転生した悪役令嬢の悪癖が止まりません

鹿目琴子

プロローグ


 昔々、南の辺境の地の小さな国に巨万の富を得ていた公爵家がありました。


 公爵家には男子が生まれず、三人の女の子がいました。


 長女のカトリーヌ。

 次女のエレノア。

 そして三女のエリザベートです。


 三姉妹はこの世の者とは思えないほど美しく、美の神に一番近い少女達と言われていました。 

 それ故か、王族ではこの三姉妹をお妃にする者が、次の王になるであろうと噂されていました。


 長女カトリーヌはいち早く、第一王子の婚約者になりました。次女も隣国の王子と婚約し、残るは三女エリザベートでしたが、彼女は人前に出ることがなく、表に姿を現すことはありませんでした。

 それでもエリザベートを見かけた者は皆、三人の姉妹の中で三女が一番美しく、身震いするほどの美貌だと噂をしていました。


 公爵家の三女エリザベートはまるで天使か女神かと……。


 ただ一つ……一つだけ、この三女には残念な噂がありました。


 彼女のあまりにも美しすぎるその美貌は悪魔さえも虜にし、彼女に取り付いてしまったと、だから公爵家は三女エリザベートを公の場から退け、隔離しているのだと……。


 三女エリザベートのその噂は瞬く間にひろがり、彼女は貴族会で異質な存在になってしまいました。


 ただそれも、所詮は噂に過ぎず、彼女の余りにも美しい美貌に周囲が妬み、黒い噂を流しているのだと言う人もいました。真実は誰にも分かりません。けれども結局はその噂さえも、彼女の魅力になっていくのです。


 三女エリザベートは悪魔をも魅了する美しい女神だと…………。



 ――――――パタリと閉じられた本の冒頭。


 伝説の黒い魔女エリザベートの物語はそんな噂から始まっていた。


 史実に基づくこの話、モデルの女性は今では北の魔女と呼ばれ、誰もがその北の森には近づこうとはしない。

 北の森の地に足を踏み入れれば呪われ、狂い死にすると言われている。


 そこに住むのは恐ろしい魔女。


 これは北の森の魔女のお話。


 公爵家の三女が何故、北の魔女と呼ばれ、国々が彼女を恐れる存在になったのか。またはそんな魔女は所詮ただの噂にすぎず本の中のただのフィクションに過ぎないのか。


 ただ一つ言えるのは、本のモデルとなったエリザベートは確かに存在した。人々は彼女に魅了され、そして彼女のせいで国が滅んだことは事実だったのだ。

 多くの人々が彼女を憎み、そして恐れた。彼女に敵意を見せたものは、いつの間にか公の場から消えていた事も事実だ。


 確かなこと……それは美の女神と謳われた謎大き彼女が、歴史的物語として間違いなく悪役令嬢であったこと……それだけは、まごう事なき事実なのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る