第7話 ゴールデンウィーク

美生みおは父の貴生たかおに買ってもらったアライのヘルメット、祖父の和之かずゆきが買ってくれたクシタニのブーツ、JRP のグローブ、上下はGジャン、ジーンズという出立ちでバイクに乗っていた。靴はとりあえずスニーカーでいいし、グローブもホームセンターで売っている作業用のものでいいと美生は言ったが、和之はちゃんとしたメーカーの革のモノでなければ駄目だと譲らなかった。和之はバイク用のジャケットも買ってくれると言ったが、それはちょっと保留にしてもらっている。


いよいよ待ち望んでいたバイクの教習所通いが始まった。これまで祖父や父の後ろに乗っていたので、緊張もなく落ち着いて乗れている。もちろんイメージと実際に運転してみるのでは大違いなのだが、これまで後ろから見ていた祖父や父の手や足の動きの意味が分かり、楽しくて仕方がない。ゴールデンウィークは朝から晩までみっちり学科と技能教習を入れて、順調にこなして来ている。


そして、ゴールデンウィークの最終日。


美生は清空寮に来ていた。最終日は教習を受けないで休養に充てるよう母の一美ひとみに言われていたからである。美生もだいぶ教習が捗り、あとは土日に教習を受ければ、6月上旬には免許が取れる見込みが付いたので大人しく一美の言うことに従ったのであった。


さて、佳の部屋では、佳が疲れた様子で座っていた。こたつは布団が片付けられて単なる座卓となっている。ゴールデンウィークは話があるから来てくれと両親に呼び出され、父親が赴任しているフランスに行って昨日帰って来たばかりであった。


「ママが向こうでノイローゼ気味でね。まあ、こっちにいた時から引きこもりがちだったけど、やっぱり海外の環境に馴染めないみたい。日本みたいにインターネット通販やネットスーパーが充実してる訳じゃないしね。頼むからフランスに来てママを手伝ってくれと懇願されたけど、そう言われましてもね、という感じよ。」


美生は佳の家に遊びに行った時に一度だけ佳の母に会ったことがある。美人だが、いかにも迷惑そうに美生を見た顔が忘れられず、以来一度も佳の家に行ったことはない。最も美生が帰った後、


「ごめんね。ママ、よその家の子にどう接したらいいか、分からないのよ。」


佳に謝って来たそうで、単に極端な人見知りなだけで別に子どもが嫌いとか、そういう訳ではないらしい。


佳の父はノイローゼ気味の妻に一旦帰国を勧めたが、母の方は妻としての務めが〜などと言って渋っている。夫婦仲は良いのだ。佳としても母は心配なのだが、清空女学院や寮での生活が気に入っているので今さら転校したくはない。


佳の父はふだんは佳に甘く優しい父親で、清空女学院を受験することに反対しなかったし、フランスに一緒に行きたくないと言っても怒らなかった。ただ人見知りで引きこもり気味の妻をフランスに連れて行くのが心配で、佳のフォローがほしかったのである。


美生は佳の父にも一度だけ会ったことがある。子どもの頃、佳はお昼は外で食べるからと言って母から小遣いをもらって、美生の家でお昼を食べて、その小遣いで美生とケーキやアイスクリームを買い食いしていた。ある時それが両親にばれてしまい、恐縮した佳の父が菓子折りを持って美生の家に挨拶に来たのであった。美生の祖父の和之とあまり年の変わらない感じで、結婚が遅かったらしく佳の母とはかなりの年の差夫婦である。エリートビジネスマンらしからぬ人の良さそうなおじさんで


「君が美生ちゃんかい? 佳と仲良くしてくれてありがとう。」


笑って、美生の頭を撫でてくれた。


以降、佳の父が勤めている会社の名前で、お中元、お歳暮が欠かさず届いている。



「という訳で、バイクの免許を取るのに教習所に行きたいと言い出せる状況じゃなかった。何か別の方法を考える。」


「あ、そう。」


美生は別に心配していない。この幼馴染は一度言ったことは必ずやってのけるのを長い付き合いで良く知っている。


「ところで、ジャケットはどうする?」


ジャケットはお揃いにしようと二人で決めている。プロテクターが入っていてあまり派手じゃなく軽くて値段が手頃なモノ。二人は飽きることなくノートパソコンの画面を眺めるのでありました。

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