そのお爺さん全国指名手配犯にして最強の名を持つ爺王!?

光影

第1話 お爺さん覚醒



 ――四月の春は新しい発見で一杯。


「なぁ、親父?」


「なんじゃ?」


「朝早くから付き合わせて悪い。どうしても七瀬に新しい洋服を買ってあげたかったからさ」


 ある中年の男――和也は隣を歩く年を召したお爺さんに告げた。

 和也の背中には、「じぃーじぃーじぃー」とお爺さんを呼ぶ可愛い娘が一人いる。

 朝早くから元気が良い娘と一人では心細いと言う理由から早起きをしたお爺さんを連れて三人は買い物に来ていた。そして新聞に挟まっていたチラシを見た七瀬が「ほちぃ」と言った洋服を和也は買ってあげたのだ。喜ぶ七瀬の顔を見た二人の表情はとても柔らかくなっていた。


「構わんよ。それにしてもこのワシに孫か。長生きはするもんじゃなのぉ~」


「なんだよ。まだまだ元気でいて貰わないと七瀬が悲しむだろ。なぁ七瀬?」


「じぃーすゅきぃ」


 まだ慣れない言葉で頑張って思いを伝えてくれる七瀬にお爺さんは幸せを感じた。


「そうじゃの~七瀬の為にもまだまだ頑張ろうとするかの」


 お爺さんは嬉しい気持ちになる。

 まさか孫娘から好かれるだけでなく、こうして好きとまで言ってもらえたからである。正直今なら死んでも悔いがないと思いつつももう少しだけ頑張って生きてみようと心の中で一人思っていた。

 そんなお爺さんは白い髪が肩下まであるためポニーテールにしてまとめており、髭はしっかりと剃っていて、腰は曲がり、かつてはムキムキだった身体も今では痩せこけ手足はゴボウのように細くなってしまっている。と正にご老体と言ってもあながち間違っていない。


「それにしても今日は平和だなー」


「そうじゃのぉ~」


「七瀬もそう思うだろ?」


 和也が七瀬を担いで高い高いをしてあげなら言った。


「うわぁぁぁいい!」


 手足をバタバタさせて喜ぶ七瀬。

 やっぱり孫娘は何度見ても可愛いとお爺さんが思っていた時だった。

 一台のスクーターが和也の近くをスレスレで通り過ぎて行った。


「ったく危ない連中じゃのー」


 お爺さんはフルフェイスマスクを被り通り過ぎて行った男二人をチラッと見て呟いた。


「まてぇーーーー!」


 すると和也の声が周囲に響き渡る。

 周辺にいた人達も和也に同調するかのように悲鳴に似た声を上げている。

 一体何があったと一人置いてけぼりになったお爺さんは和也の元へと行く。


「どうした?」


「七瀬が誘拐された。さっき通っていたスクーターの奴らに」


 その言葉を聞いた瞬間、お爺さんの目つきが鋭い物へと変わる。


「本当か?」


「あぁ。間違いない! とにかく警察に連絡するから親父はここで待っててくれ」


 ポケットからスマートフォンを取り出し110番通報をしようとする和也をお爺さんが止める。


「そんなことしてももう遅い」


「ざけんなぁ、親父! 七瀬がどうなってもいいって言うのか!?」


 お爺さんの胸ぐらを掴み、目が血走り始めた和也。

 それに声のトーンから判断するに慌てている。

 対してお爺さんは落ち着いていた。


「離せ。警察では間に合わない、ただそう言っただけじゃ。ワシが全部片付けてくるからお前は先に家に帰ってろ」


 そう言って和也の手を離し首をポキポキと鳴らし始めた。


「お、おやじ……」


「あのクソガキ共を今から血祭にあげてくる」


 一見よぼよぼで頼りがいがないお爺さんが気合いを入れる。


「はぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁあああああ!!!!」


 その気合いに答えるようにして徐々に膨れ上がってくる筋肉。

 先ほどまでゴボウのように細かった手足の筋肉が膨れ上がり血管を浮き上がらせながら膨張していく。曲がっていた背筋が伸びる。


「こ、これは……」


 驚く和也と周囲の人々。

 だがまだ終わらない。


 さっきまでなかった胸板が服越しでもわかるぐらいに出来上がり腹筋が六つに割れた。


「距離は四百と言ったところか……」


 ボソッと呟き肩を回し始めるお爺さん。


「ま、まて、親父。相手はスクーター。幾ら親父でも無茶だ」


 ようやく和也はもう何十年も見ていなかったお爺さんの怒髪天を突いた怒り状態に頭が追いついてくる。


「安心せい。ワシが散るときは七瀬から嫌われた時以外ありえん!」


 そう宣言し走り始めたお爺さん。

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