第4話 境界のトワイライト

「あんたの父親は、ハンターだった。それもかなり優秀なー。しかし、次第に変化する融合体に追いつけないで、そこで身を滅ぼした。」

「なんだってー?」

実の父親の記憶なら、うっすらとある。長身でガタイがよくて、ハンサムだった。ーが、何でこいつが自分の身内の事を熟知しているのだろうかー。

「あんたを襲った化け者たちは、『アストリアン』だ。異次元の生命体かなー。んー、言い換えるなら、『妖魔』といったところかな。」

少年はめんどくさそうに指でおでこをたたいている。

「---は?何なんですか、あなたは、こ、ここは夢の中か・・・」

マコトはキョロキョロ辺りを見渡すと、ベットから起き上がった。

「−ここは、異世界だよ。」

少年は溜息をついた。

「‥‥。」

「あんたは前世で殺され、そして異なる世界に人間として生まれ変わったんだ。」

「…・。」

辺りは不気味なまでに一瞬時間が停止したように感じられた。見知らぬ化け物に襲われて、何か訳のわからぬ世界に連れていかれ、そして尊大な少年に助けられた。頭の中であれこれ整理しようにも混乱して思考が追い付かない。自分ひとり、迷宮に放り込まれたかのようである。しかし、うっすらとこの世界にデジャブを感じる。目の前の尊大な人物にもどこか懐かしさと親しみを感じていた。過去にマコトの頭の中で狼煙がバンバン鳴り響いていた。

「ぶしつけで悪かった。取りあえず、体調が回復したら家まで送ってやるからな。しばらくここで安め。あ、そこの冷蔵庫にミネラルウォーターと食べ物がある。トイレはその階段の手前の突き当りにある。今夜は、とりあえず、ここで泊まっとけ。」

少年は決まりが悪く前髪をかきあげると、ドアノブに手をかけた。

「-はぁ。景観は一応、いいんですね。」

マコトは、ぶっきらぼうに外を眺めていた。

「あ、この建物馬鹿でかくて迷いやすいから、あんまり勝手に出歩くなよ。」



マコトは、しばらく横になり、天井を眺めた。


 しかし、途中で釈然としないものがあり、マコトはここを出ることにした。すべてが混乱を起こしていたのだ。未知なる者たちへの恐怖と時折感じる既視感ー。この不安定な状態から早く解放され、家に帰りたいー。マコトはとにかく出口を目指して一心不乱に進んでいくと、そこには広い倉庫の様な空間に出だ。ハイカラな感じの懐かしい内装であり、所々にメルヘンな猫の置物が飾ってあった。扉の奥に進むと、体育館の様な広さの空間に出た。その空間には湯煙の様なモものが辺りを充満していた。すると、湯煙の奥から人影を見つけた。中からっさっきの少年が姿を現した。その身体を見たとき、少年は自身の目を疑った。そこにはないはずの物がついていてあるはずのものがなかった。身体のあちこちにうっすらとあざのようなものがついていた。

「・・・あ、すいません。迷ってしまったみたいで・・・。」

マコトは慌てて視線を落とすと、その場を立ち去ろうとした。間違って迷い込んだだなんて信じてもらえないだろう。マコトがパあれこれニック起こしていると、彼女は苦笑いをした。

「どうせ、家に帰りたかったんだろ。別にいいよ。こんな身体だし。」

しかし、彼は恥じることもなく淡々とそばにかけてある服を着た。すると、マコトの頭の中で曇りに一瞬うっすらと光が差しこめたかのような感覚に襲われた。そして、キーンと耳鳴りがした。確か、この痛々しい痣にも何か見覚えがあるような---。何か、何か、思い出さなくてはいけない大切な約束が―――。

「えーと、女ですか・・・?」

「ああ、一応な。」

いままで、彼女のことをずっと男だと思って疑わなかった。一切媚びがなく、そして物おじしない粗野な言動。カモシカのような引き締まった筋肉質の体型。百獣の王を凌駕するまでの戦闘能力。顔立ちも可愛いというよりかはハンサムである。身長も、女にしては高かめである。

「あんた、何者なんだ・・・?うっすらと記憶があるが・・・でも、思い出せないんだ。」

「私はアルファだ。アストラルから来た異次元の妖魔、『ダークネス』を狩るハンターだ。」

彼女は髪をタオルで拭くとそして頭に巻いた。

「あんた、名前は―?何て呼べばいい?・・・俺、何か重要な思い出さなくてはならない記憶があるみたいなんです。」

「ルミナ・リンクスだ。ルミナでいいよ。」

マコトにはルミナが一瞬、顔をしかめたように見えた。しかし次の瞬間、彼女は眼を皿のように開け、顔を青ざめていた。

「マコト、逃げろ!!!」

すると天井の方から、たちまち重たい爆撃音がすると、粉塵が舞った。

「匿っていたのか?クリス・・・。いや。今はルミナと呼んだ方がいいかな?」

そこに、8本の短剣を携えた少女が眼前に現れた。

空間一帯は、まるで宇宙の中にいるような永遠の沈黙に包まれた。

「・・・シエル、お前、何でー?死んだ筈じゃないのかー?」

「『死んだのかー?』だって」

「マコト、ここのすぐそばの地下通路を、突き当たりを右に曲がれ!そこに結界が張ってある。」

ルミナはマコトに耳打ちすると、彼の背中を強く押したのだった。マコトは言われるがまま、地下通路に駆け込んだ。

「おっと。」

少女はマコトの後を追う。

「待て。久々にあった旧友に失礼じゃないか。それとも、元からむっつりなあんたに仲間の概念なんてなかったんだよなぁ。ーていうか、もうおまえ進行しんこうしてるんじゃないのか?が。」

「何だ、こいつを庇ううのか? こいつは『X-ステージチルドレン』だぞ。」

少女は首を傾げると、ジェット機のような素早さでルミナに襲い掛かる。ルミナはつかさずかわすが、頭に巻いていたタオルがはたりと落ちた。

ー武器がないから、ここで力を使い果たすしかないのかー

ルミナはため息をつくと、深呼吸をした。彼女の周りに強風が立ち込めた。そして、右腕には、強力な風の束が渦を巻いて包み込んでいた。ルミナは風を電動ドリルのように急回転させ、そのままシエルの腹部を貫いた。空間内にひびが入ると、シエルの身体は軽々と奥の部屋にのめりこんだ。まるで車が突っ込んだかのような衝撃である。壁の破片が辺りに散在した。しかし、彼女の顔は終始陶器のように無機質で、表情を微動だにしていない。

「まだまだこれで終わりじゃないぜ…。このむっつり野郎。」

ルミナは纏めていた髪をおろすと、髪を細長く筒状に変形させ、シエルの身体を縛った。

「ほう・・・。何かと思えば、これはサーカスの曲芸かい?手品というものは、殺すためにあるのではないぞ。で、この私が倒せるとでも…?」

ルミナは全神経を集中させると、髪はぐるぐる回転しドーム型になり、シエルを覆った。ルミナがこのままとどめを刺そうとしたその時ー、ルミナの髪は一瞬でみじん切りのようにスライスされ、その中からシエルが出てきた。いつの間にか彼女の腹部は元に治っていた。

ルミナは警戒し、間合いを取ろうとした瞬間、すぐそばの空間からシエルの手が出てきた。彼女との距離は20メートル以上あるはずなのに、手品のように至近距離から急に手が出現したのだ。

「そうだ。はじめからこうしていればよかったのだ。」

ルミナの身体はそのまま20メートル移動すると、天井の瓦礫の隙間に移された。瓦礫の隙間から日光が差し込めてくる。

「がは・・・」

ルミナは干物のように吊るし上げられ、ぜえぜえ、過呼吸を起こした。

「なんだ。お前の方が進行してるんじゃないのか。がー。」

シエルは、能面のままルミナをじっと見つめている。彼女を絞める手は次第に強くなっていった。

「お前ー、天井を破ったのも狙いのうちか・・・」

ルミナは頭がクラクラしてきた。

ーくそ・・・このまま、このままだと・・・ー

ルミナは次第に意識が遠のいてていったー。

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