡し、とうとう本題を口にした。


「みんななんだか勘違いしているようなので、改めてこの場で伝えます。 実はボク、男なんです!!」


 ついに言った…のだが、全然反応がない。気になってみんなの様子を見てみると。


「「「「「…………」」」」」


ポカンとしていた。いや何言ってんのコイツ、みたいな雰囲気を感じる。もしかしてやらかした? と心配になった。


 そんなとき。


「えっと、大事な話ってその事?」

「え、う、うん」

「なぁんだぁ、それならとっくに知ってるよ〜」

「そうそう、少なくとも女子のほとんどはとっくに知ってるよ?」

「まぁ男子はどうか知らないけど」

「え、マジなの? 男装じゃなかったの?」

「マジか、姫っていうくらいだからてっきり女子かと」

「ふむ、つまり姫は男、いや…男の娘と書いて男の娘、か」

「ふひひ、男の娘、…いいわね」

「あ、あれ、なんか結局おかしな方向に行ってるような?」


飛鳥が心配しているのをよそに、みんなは盛り上がっていった。


「うぉぉぉ! そうだぜ! 姫こそまさに男の娘!」

「どっちにしても可愛い事に変わりなし!」

「姫様ー!」

「うおおお、姫ーー!!」


あれよあれよという間に「「「「「ひーめ、ひーめ!!!!」」」」」と謎の姫コールが始まった。


「…ちょっと駿介、どう収拾付けるの、これ」

「…あー、どうしよ」

「ま、まぁ取り敢えずみんな姫様が女の子じゃ無いって分かってくれただけでもいいんじゃない?」

「そのかわり変な認識の仕方になってしまっているけれどね」


と冷静に突っ込んだ怜奈。確かに男の娘っていうのも納得いかない気はするけど。


「…はぁ、なんかどっと疲れたし、もうそれでいいや」

「いいのか?」

「いいの、飛鳥が言ったように、ひとまず女子じゃないって認識になったし。それに」

「それに?」

「駿介達が分かっててくれるからね。それだけでいいよ」


そう言ってボクはみんなに笑ってみせた。


「さて、それじゃ今日は集まってくれてありがとね、みんな。話は以上だから、これにて解散!」

「「「「「はぁ〜〜い!!!」」」」」


ボクの言葉にみんな素直に返事をして解散していった。


「ほら、ボクらも帰ろ?」


なんでか固まっている駿介たちに促して帰り支度をする。


「…ねぇ、あなたたち」

「うん、言いたいことはわかるよ」

「私も」

「俺も」

「「「「姫様(雪)、可愛すぎ」」」」


 そんなこんなで「男だ」宣言は無事(?)終了した。今日はほんとに変な疲れ方したし、早く帰って休もうと堅く決めたのだった。

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