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「出番でえす」


 録音のひと。呼びに来る。


「はあい。いま行きます」


 喉の調子を確かめる。大丈夫。

 携帯端末。みんなからの応援の連絡。大丈夫。返信した。


 録音室に向かう。


「よろしくおねがいしまあす」


 24作目の曲。よし。今回も、気合い入れてレコーディングしよう。


 彼が死んでから。もうすぐ1年になる。


「今回は、どういう感じで?」


「悲しめで、切ない感じがいいかなと思って、作詞から少しだけ恋愛の要素を削りました」


 音響担当とマネージメント担当に歌詞を渡す。


「どうですか?」


「いいです。最高です。これで行きましょう。録音準備はできてます」


「はい。よろしくおねがいしまあす」


 彼が死んで。わたしは、喋れるようになった。

 破れた夢を、つぎはぎで繕うように。失った何かを取り戻すように。歌を唄った。留学で仲良くなったみんながいなかったら、自分も死んだかもしれないと思う。みんなも、今、生きている。だから、わたしも、今を生きる。


 でも、歌は、彼のことを想って、彼のことだけを考えながら、いつも唄った。矢継ぎ早に新曲を出し続けて、レーベルを立ち上げてのデビューから1年で、23作。これが24作目。


 今日も唄う。


 もうあなたはいない。


 だけど唄う。


 あなたのために。


 あなたに届くように。

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