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 これはどういう状況だろう。

 女子に人気のカフェで、オレはこの世界のヒロインと思しき美少女と対面している。

 白を基調につくられた内装と優雅な音楽が流れる空間は、女子高生には大人びた場所に思えるが、目の前の彼女には合っている。

 まるで映画や漫画のワンシーンを見ているようだ。


 おかしいだろ、どう考えてもここに座るのはオレじゃない。

 端の席に座っている、ああいう顔のいい……って、あれは迅!

 迅はオレ達のことが気になるのか、こっそりとあとをつけて来たようだ。

 もう一人の見知らぬフツメン系ラブコメ主人公候補の姿はない。

 女性やカップルが多い店内で、男一人の迅は浮いている。


「どうかしました?」

「あ、ごめん。なんでもないよ」


 注文していたインスタ映えするというフルーツドリンクを飲んだ。

 お洒落な店のロゴが入った瓶に、ゴロゴロとフルーツが入っているドリンクで、正直に言うとオレにはこの美味しさは分からない。

 ミキサーにバナナとリンゴと牛乳をぶち込んで作った、家のミックスジュースの方が美味い。


 正式名称が分からない柑橘類の何かをストローで突きながら考える。

 まさか、オレはチャラ男主人公だった?

 オレの時代が来てしまった?

 ……いや、そんなわけがないし、来ても困る。


「可愛いお店ですね。ドリンクも美味しいです」


 この店を選んだのオレだ。

 ナンパ場所周辺の店はリサーチ済だ。

 相手によってカラオケに行ったり、ファミレスに行ったり、こうしてカフェに来たりする。


「気に入って貰えたようでよかったよ。インスタ映えするから人気なんだよね」


 そう言いつつも、自分は写真も撮らずに飲み始めてしまったドリンクを指さした。


「あ。私、写真を撮ればよかった……。まだそんなに飲んでいないし……大丈夫かな?」


 彼女が慌ててスマホを取り出す。

 自分が頼んだドリンクにレンズを向けた後、カシャリというシャッター音が聞こえたのだが……。

 今、ドリンクというより、その向こうにいるオレを撮らなかった?


「や、やっぱり飲みかけの写真だとイマイチですね」


 彼女ははにかみながら、スマホを隠すように可愛いカバンに戻した。

 ……オレの自意識過剰だよな?


「カップルばかりですね」


 店内を見回しながら彼女が呟く。


「そうだね! オレ達もそう思われてるかな?」


 もちろん『僕』ならこんなことは言わないが、今は陽キャオートが入っているのでこんなことも軽く言ってしまう。

 でも、普段とは違って、今日は落ち着かないというか……そわそわしてしまう。


「そ、そう、ですかね?」


 戸惑いながら笑う声に、オレとカップルと思われて嫌だったのかな? と思ったが、どうやらそうではないようすだ。

 顔は赤く染まっていて、それを隠すようにうつむいているが、髪をかけていることで露になっている耳も真っ赤だ。


 ……そういう反応をされると困る。

 なんだかオレの顔まで熱くなってきた。


 落ち着くためにドリンクに手を伸ばしたところで気がついた。

 あれ? 陽キャオートのがオフになっている?

 スイッチが入っているときのオレは、ほとんど照れることがないのだが……。


「あの……」

「うん? あ、ごめん! ぼーっとしちゃって」

「いえ! その……私のこと、覚えてますか?」

「え?」


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