第6話 基本は食だな


「とりあえずは食料か。それなら水だな」


 城から外に出て適当な川を見つけた俺は、集めた石と土を投げ固め、簡易な堰を作って川を堰き止める。


 そこから、「エッホ、エッホ」と水路を掘り進め、水路に水を流し、水路周りの木々を、「ホイホイッ」と引き抜いて更地にする。

 俺が力を入れなくても、まるで草を抜くように地面からババッと木が抜けるので、作業は急ピッチで進んでいく。

 その辺りに元々あった岩石は、堰を作るのに使ったので全く残っていない。





 俺に付いてここまできたこの国の王は、すでに俺の従僕である。

 俺に歯向かった騎士団は、別の任務に就いていたり交代勤務の休日であった者が生き残ったのだが、主要な者が死んだので俺直轄の兵士となった。

 それで、王を含め全員が俺の命により強制労働中である。

 慣れない土木作業で末端の苦労もわかるし、体も鍛えられるだろう。

 一石二鳥だ。





「・・・あの木が邪魔だな」


 これまで作ってきた道の先をを遮るように直径2メートル程の大木が立っている。

 だが、俺はそれを迂回するのは敗北だと感じたので、木の幹を掴み力を込めて地面から引き抜いた。


「・・・・ガッシャーン」


 少し力を入れ過ぎたようで、大木は10メートルほどの高さに飛び上がり、その勢いで、国王の馬車に直撃した。

 幸い皆んな土木作業に駆り出されていたので、馬車には誰も乗っておらず、馬車が大破しただけで済んだのだが、俺を見る視線が冷たい。


「・・・スマン」


 心はこもっていないが、一言謝ったからこれで終わりだ。

 謝ったのに文句を言うほど了見の狭い奴はいないだろう。

 こんな時は話を晒すに限る。


「王よ、農民を募り、この水路の周りに畑を作らせろ」


「・・・・」


 俺が馬車を壊したのを根に持っているのだろうか?

 後で聞いたら、返事しないのは、馬車破壊の轟音で一時的に耳がおかしかった為らしい。


 農地だけがあっても移住する魅力が薄いので、俺は土を固めて作った家を数軒建て、高さ2メートルほどの塀で囲い、その真ん中に井戸を掘った。

 井戸を掘ってみると、川に近いだけに地下水脈は浅く、すぐにきれいな水が湧き出してくる。

 ここから城まで幅広い道を作り、その途中にこんな村をこしらえていく作業が続いた。


 そして国民総出の人海戦術で開拓作業した結果、数か月後には国内を一周する道が完成し、城まで戻って来た。

 これで国内の環状線とする幅広い道と農村が出来上がり、入植者達が増えると商店や宿場が自然発生してきている。

 俺達が開発した農地には、既に沢山の作物が植えられていた。



 俺と開拓作業に従事してきた王や兵士は赤黒く日焼けし、筋骨隆々とまではいかないが、見るからに体が引き締まってきている。

 数か月前の、プライドだけが高く、ひょろっとした感じは残っていない。

 開拓時に出てくる魔物や獣と戦ってきたので、戦闘能力も上がったようだ。




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