第15話 連続ナイフキルを狙うぞ!

 何故そうしたのかは不可解だけど、敵はトラップを設置していたらしい。

 中央の道を突破されることを想定した?


 僕達の行動を遅滞させるためなら、自分達が制圧した拠点の近くに設置すればいいのに……。


 何はともあれ、ライフがゼロになった僕の兵士は倒れて、画面がゆっくりと赤く染まっていく。

 30秒が経過するか追加攻撃を食らったら死亡する。

 それまでに衛生兵が蘇生キットを使ってくれたら、復活できるんだけど……。


 倒れた僕の上で弾丸が行き交い始める。

 拠点Bを護る味方と、攻める敵という構図だ。


 味方は乱射しまくっている。

 銃撃音はすれども、キルログは表示されず……。


 敵の攻撃も味方の攻撃も殆ど当たっていないらしい。


 あ。

 倒れている僕の所にモジャモジャが来た。


 いやいや、何やってんの。

 ダウン中の僕を安全地帯に引きずっていこうとしているみたいだけど、すぐ近くに敵が居るじゃん!

 撃たれるぞ! 死ぬぞ!

 偵察兵なんだし、前線に出てくるなよ!


 あ、奥から防弾シールドを構えた敵兵士が歩いてきた!

 腰を低くして全身を隠しながら、じりじりと進んでくる。


 盾に味方の弾が何発か当たって火花が散っている。


 駄目だよ。

 バリスティックシールドには銃弾は効かないから、爆発物使って!

 モジャモジャは偵察兵なんだから、C4爆薬を持っているよ!

 C4を盾にくっつけて起爆すれば倒せるから!


 あ、ああっ……!


 敵が盾でモジャモジャを殴った。

 ゲームのセオリーが分かっていないモジャモジャは殴られているのに、僕を助けようとし続けて、もう一発殴られてダウン。


 ダウン状態で観察していて気付いた。

 うちのチーム、衛生兵ばかりだ……。


 衛生兵の軽機関銃は精度が低い代わりに、大量の弾を連射できるという特徴がある。

 つまりじっくり狙って撃つよりも、弾をばらまきたい人向けの兵科だ。


 そして、敵は防弾シールド装備の突撃兵ばかり……。

 なんで、こんなに偏ってるの?!


 ぶっちゃけ、味方の編成で勝ち目はない。


 味方は軽機関銃を乱射しまくる。

 敵は防弾シールドを構えてじりじりと前進。


 ネタプレイしているわけじゃないのに、こんな状況になることってあるんだ……。


 このまま味方は敵に接近されてみんな盾に殴り殺されるのだろうかと心配しながら見ていると、アリサが匍匐前進で僕の死体の上を越えていった。


 そ、そうだ。

 頼れる相棒が居た!

 防弾シールドでガチガチに固めた敵に、突撃兵で何をするつもりだ?


 アリサは少しずつ敵集団に近寄る。


 ああ、アリサめ、ネタプレイしてる……。

 普通、見晴らしのいい場所で匍匐前進なんてしていたら、敵集団に気付かれて撃たれて殺される。


 けど、撃たれない。


 そうか。

 森マップは夜だから画面が暗いし、敵プレイヤーは画面全体が殆ど自分の盾で覆われいるから、覗き窓の狭い視界では、アリサのことは見ないんだ……!


 いやいや、盾野郎は四人も居るんだから、普通、ひとりくらい気付くよね?


 しかし敵は気付かなかったようだ。


 アリサは敵集団の最後尾まで這い進むと立ち上がり、ナイフでひとり仕留めた。


 ふたり、三人……。次々とナイフで仕留めていく。


 おい、敵ぃ、気付けよ?!

 自分達の隣で仲間が斬り殺されているんだぞ!

 スニークゲームのCPUじゃないんだから、気付いて!


 悲鳴が聞こえるでしょ?

 そのゲーム音声、味方が斬り殺されたときのやつだよ!


 キルログに3連続でナイフキルが出てるでしょ!

 もしかして、キルログ見てないの?


 こうして、連携したわけではないのだろうけど、味方が機関銃で敵の注意を引きつけているうちに、アリサが全敵をナイフで仕留めることに成功した。


 もしかして、味方だけでなく敵も練習時間が無かったのかな……。

 相手チームはプロスポーツ選手だから忙しいだろうし、簡単な操作練習だけしたのかな?


 アリサのネタプレイの後、僕は援護兵が近くにいっぱい居るのに誰にも蘇生されることなく、死亡した。


 僕は突撃兵を選択し、拠点Bから再出撃。

 アリサに合流する。


「お待たせ」


「カズ遅い。私、4連続ナイフキルしたよ!」


「うん。見てた……。ナイフオンリーのネタ部屋でも見たことのないキルログに震えが止まらん……」


「気付かれるかもしれないからすっごくハラハラした! 全員斬って、すっごい興奮した!」


 アリサの操作する兵士が銃を肩に担いで顎をしゃくる。


 歴戦の兵士を思わせる渋い仕草を見て、ふと、実際のアリサはどうやって操作しているのだろうと気になった。


 僕はゲーム画面から目を離して、右隣に居るアリサを見てみた。

 アリサは兵士と同じポーズをしていた。


 ライフル型のコントローラーが1メートルもあるから小柄なアリサは不格好だ。


 対照的に、様になっていたのはジェシカさんだ。

 僕は首を回し、左隣のジェシカさんを確認する。

 いつか何かで見た軍人の写真みたいに、ライフルを格好良く構えている。


 身体と銃に隙間がないというか、銃と身体が一体化しているというか、とにかく様になっている。

 アリサみたいな、銃に振り回されている感がまったく無い。


 ゲーム内でもきっと活躍しているんだろうなあ……と思って、僕はゲーム画面に視線を戻す。


 すると、僕の背後で突撃兵がくるくる横回転していた。

 兵士の頭上に表示されるIDから察するに、その兵士はジェシカさんだ。


「ジェシカさん何やってんですか……」


「銃を構えて狙おうとすると、画面が横回転し始めるんだよ。なんでだよ。アリサと同じようにやっているんだぞ」


「画面が横回転? 操作設定かな? 確か銃型コントローラーは、何かのボタンを押した状態だとエイムで、押していない状態だと兵士の方向転換だった気がします。ねえ、アリサ」


「何?」


「ジェシカさんにコントローラーの操作設定の変更方法を教えてくれない? 多分、アリサと同じにした方がやりやすいし、説明しやすいだろうし」


「ん、分かった……。あーっ!」


 アリサの操作する兵士が爆発。

 周囲が炎に包まれる。

 再出撃してきた敵の対戦車ロケットランチャーに撃たれたようだ。

 僕達がいつまでも拠点Bに居残って会話していたから、いい標的だったらしい。


「カズのせいで死んだー!」


「ご、ごめん……」


 謝ったけど、聞こえなかっただろうなあ。

 僕も爆発して死んだから……。


 敵が拠点Bの制圧を開始した。

 ジェシカさんも死んだ……。


 どうしよう。

 まだ奪回されていないから、拠点Bから再出撃できるけど……。

 再出撃待ち中は仲間とボイスチャットが出来るから、相談しよう。


「アリサ、みんな死んだし、本拠地でリスポンしよう。安地でジェシカさんに操作方法の設定変更を教えて」


「分かった。ジェシー、いい?」


「ん。了解」


 僕、アリサ、ジェシカさんは米軍の本拠地から再出撃。

 ジェシカさん操る突撃兵はカクカクと左右に回転し始めた。


 左隣のゲーム台を見てみると、ジェシカさんがアサルトライフル型のコントローラーを構えて下ろして、構えて下ろして……と何度も繰り返している。


「揺れてる……」


 ジェシカさんの胸が、身体の動きに合わせて揺れている……。

 格闘ゲームの巨乳キャラほど下品な揺れはせず、じっくり見なければ分からない程の揺れだが、僕はじっくり見ているから、揺れているのが分かる……。


「あー。カズからも揺れてるの分かる? やっぱ揺れるよな」


 しまった。

 つい口に出たのが、本人に聞かれた。

 慌ててゲーム画面に視線を戻すけど手遅れだ。


 どうしよう。ジェシカさんに軽蔑される……。


 けど、僕の不安とは裏腹に、ジェシカさんはいつもの明るい調子で口を開く。


「画面が揺れてどうにもならん。もしかして真っ直ぐ前に移動するには、銃口を画面中央に向けたままにしないといけないのか? レディポジションだと移動できない?」


 た、助かった!

 僕が揺れてるって言ったのが、胸ではなく、ゲーム画面のことと勘違いしてくれた。


「あっ」


 パコンという効果音とともに、画面が小さく揺れる。

 自拠点なのに撃たれた。

 ライフは減っていないから、味方からの誤射だろう。

 着弾の音が軽いから、威力の低いハンドガンだな。


 たまに、乗り物を寄越せとか同乗させろとか、何かしらの意図を伝えるために撃ってくる人はいる。


 しかし、バギーが二台余っている。

 乗り物が欲しくて撃ってきたわけではない?

 じゃあ、なんで撃たれたんだ?

 分からないけど、とりあえず僕は兵士を少し移動させる。


 けど、また、パコン。


 パコン。パコン。


 移動しているのに、ものすごく正確な射撃が防弾ヘルメットに炸裂して、情けない音を鳴らす。

 移動している兵士にハンドガンで連続ヘッドショットするなんて、かなりの上級者だぞ。


 こんなことができるのは……。


「アリサ、当たってる」


「当ててるもん」


 背後からアリサの不機嫌そうな声がした。


「カズ、ジェシーの方、見てた」


「み、見てないよ」


「見てたの見てたもん!」


 いくら何でもジェシカさんのおっぱいを見ていたことまではバレていないと思う。


「な、なんでアリサが僕の方を見ていたんだよ!」


 僕はくねくね曲がったりぴょんぴょん跳ねながら走ったが、背後の声は遠ざからないし、ヘッドショットの音も続いている。

 その技量は敵を倒すために使ってくれよ。


「べ、別にカズが気になって見てたわけじゃないもん」


「なんで?! 仲間なんだし位置とか装備とか気にして、常に見ててよ! 僕はアリサのこと気になるから、ちゃんと見てるよ!」


 FPSは自分の状況はもちろん、味方の状況にも気を配る必要があるのだ。


「えっ……! そ、そうだよね! 気になると、つい見ちゃうよね……。アリサがカズのこと気になって見ちゃうのは、普通だよね? ……うん。……もう、カズは私が助けてあげないとひとりじゃ、なんにもできないんだから。ほんと、ザコなんだから。えへへ。ザ~コ」


 ん?

 僕の説得が通じたのか、射撃がやんだ。

 なんかアリサが上機嫌になってる。何故だ。


 さて、得点を見たら8対15で負けてる。

 というか味方は僕とアリサが最初に敵を倒した得点しか入ってない。

 いつの間にか拠点を三つとも制圧されているから、数十秒が経過するごとに敵にポイントが入る。


「なんか敵の方が上手い……」


「あー。オレ達は昨日、参加が決まったけど、プロスポーツ選手チームは事前に参加が決まっていたから、少しは練習してきていると思う」


「そういうことですか。確かに、僕も昨日いきなりメッセージで招待されたし……」


 他のプレイヤーも同じ状況だとしたら、初プレイでまともな操作は厳しい。


「僕、バギーで拠点Cを獲ってくるから、アリサはジェシカさんに操作説明しておいて」


「うん」


「復活組の人にも、このラウンドは操作練習に専念してって伝えておいて」


 僕は米軍本拠地に有るバギーにC4爆弾を設置してから乗りこむ。


 バギーを操縦して拠点Cへ向かう。

 舗装されていない道路を走るから車体は大きく跳ね、画面が揺れる。

 けど、僕は乗り物の操作は得意だから、一度も木にぶつかることなく、拠点Cに接近。


 拠点Cは穴を掘った中に何か可燃物を入れて作ったらしき焚き火が幾つも有り、視界が確保しやすい。

 パッと見、敵は居ない。

 折角、C4バギーをぶつけて起爆して敵を倒そうと思ったのに……。


 僕は敵側通路にバギーを放置して、拠点中央にある縦穴へ向かう。

 穴の先は地下通路になっていて、拠点Aのコテージの地下室へと繋がっている。

 ここから敵がやってくる可能性もあるから、警戒は怠れない。


 拠点制圧ゲージがゆっくり溜まっていく。


 敵チームは、B、C、Aの順に拠点を制圧していったから、僕の予想が正しければ、敵プレイヤーの多くは拠点Aに居るはず。いま、急いで拠点Cに向かってきているところだろう。


「来た……。ソ連軍拠点側からふたり! 喰らえッ!」


 敵プレイヤーがバギーの近くにさしかかったところで、C4爆弾を起爆。

 ひとり倒した。

 残ったひとりも重傷だろう。


 僕はハンドガンを連射し、生き残りを始末。

 さらに拠点の制圧が完了。


 その後は拠点を獲ったり、獲られたりの繰り返し。


 敵も味方も、拠点を護るという発想はないらしく、常に敵拠点の奪回を試みていた。


 僕とアリサが拠点Aを奪取してから防衛に専念してみたんだけど、そうしたら、味方の攻撃力が下がってしまったらしく、拠点BとCが敵の手に落ちたまま。


 事前の練習量の差が出てしまったらしく、スポーツ選手チーム優勢のまま第一ラウンドは終わった。


 72対100で敗北。


 ラウンド終了後の成績画面を見ると、いろいろ分かる。


 なんと僕が9800点で成績一位。

 二位のアリサが6200点。

 この点差は僕が拠点制圧を担当していたことや、アリサがジェシカさんに操作設定の変更をレクチャーしていたことが影響しているだろう。


 僕のキルデス比は、24:5。

 24人倒して、5回死んだ。この好成績は相手がFPS初心者だったからだろうなあ。

 アリサは32キル2デスとかいう、狂った成績を出している。


 成績三位は味方のGameEvent01で2400点。

 9キル6デスという、けっこう良い成績。

 もしかしたらFPS経験者かも。


 他は似たような得点ばかり。1000点前後で、1キル5デスくらい。


 ジェシカさんは、4キル4デス。

 初めてで敵を殺せたのなら上出来。


 やはり、主力は僕とアリサか。


 というか、このゲーム大会、初心者ばかりなんだけど、いいの?

 動画配信しているんだよね?

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