第4話 王室主催の夜会

 まぁ、そうなるよね。

 分かってた。だって小説通りだもの。

 迎えに来る時間より少し前に届いた手紙。

 そこには、どうしても所用があり今日のエスコートは出来ないといった内容が書かれていた。

 父や兄は、憤慨していたけど……。


 小説でもそうだったけれど、この日の夜会、アイリーンをエスコートするのは、実の兄なんだよね。

 

 ヒロインのソフィアは、アルフォードがエスコートして会場入りしないと男爵令嬢の身分では王室主催のこの夜会に出ることは出来ない。だから、伯爵家以上の身分の方のエスコートが必要なんだ。いくら身分差が緩くなっているとはいえ王室は別格だから。



「あら。アイリーン様。お久しぶり。昨年のシーズン以来だわね」

 会場に着いて、一通り兄と挨拶まわりを済ませた後、王太子殿下のご婚約者エルミーヌ・フォン・ブリュニョン公爵令嬢が近づいてきた。

 私は少しホッとして礼を執る。ここでエルミーヌが話しかけて来たって事は、逆ハーレムルートだ。

「エルミーヌ様。お久しぶりでございます」

 第二王子殿下のご婚約者アリーヌ・フォン・ヴェリエ公爵令嬢も近付いて来ていた。

「アイリーン様もお気の毒ね。アルフォードも、婚礼前のこの夜会の意味を知らないハズは無いでしょうに」

「アリーヌ様。お久しぶりでございます」

 私はアリーヌ様にも礼を執った。

「ああ。ほら、いらしたわ。アルフォードにエスコートされたが」

 エルミーヌ様がクスクス笑いながら言っている。


 夜会会場は、少しざわついた。



「面白いこと。挨拶をしようとしても誰も相手にしていないわ」

「当然よねぇ。本来ならアイリーン様と挨拶まわりをして、婚礼の事を話題にしないといけないのに」

「はぁ。そうなのですね」

 私はお二方の話に付いて行けず、つい間の抜けた返事をしてしまっていた。


「まぁ、嫌ですわアイリーン様ったら。そのおつもりで先ほど、兄君と挨拶まわりをしていたのではなくて?」

 ああ。それで兄が急かすように挨拶まわりを済ませていたのか。

「兄が挨拶まわりを始めたので、そんなものなのかと……」

「そう。そういう作戦でいくのね。分かりましたわ」

 私にも分からない事を、勝手に分からないで欲しい。面白い事に加担するようなエルミーヌ様の表情に私は一抹の不安を覚えた。

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