第16話 美少女王子の異母妹2

「今俺はクロードとミュリエルの婚約者候補を探しているんだが、何か意見はあるか?」


 少し前に王宮が揺らぎました。

 お母様がずっと躍起になっていた王位継承にようやく決着が着く出来事が起こったのです。

 クリストファーお兄様は旅立つことになりましたし、シルヴァンお兄様は隣国に留学に行くことになりました。お母様も王宮から離宮に住まいを移すことになり、正妃の座はそのままですが王宮内での権力はないに等しい状況となりました。

 結局クリストファーお兄様は被害者でもあるらしいですけれど、処罰は免れられなかったということのようです。

 ただ姉妹である私にまで波及はしないらしく、私はいつも通り過ごしていました。シルヴァンお兄様曰くフレデリックお兄様に任せておけば悪いようにはならないそうですから。


 そんな私の元にフレデリックお兄様から呼び出しが掛かったのです。


「婚約者候補、ですか?」


 こんな時に何故2人の婚約を世話しているのでしょう。

 相変わらずこのお兄様は意味が分かりません。

 シルヴァンお兄様が早々に諦めたのも理解出来ます。


「クロードとミュリエルの姉は俺の婚約者だ。俺の婚約者ということは次期王妃だ。次期王妃の実家の者に婚約者が居ないと荒れるだろう。だから俺の立太子発表前に婚約させる。だが、下手な奴を付けたくないからな、お前等なら親しいだろう。誰が良いとか意見を聞かせてくれ」

「こんな候補者なんて要らないよ。ミュリエルの婚約者なら相応しい奴がここにいるじゃないか」


 ヨアンが即座にそう言います。

 まあ、ヨアンがミュリエルを好きなのは周知の事実でしたし、こう言うのも分からなくはありません。


「王族の婚約者の妹が王族と婚約するのか?」

「そ、それは……」


 そう。初めからその恋は成就しないのです。

 そのようなこと誰もが分かりきっていました。

 ミュリエルも、だから決してヨアンの恋心に気付かないふりをしているのを知っています。


「ふ。冗談だ。お前ならそう言うと思ったよ。ほら、この条件で良いなら俺はお前の恋を応援してやろう」

「!! ほんとか!? ありがとう、フレデリック兄さん! よっし、フレデリック兄さんが応援してくれるなら大丈夫だっ」

「喜ぶのは良いけど、ちゃんと自分で手に入れろよ」

「勿論さ。こうしちゃいられない。作戦を――」

「ちゃんと目を通せ。お前以外にも候補者は居るんだ」

「必要ないだろ!」

「選ぶのはミュリエルだ。お前の恋は応援するけど、大事なのはミュリエルの幸せだろう? そこを履き間違えるな」


 そうですか……ヨアンはずっと好きだったミュリエルと、両想いになれるのですね……。

 ………………羨ましいです。


「セシル」

「あ、は、はいっ」

「セシルもまずは目を通してくれ」

「……はい」


 ミュリエル。

 本当の妹のような、誰よりも親しい親友のような、そんな子。

 フレデリックお兄様のあの物静かな婚約者の妹とは思えないくらい明るく朗らかな子。

 私と同じように、いえ、私以上に過酷な環境で育ったにも関わらず、その面影は全く見えない。

 あの子ならどこでも笑っていそうだし、誰とでもきっと幸せになれるのでしょう。


 クロード様。

 私の方が1つ年上だけど、皆の兄として私達を引っ張ってくれていた、とてもしっかりした人。

 とても優秀な姉が居る反動で、本人も優秀なのにも関わらず平凡だと思い込んでいる少し謙遜の過ぎる人。

 過酷な環境を耐え抜きはしたものの、原因である姉に救って貰ったお陰か未だに姉に囚われている少し不憫な人。

 けれど笑顔が素敵で、彼と居るといつだって幸せな気持ちになれる。

 彼ならきっと誰とでも素敵な家庭を築けるのでしょう。築けるのでしょうけれど……このもやもやした感情はなんなのでしょう。


「え?」

「ん? 何かな、セシル」

「あ、いえ、あの、私が……」


 クロード様の婚約者候補の書類を捲っていると、私の書類がありました。


「ああ。当然だろう? セシルはクロードと1つしか歳が違わないんだ。人格にも教育にも問題はないのだし、候補になるのは当然じゃないか」

「……………………」


 私が、クロード様の、婚約者候補…………。

 クロード様の、お嫁さんに、私がなる……可能性が、ある…………。


 何でしょう。

 それは、凄く、素敵なことに思えました。


 結局、私は自分の書類を抜くことはありませんでした。

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