第三部 友情

第24話 かき消した思い出

 ……――と、まぁ後はこの通り。

 一文字の斬り傷をさすり、ローグは語りを終えた。

「む、途中ね」

 口角を下げ、長い黒髪をもつメイは、続きを求める。時折言葉を躓かせながら、覚えた言語で話す。

 ローグは馬車の荷台から離れ、荒廃を免れた景色に目を細める。港町、さらに向こうへと続く街道の先に王都が見えた。

「帝国兵になった。そして、親友を……兄弟のように育ったデヴィンをこの手で殺した。彼女を、この目で看取った。生き残ったのが王国を裏切った臆病者とは……」

 ふっ、と笑い、ローグは眉を下げる。

「あの大英雄、好きだったか?」

 メイの質問に、

「さぁ、もう覚えてないな」

 軽く流すように答えた。

 土を蹴り走る逞しい脚、蹄の音が聴こえてくる。

 漆黒の鎧を身に纏うローグの部下は馬車の近くで馬を制止。

「ローグ団長、ここから西にある山に、野盗のアジトを見つけました。恐らく……ボブスかと」

 部下の報告に頷いたローグは、腕を組み小さく唸る。

「……そうか、ありがとう。近くに町や村はあるか?」

「はっ、復興中の町があります。自警団がいましたが、特に敵対の意思はありません」

「よし、その町で合流しよう。くれぐれも無茶はするなよ、もう戦争は終わったんだからな」

「はっ!」

 部下が馬を操り、再び西へと戻っていく背中を眺めたローグはメイに、

「白狼ノ国保安警備隊隊員、メイ。雷電の在処が掴めたみたいだ。今すぐ向かうか?」

 そう訊ねる。

 唇を柔らかく上向きにして、メイは頷く。

「もちろんね。さっさと行って、こんな国おさらば」

「その方がいいだろうな」

 港町を眺めたローグは鼻を擦る。

「……敵討ちはもう少しお預けだな、エルマ」

 優しく呟いた後、ローグは馬車の荷台に再び乗り込んだ。

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