異世界へ転生した過労死ナースはスローライフを満喫したいのですが?

姫ゐな 雪乃 (Hinakiもしくは雪乃

序章  前世の記憶

 毎日毎日朝から晩までずーっと病院の建物の中。

 そして病院と家との往復人生今年で一体何年目だ?

 そんな事を言ったら年齢バレちゃうやん。

 ナースなんて元々好きで始めた仕事じゃなかったけれど……まぁその場のノリで、私は人生最初の転換期にこっち方面へと舵を切ってしまったけれどさ。


 この点だけはちょっとは後悔したのかしていないかも……だね。

 

 なんにせよ最初に看護学校へ受験をすれば――――とばかりにポンとおでこへ判子押される。

 いやいやいやいやそんなもの普通に押さないしっ、抑々そもそも押されないからね!!


 そうして晴れて看護学校へ行ってお友達が出来ると同時に必死にお勉強をして、進級したらワクワクドキドキの戴帽式。


 私の通学していた学校では壇上でナースキャップを先生に付けて貰えば横にあるナイチンゲール像の手に載せられているだろう蝋燭より自身の蝋燭へ火を分けて貰うと、ぐるりと広い会場内を仄暗い中一周し、自分の席に戻って全員揃ったら一斉にサッと蝋燭の灯を消すんだれけどもである。


 万が一それまでに火が消えてしまうと……蝋燭の火が消えた学生はその年の試験でナースにはなれないと言う恐ろしくも怖~いジンクスがあった訳。


 だからワクワクドキドキの戴帽式じゃなくて、ドキドキでゾクゾク……歩くスピードも優雅にサクサクと――――ではなく、どの生徒もそーろっと一歩一歩と慎重且つ表情は至って真剣そのもの。

 歩く歩幅は蝋燭の揺れる火と共に普通だったり小幅なモノとなったりで、大丈夫だーって調子に乗ると蝋燭の火は儚く消えかかれば静かにストップしてしまう。


 これは断じてスローなワルツのステップを踏んでいる訳ではない。

 学生達は何と言っても真剣なのだ!!

 

 これ程自分達のその後の人生に手の中にある蝋燭の火で左右されるかもしれないと思う職業もないと思う。

 またこんな事で左右される自分達は一体何なのだと思う者も多いと思う。

 

 だがジンクスはしっかりと根強くある訳で、実際に先輩の友人もその所為せいなのかはわからない。

 しかし実際に戴帽式でろうそくの火は消え、そうしてその年の試験は残念ながら不合格だったらしい。

 そんな話を聞けば誰だって真剣にならざるを得ないじゃない!!


 スロー、スロー、クイックではなくっ、ストップ。


 私達はこれを何度となく繰り返す。

 会場では看護部長や家族に友達……と言う大半は彼氏彼女が多いよね。


 控室には花束が山の様に届けられ、これでもかって感じで置いてあるし……ある意味彼氏彼女の品評会も兼ねてるよ……きっと。


 どぉ、私の彼氏彼女いいでしょ……みたいな。


 だからそれぞれの関係者の座席付近へ近づくとね、○○ちゃんって声を掛けたり、写真を撮ったりしてくるんだけれどれもはっきり言って――――大迷惑!!


 こちとら蝋燭の火一つに人生掛けているって言うのにっ、笑顔でとか言われても顔は当然引き攣ってる。

 ええ、ええ引き攣りもするわよ。

 直ぐ前の友達の火が消えたのを見たりしたら――――余計にね!!



 まぁそれでも何度か危うい場面はあったけれどもだっ、何とか消えずに耐えてくれた私の火。

 式を終えた後で聞いたらやはり何人かは消えたらしい。


 だけどそんな感傷にも浸れない。

 お次は難敵とされる臨床実習。


 決められた病院で実際の患者さんと関わりながらお勉強。

 これも運がいいのか悪いのか。

 担当ナースや病棟が良ければ楽しく親切に教えて貰えるのだ。


 だけど一度運が悪いと地獄だよ。


 その病棟にいるだけで窒息しそうになる。

 病室で担当の患者さんとコミュニケーションと取っていればである。


「○○さん、何もせずに患者さんと話してばかりです」


 じゃあ詰所で調べ物をしていると――――。


「詰所ばかりいて患者さんと交流を持たない」


 とその病院の担当教師へチクられる。


 じゃあ看護学生達はどうすりゃあいいんだよ!!


 って言いたくなるけれど文句はれ絶対に言えない。

 ホント臨床実習の担当ナースはエグイ人は本当にエグイんですよ。


 これが白衣の天使かって何回思った事だろうか。


 ま、そんなこんなで試験も受かって学校も無事卒業してやっとナースだーって、ゴールした陸上選手はたまたサッカー選手並みに喜でいればちょっと待ちなさいとばかりに突き付けられるのが現実と言うモノ。


 それにここだけの話……戴帽式で蝋燭の灯が消えた子達、本当に全員試験に落ちました。

 ジンクス怖⁉


 新人ナース、見た目はベテランも新人も変わりないけれどれも熟練の患者さんにはわかるんだよね。


 何処までも甘くないのだ現実は……。

 何かにつけて言われる一言。



 そりゃあね、注射とか色々実技は先輩についてあれだけどって検査に行くのもですか――――⁉

 だけどそんな事で泣いたりしないよ、心の中では滂沱の涙で泣いてるけれど……。



 毎日毎日朝から晩まで早く帰りたいの山々だけれど、先輩達より先に帰れないし当然仕事も終わらないと言うか、仕事なんてものは探さなくとも向こうから幾らでもやって来るのだ!!

 それと同時に毎日が勉強であり覚える事は尽きる事なんてものはない。


 毎日新しい事があって覚える事は沢山で、私の脳みそから零れてしまいそうになるのを必死になって零れない様にしてるんだけれど、教えられる事や必要なモノは兎に角メモへ書いたりして忘れない様にしていた。


 そんなこんなで気がつけばもうナース歴何年……ああもうあっと言う間に10年以上経っているよ。

 自分じゃ自覚ないけれど気づけばベテランさんの仲間入りとなっていた。


 仕事は何とか慣れたけれども毎日忙しいのは全く変わらず――――って更に忙しくなっていない⁇

 それなのにお仕事とば別に看護研究や後輩指導、何とかの委員会や院内外の研修etc……。

 その上担当患者さんの看護計画は立てなきゃだし。


 ナースってホントにしんどい仕事だよ。

 でも……その分仕事にやりがいも感じてはいる。


 患者さんの何気ない『ありがとう』って言葉がめっちゃ嬉しいし、よっしゃ頑張ろうって気分にもなる。


 朝8時頃出勤して17時に終わる筈だけれど何時も早く帰れて19時過ぎ。

 それから深夜入りならコンビニ寄って帰ってシャワーして軽く何か食べてちょっと寝る。


 0時頃には出勤して準夜勤のナースと交代してお仕事開始って言うか、出勤と同時に始まっているよ。

 朝、日勤のナースが出勤して8時30申し送って9時に退社……って出来る訳ないじゃん。


 患者さんが急変したとか、夜間に救急で入院になったとか、ちょっとした事が色々積み重ねられれば処置やその後の記録を書いたりして、帰る頃にはお昼前かぁ。


 正直に言って身体はもうふらふらだよ~。


 それでも帰ってシャワーして直ぐに寝れないんだよねー。

 身体が興奮してる所為もあるし疲れ過ぎてるんだろうなと、これでも元気な職員はパチンコへ気分転換に行くらしい。


 お酒とパチンコはナースの必須アイテム。


 いざストレス発散!!


 だけど私はこの二つのアイテムの適応外だったのさ。


 昔々それは私の生まれる前に私の馬鹿父がね、まぁ良いトコのボンボンで苦労知らずの人だったんだけれど、なんと父方の祖母も苦労知らずの息子を溺愛するイタい人だったらしい。

 何処の世界に結婚祝いに新居を買ったろかーって普通に有り得ないでしょ!!


 まあ私の母が普通の金銭感覚の人だったからそこは丁寧にお断りしたみたいだけれど。


 でも、甘やかされたボンボンは真面目にお仕事をしないのだよね。

 職場を転々と変わっては賭け事に溺れて――――結果母と私ら家族に捨てられたのだ。


 馬鹿な奴。


 同情なんて出来ないししたくもない。

 それにお酒にも溺れていたしね。


 そういう事で私を含め私の家族全員は自然とお酒と賭け事を受け付けない身体になっていたのさ。

 でも後悔はしていない。


 だけどねぇ、飲み会で皆美味しそうにビール飲んだり他のお酒飲んでいる仲間を見るとちょっとだけ羨ましいかも……と思わなくもない。


 それに何と言いましても病院って結構な確率で医師とナースの不倫をしているのって多いんだけれど、それを見ていた故なのかそれとも縁がなかったと言うべきなのだろうか、只今35歳になった時点で婚期逃した感が半端ない。


 うーん出来れば男はいらないから可愛い、そう笑顔の可愛い子供だけ欲しいなぁって最近激しく思のよ。


 忙しい毎日の一服の清涼剤。

 癒しの子供……子育てはきっと想像するよりも大変だけれども、我儘を聞くのは病院の患者さんで慣れてるしさ。


 でも、これだけ忙しいと子供は可哀想かもしれないね。

 休日でも委員会とかで病院行っちゃうし、実質本当のお休みって余りないもんね。


 きっとその内過労死するよって、この前夜勤で話してたっけ。

 笑えない冗談なのに何故か笑えてくるわ、現実になりにそうで……。


 さ、後は担当患者さんの転院する書類制作しないと、やっと明日はお休みなのに夜中来て仕上げなくちゃいけなくなるやん。


 明日はさかえっちと美味しいお肉のお店を見つけたからやっと行けるんだもんね。


 そう、私はくるっときびすを返して詰所に戻ろうとしたんよ。


 書類制作しな、きゃ……?


 明日……お肉、美味しいお肉沢山……食べ――――⁉

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