「君、可愛いね」のナンパモブだが、ヒロインのナンパに成功してしまった!

花果唯

1

 彼女を見た瞬間、オレは自分に与えられた『役割』を悟った。

 足が自然に動く。

 涼しげな水色のワンピースを着た、黒髪の美少女に向かって突き進む。

 そして――。

 彼女の前に立って進路を塞ぎ、声をかけた。


「君、可愛いね! 一緒に遊ばない?」


 ……このナンパは失敗する。

 断られることは分かっている。

 それが『必然』だから、傷つくことはない。

 ただ、与えられた運命を全うする……それだけだ。

 彼女をしつこく誘って不快にさせるのが、オレに――『ナンパモブ』に与えられた使命なのだ。

 だから、ゴミを見るような目で見られても構わないし、スルーでもOKだ。

 もしくは、イケメンが助けに来るパターンか?

 だとしたら、もう少し強引に誘わなければいけないだろう。

「セクハラごめん」と思いながら、彼女の肩に腕を回す。


「!」


 彼女がオレの行動に驚いている。

 恥ずかしいのか、怒っているのか……顔が赤く染まっている。

 どちらにしろ困惑しているだろう。

 申し訳ないと思いながらも、「ほら、イケメンの出番だぞ」と待っていたら、彼女が声を発した。


「……喜んで」

「声も可愛いね! でも、『喜んで』なんて悲しいこと言わな……い……で? …………は?」


 予想していた反応と違ったため、オレの脳は一時停止した。

「喜んで」とは、どういうことだ?


 喜ぶ→嬉しい→好意的、肯定的→「遊ばない?」に対する回答、「OK!」


 いや、まさか……。

 信じられず、彼女に目を向けると視線がぶつかった。

 黒の大きな瞳が揺れている。


「こうしてあなたに声をかけて貰える日を、ずっと夢見ていました」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る