11 ENDmarker.
「出番でえす」
録音のひと。呼びに来る。
「はあい。いま行きます」
喉の調子を確かめる。大丈夫。
携帯端末。みんなからの応援の連絡。大丈夫。返信した。
録音室に向かう。
「よろしくおねがいしまあす」
24作目の曲。よし。今回も、気合い入れてレコーディングしよう。
彼が死んでから。もうすぐ1年になる。
「今回は、どういう感じで?」
「悲しめで、切ない感じがいいかなと思って、作詞から少しだけ恋愛の要素を削りました」
音響担当とマネージメント担当に歌詞を渡す。
「どうですか?」
「いいです。最高です。これで行きましょう。録音準備はできてます」
「はい。よろしくおねがいしまあす」
彼が死んで。わたしは、喋れるようになった。
破れた夢を、つぎはぎで繕うように。失った何かを取り戻すように。歌を唄った。留学で仲良くなったみんながいなかったら、自分も死んだかもしれないと思う。みんなも、今、生きている。だから、わたしも、今を生きる。
でも、歌は、彼のことを想って、彼のことだけを考えながら、いつも唄った。矢継ぎ早に新曲を出し続けて、レーベルを立ち上げてのデビューから1年で、23作。これが24作目。
今日も唄う。
もうあなたはいない。
だけど唄う。
あなたのために。
あなたに届くように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます