第34話『脳戦士に休みはない』

 話を戻して『リーナ戦』の翌日、12月17日金曜日。


放課後

 荷物を部屋に置いて、ダイニングルームのソファーに座る。作りたての温かいココアを手に、ほっと一息。最近外出したり戦ったり忙しすぎた。

(たまにはこんな日があってもいいだろう。いや、毎日こんな感じならいいのに、脳戦士の仕事は本来は少ないはずなんだ)

 僕はココアに口をつけ、息を吐く。

(あったかい…やっぱり脳戦士にも休息は必要だな…)

 ピンポーン

 その時、インターホンが鳴った。

(誰だよ、こんな時に)

 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン

「やかましい!」

 こんな壊れるほどインターホンを押す人なんて僕の知り合い、否、うちの家族の知り合いにでさえ一人しかいない。

 僕は、鳴り続けるインターホンを止めるべく、玄関の扉を開けた。そこにいたのは予想通り武田誠太非・常識人だった。扉を閉めたい衝動に駆られたが、あれを続行されても困るので、一応話を聞いた。

「どうしたんだ?」

「ヤッホー、岳流っち。『』忘れてないよな?」

 僕はうなずく。

「記憶力がA判定の僕にそれを聞くの?愚問だな」

 秋葉原のお礼と揶揄からかったお詫びにここらを案内するという約束だろう。

「よかった、だから今日から一泊二日君の家に泊まらせてもらうよ」

「へっ…?はっ⁉︎どこがいいんだよ。ダメだよダーメ」

「あっ!そうだ、はいこれ返すよ。それとも彼女さんに渡した方が良かったかな?」

 わざとらしく彼が渡してきたのはレシート。そう。あの時僕が誤って彼に渡してしまったレシート弱みだ。

(…あ)

「ありがとう。そうだね、母さんに相談してみるよ」

 精一杯の笑顔でそう応じる。

「さすが岳流っち。話が早くて助かるよ。でさ、君の後ろの所有脳獣達がおれをゴミを見るような目つきで見てくるんだけど…」

「まあ、実際性格は…ね?みんなはよく分かってるから。うちの脳獣達マジ優秀」

「そうか、おれがパソコンちょっといじればあのレシートの写真、彼女さんに送ることなんて、容易いんだけどな〜」

「早まるなっ!」

 さっきまでの殺気はどこへやら、慌てた僕は、叫ぶ。

「け・い・ご」

「お願いします。誠太様。お止めになって下さいませ」

 しかし、彼に簡単にあしらわれてしまう。本当に、性格悪いやつがそれなりに才能あると辛い。

「そうか、そんなに言うなら、泊めてもらう代わりに止めてやってもいいぞ」

「ありがとうございます」

(僕、なんでこんなしょうもないことやってるんだろう?)


「初めまして岳流っちのお母さんにお父さんにお姉さん」

 夕飯の席、天才ハッカー脳戦士(非常識人)ラップトップこと武田誠太は、うちの家族に挨拶をした。

「岳流の友達に大学生がいたなんてびっくりだわー」

 と言ったのは母さん。

本当ほんとだな。二人はどこで知り合ったんだ?」

 と言ったのは父さん。

「えーと、どこだっけ?」

 と言ってきやがったのは誠太。

 東京で、レベル10の脳獣と戦っていた時に、たまたま会って助けてもらったなんて言えるわけがない。そしてその誠太は、それを僕に丸投げしてきやがったのだ。

(こいつ、覚えてろよ。クリスマスが終わったら復讐してやる。そうだな、死なない程度に攻撃と『想像治癒:改』を繰り返すか)

「確か、東京の大型書店に行った時に会って、同じ小説が好きで意気投合したんじゃなかったっけ?」

 これが今の僕の限界だ。上手く話を合わせてくれ…。

「へー、岳流っちって読書が好きだったんだ。意外だわ〜。おれはあんまり読まないかんな〜」

(どうやら彼は死にたいらしい)

「ま、まあ、そんなのどうだっていいじゃない。岳流は友達いっぱいいるから、どの子か分からなくなっちゃっただけでしょ?そんなことより、誠太さんは、どこの大学に通ってるんですか?」

 と言ってくださったのはユイカだ。彼女は誠太の正体を知っている。

「あー、『東京大学』って分かります?東京じゃあ、名門なんですけど地方の人にそれが分かるかどうか…」

(何こいつ?今日調子乗りすぎじゃない?というか、今の発言僕だけじゃなくて、地方に住む全員を敵にとるレベルだよね?)

「まあ、東大!知ってるわよ。超名門校じゃない!すごいわね」

 と言ったのは母さんだ。

(うちの親もここら出身だったよな?何で反応しないんだ?)

 それはともかく。僕は、残っていたご飯を口に掻き込むと、ごちそうさまと言って、僕の部屋を目指して走った。

 だって、もうこんなおかしな空間にはいたくなかった。


 トントントン

 しばらく時間が経って、僕の部屋がノックされる。

「はーい」

 僕が呼びかけると扉が開く。そこにいたのはユイカだった。

「さっきのあの人、誠太さんだっけ?」

「うん、脳戦士。脳名はラップトップ。確かNo.128」

「残念」

 ユイカの後ろから声が聞こえる。ユイカは驚いて後ろを振り返る。

「いつの時代の話だ?それ。元No.8のクサナギ君」

 ユイカの影になって見えなかったが、そこには誠太がいた。というか、ユイカの反応を見る限りじゃ、今来たらしい。音しなかったぞ。

(マジで何者だよこの人)

 ちょっとだけ怖くなってきた。そして、更なる事実が告げられる。

「今のおれのランキングは八十三位だし。No.83だし」

「はっ⁉︎何があったんだよ」

「いやね?コビッド倒したらなんか上がった。意外と強かったらしいわ。あいつ」

「はっ⁉︎何それ?僕も戦ったんですけど、というか僕戦ったんですけど。何で僕の順位は下がったの⁉︎」

「それはあれだよ。君が先輩を欺くようなマネしたから」

「なるほどね。ってなるか!今までそんな事例なかったぞ!」

「異例だったんだよ。あの戦いが」

「何それ納得いかないんだけど!」

 次の日になるまで討論は続いた。


 心の底から思う。

「あー、めっちゃ疲れた。休みたい…」

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