絶望世界の世界再構築

プロミア

世界に絶望した創造神

ここは天上界”アスライム”。全知全能の神グラント様が長を務める神のみが暮らす世界。ここで誕生した神はまず最初に世界の創造を命じられる。そして、その世界の創造神として、世界をより良い方向へと発展させ最終的に世界を完成させるという課題をグラント様より与えられる。


 これまでアスライムでは、千を超える神々によって様々な世界が誕生してきた。魔法や超能力が存在する世界、重力の存在ない世界、機械化された世界、悪魔や動物といった人間以外の生物が制する世界など、神それぞれが趣味や思考に合った世界を生み出している。しかし、その中でも滅ばずに生き残った世界は両手を使えば足りるほどだった。


 そしてアスライムに新たに私、アネモイという神が誕生した。私も当然グラント様から世界の創造を命じられる。私はどのような世界を誕生させたいか試行錯誤を繰り返す中、人間という可能性をどうしても捨てられず、最終的に魔法の存在する人間が主役の世界にすることに決めた。そして、アスライム内にある世界を創造するための特別な装置を使い神技”ビッグバン”を発動させ、私アネモイが創造神を務める新たな世界が誕生した。


 新たな創造神となった私は、ここでとある選択肢を迫られることになる。このままアスライムに残りその世界の住民の力のみで世界を成長させていくのか、神自らも世界の住民となり人間とともに世界を成長させていくのかの二択である。多くの神はそのままアスライムに残り世界の成長を見守る選択肢をとっている。その理由として、その世界で生きる生物をゲームの駒としか見ていない神が多いというのが挙げられる。自身の創造した世界で生きる生物に対して世界を成長するための試練だと称し、自然災害や戦争を起こし世界の反応を見て楽しんでいる。当然そんな世界は成長する前に滅んでしまっている。私はグラント様からの期待を裏切りたくない思いと他の神とは違うというところを見せたいという自分で得た勝手なプライドから、世界の住民として地に降りるという選択をとった。


 だが、世界を成長させるのはその世界で誕生した人間にしかできない。私は先導者としてまずは人間に、魔法と世界を発展させるための知恵と知識を与え、ある程度発展できたならばそれから先はすべて人間たちに任せ、私は時間の流れとともに世界の成長を見守っていこうと考えた。この頃の私の眼には、希望のみが映っていた。決して自分は失敗はしない、他の神とは明らかに違うという謎のプライドが、私の眼に光を与えていた。それが何の支えにもならないまやかしの光だとも気づかずに。そして私は、決して自分を疑わぬプライドと希望のみを抱いて、自分の創造した世界に降り立ったのだった。


 私が創造した世界に降り立つと、そこにはのちに原初と呼ばれる世界とともに誕生した人間が男女ともに5名ずつ、計10名いた。私は原初の彼らにまずは生きていくための知識や後世を残すための方法を教えた。そして生活がある程度できるようになると、世界の早期発展のために人間に魔法を与えた。そして1年も経たないうちにやがて人間は、火の魔法で調理をし、水と土の魔法で緑を増やし、その緑で衣類や建造物といった、生活に必要な衣・食・住を習得していった。ここまでくればもう私の出番はもうない。あとは人間たちに任せ、私は見守る立場に戻ることにした。


 それから100年の時は流れ、原初と呼ばれる人間の寿命も尽きかけ、私が神と知る人間が少なくなってきたこの世界は創造時と比べると大きく変化していった。建物は木造からレンガなどの土を加工したものへと変わり、鉄やアルミニウムといった金属を得ることでこれまでになかった道具や調理方法などを発明していった。さらに人間の中でいくつかのグループができ始め、世界のあちこちで国と呼ばれる集落が造られていった。中でも一番の成長を見せたのは人間に与えた魔法だった。最初は火や水、土、風といった生活を行う上で必要最低限のものしか与えていなかったが、人間はそれをさらに発展させ、水や風の温度を変えたり、水と土の魔法を組み合わせて、新たに植物の魔法を創り出すなど人間による世界の発展は私の予想を良い意味で大きく裏切ってくれた。これでもうこの世界は安泰だと、やはり自分が神の中でトップクラスの実力だとこの時の私は確信していた。そんな中、世界は大きく崩れ始めようとしていた。一部の人間の思考によって。


 それから10年も経たないうちに、世界は思わぬ方向へと変化していった。人間は互いに協力していくうちにやがて支配を覚えた。己が武力で相手を叩きのめし、相手の意思関係なく無理矢理に従わせる。厄介なことに人間にとってそれが快楽にもなり、どんどん欲望が広がっていく。これまで国と呼ばれるものは、単なる人間関係をくっつける接着剤のようなものだったが、いつの間にか武力の高い人間が弱いものを従わせ閉じ込めるための檻へと変わっていった。やがて人間の上に立つ者の条件は武力から権力へと変化をし、全員が同じ位置にいたはずの足元に見えない段差が生まれ始めた。


 さらに人間の欲望は留まることを知らず、自分が納める国のみでは満足できずに愚かにもほかの国にも支配の手を伸ばそうとするようになった。そこで使われ始めたのが、世界の成長のために私が教えた魔法だった。愚かにも人間たちは、魔法を支配のための道具として利用し、逆らう者には容赦なく命さえも奪っていった。そして支配が進むたびに人間の欲望はその者をさらに醜くしていった。自分以外の命を軽く見るようになり、魔法を使った戦争でどれだけ部下が死のうがお構いなしに自分の欲望を満たすための争いは各地に広がりを見せた。自分さえ無事なら全て良い、部下の命は自分を守る盾だ、私は神に選ばれた人間なのだ。そんな人間の勘違いが世界を醜く変え始め、私を絶望の底へと貶めた。これじゃあまるで、生物を駒にして楽しむ他の神とやっていることは何も変わらないじゃないか。


 そして10年後、世界の各地で権力を手に入れた人間たちによっていくつもの国が出来上がった。10年前と比べて他国を支配しようとする戦争は少なくなってきたが、それでも人間の欲望が消えたわけではない。武力を用いずとも、様々な方法で他国を支配しようとする企てを各国が常に練っている状態だった。もはやこの世界は私の理想とした世界とは完全に真逆の世界となっていた。


 私は分からなかった。いったいどこで間違えたのか、何が人間をこのように変えてしまったのか、人間にすべてを任せるのは間違いだったのか。人間の愚かさに、情けなさに私は絶望していた。やり方は違っても結局他の神と通る道は同じではないか。もはや愚かな人間どもが治めるこの世界に未来などない。もう私の望まぬこの世界など滅ぼしてしまおう。そんな考えが頭をよぎり始めた。

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