第51話 どうか歌声を……

 金髪碧眼のリリィは、細いリボンを外す。

 はらり、と髪が肩にかかる。

 小さく唇を動かすと、ほんのり輪郭を纏う暖かみのある白い光が浮き出る。

 透き通った声で、バラード調のリズムを歌う。

 

 周りは誰もいない。

 分厚い本のページをめくりながら歌う。

 

 特別な会話なんてない。

 分厚い本を棚に戻しながら歌う。


 ブレスを多めに、消えそうな歌声。

 静かな足音を立てながら外に出る。

 ランタンの明かりだけ頼りの道を進めば、正方形に柵で囲んだ試合場に着く。

 歌声は余韻なく、スッと止まる。


 木刀で素振りをしている赤髪のエルマは、真っ直ぐ空を捉えている。

 獲物を斬り伏せるように縦、横と振るう姿。


 リリィは柔らかい唇を上下に、微かに動かした。

 感情をどこに置いていいのか分からず、作ろうか、思うままか、考えながらゆっくり口を開ける。

 素振りをやめ、エルマは体ごとリリィに向けた。

 眩しいほど悪戯に笑う表情で歩み寄る。


 リリィは柵に手を乗せ、少し前のめり。

 エルマは木刀を肩に乗せ、少し後ろに反る。


 碧眼は遠くを見るように微笑んだ。

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