隣の不良(クズ)とは結ばれません。
小桃 もこ
第1章 青春恋愛は案外辛い
第1話 青春恋愛は案外辛い
冬休み。年明け一発目の部活の日、新年の挨拶もまだろくにせんうち、粉雪舞う寒空の下で私は予期せぬ告白を受けた。
「か、
校舎のはなれの部室裏。相手は同級生で同じ吹奏楽部の男の子。
「い、いきなりそんな」
「あかん?」
「や……ご、ごめん、なさいっ!」
咄嗟のことで混乱もあってそう頭を下げていた。間が持たずそのまま走り去ろうとしたけど、どうやらそれは出来んかったらしい。
「待って!」
強い力で腕を掴まれたのと大きな声とで、私の足はその場に止まった。
「理由……聞かして」
あとから考えたら当然な質問やし、もし私が告白した側やったとしてもたしかにそれは知りたいこと。けどその時の私はいきなりそんなことを訊ねられて更に動揺して、その答えを上手くまとめることができんかった。
「……理由、ないん?」
黙る私を追い詰めるように質問が続いていよいよ困った。相手の目を見る勇気がなくてその膝やとか少し擦れた制服の裾なんかをちらちらと見ていた。頬が熱い。胸がドキドキして、呼吸も、浅い。
「わからんなら、付き
ずるい人やな。そんなことを思ってしまった。そんなん、あかんよ。そんな軽く『お試し』みたいにお付き合いするやなんてこと、私にはできん。
「俺のこと、嫌い?」
思わずその顔を見ると、相手はまっすぐこちらを見ていた。男の子にしては大きな瞳、長いまつ毛。髪は黒くてやたらとサラサラしよる。スポーツ刈り? よく知らんけどそんな雰囲気。背も体型も普通のトロンボーン奏者。名前はたしか
じっと見たらその瞳の中に困惑する自分の姿が映る気がして怖くなった。この目にずっと見られよった……? こんなこと思うのは失礼やけど、でも怖いと思ってしまったんやもん。
「……嫌いやないよ、でも「なら!」
続きを言わせるもんか、と言う相手の圧にたじろいだ。無意識に一歩下がると、相手は一歩詰め寄って来る。手は掴まれたままで離れん。
「嫌いやないなら、なんであかん?」
「それは……」
「俺、大事にするよ。絶対幸せにするし、ちゃんと守るし、誰よりも……」
「ちょっ」
どこかで聞いたことあるような安い言葉を並べながら掴まれたままの手がぐいと引かれて相手との距離が縮まる。トキメキ、なんてとんでもない。その強い力は私にとってはもう恐怖でしかなかった。
「やめてよ」そう叫んで振り払えばいい? でもそんなことをしたら……その後どうなる? 部活での関係は? 嫌でも毎日顔を合わさんとあかんのが学校という場。できることなら後味悪くはしたくない。
「ちょっと……考えさして」
精一杯の答えやった。考える気はほんまはなくて、逃げの口実……なんて言ったら相手に悪いけど。
やっとのことで離れて、逃げるようにして急いでその場を離れた。
これもまた、青春? そんなら青春って案外、そんなにいいもんやない。
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