06

 彼から、手渡されたものがある。

 てのひらサイズの四角い箱。


 海外へ行く手続きを全て終わらせたら、開けてくれと言われた。


 どうしようもなくて、そのまま、海外へ行く手続きを全て終わらせた。あとは、飛行機に乗るだけ。


 でも。

 飛行機に乗らなければ、それで終わり。彼とのこれまでの生活を守れる。

 歌が、唄えなくても。彼がいれば。わたしは、幸せかもしれない。でも、思うまま、心が感じるままに唄えたら、それは素晴らしいことだった。喋れない自分にとって、声を出して唄うことは、何よりも代えがたい気分がある。心の中にある熱いものを、そのまま表現できる唯一の手段。


 彼。


 駅前のプラネタリウム前で会って以降、学校に姿を見せなかった。連絡しても、生返事ばかり。電話は通じない。


 そして。


 飛行機に乗る日が来た。


 思いきって。


 四角い箱を、開けてみる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る