雨と不思議なシスター

 ………やられた。


 学校の玄関から恨めしげに空を見上げる。視界に移るのは、午前中の快晴が嘘だったかのようにどんよりとした色の雲が空を覆い尽くしており、雨が降っている。


 これは間違いなしに、なんの対策もしないで帰ったら高確率で明日風邪になんな………。恨むぞ、お天気お姉さん………。


 はぁ、とため息をひとつこぼすと、何やら校門の方がザワザワとしてきた。


 ほんの少しだけ出てきた野次馬根性に負けて、顔を上げると、なにやら雨とシスターというなかなか幻想的なーーーーーー


「……んげ」


 そう呟いてしまった俺は悪くない。顔を上げるやいなや、直ぐに目が合ってニコリと微笑んできた。


 だから隣のちょっとチャラいイケメン男子。お前じゃないからそのちょっとだらしない顔やめろ気持ち悪い。


 ちょいちょいと手招きをするので、俺は仕方なしに、カバンを頭上に掲げて雨避けにしてシスターの元へ駆け足で向かう。もちろん、かけ出す前にため息を吐いたがな。


「シスター」


「キミ」


 俺が声をかけると、周りがザワザワと騒がしくなる。


「何しに?」


「キミのお母様に頼み事をされてね」


 といい、シスターは持っている傘を揺らした。


 シスター曰く、いつも通りに門の前でボーッとしてたら、俺の母さんが玄関から出てきて、「ちょっと家の息子に傘届けてくれない?」といい、一つだけ傘を渡したのだという。


 うん、一つだけ………。


「で?」


「うん?」


 シスターが首を傾げる。クソ、可愛いーーーじゃなくて。


 シスターが持ってるのは傘一つだけでしょ?しかもそれ俺のでしょ?


「なーんで自分の傘持ってこなかったの……」


「だってお母様はこれしか傘渡さなかったし………私、傘もってなかったから」


 え、傘持ってないの?雨降った時に買い物とかどうしてんの?


「……はぁ、まぁいいや。シスターはそれ使って。俺は走るから」


「え………それは、ダメ。お母様は、キミに傘を渡すように言ったから……」


 と、走って帰ろうとする俺の制服の袖を掴んだ。それじゃあどうすればいいんですか?俺は君から傘を受け取って、シスターは濡れさせたまま帰らせるようなクズ男じゃないんで。


 なにやらむぅむぅと考えるシスター。


「あーー」


 と、なにやら考えついたシスターは、俺に傘を差し出した。


「受け取って」


「え……いや、だから俺はーーー」


「いいから」


 と、うんともすんと言わない様子に、諦めて傘を受け取る俺。次の瞬間、傘を受け取った左腕に柔らかい感触と、温かい温度が伝わってきた。


「こうすれば、お互いに濡れない」


「なっ………」


 まさかの相合傘に、周りがキャーキャー!と騒ぎ出した。マズイ………明日から俺針のむしろだ!


 俺の腕に抱きつくようにするシスターのせいで、俺の体温は上昇し、心臓もバクバクとうるさい。


「こうすれば、お互いに濡れない……帰ろう?」


「お、おう……」


 と、俺の腕を引っ張りながら歩くシスター。後ろから見えた耳は、ほんの少しだが赤くなっているような気がした。

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