——仏の顔——

「ばっ、馬鹿な!?」


 エンチョが驚き、唾を飛ばしながら叫ぶ。鏡を見たガマガエルのように大量に汗をかいていた。


「プククッ、焦ってる汗ってる!」


 エンチョの表情に、口を手で押さえながら笑うジョー。


「取り敢えず、挨拶代わりに背骨折ってくるわ」


 エンチョに向かって飛び上がろうとするモモ、一発の銃弾がモモのシールドに弾かれる。


 銃弾が飛んで来た方向を睨みつけるモモ。


「またアイツか、仏の顔も二度までって言葉知らないみたいね」


 邪魔されるのを極端に嫌がるモモ。表情は笑顔だったが、こめかみに血管が浮きでている。


「エンチョの様子からして、他にモンスターはいないでしょ。ドクターのGiveギヴも戦闘には不向きなはずよ」


 モモが淡々と、ジョーが一人でも大丈夫な理由を挙げていく。


「ちょっ待って、それってフラグ……」


 焦りだすジョー。話を聞かずに喋り続けるモモ。


「シールドがあるし、あんたなら大丈夫でしょ。アタシ狙撃バカやってくるから、後で合流しましょう」


 汗をリストバンドで拭い、軽く上下にジャンプするモモ。


「いや、だからフラグが!」


 ジョーの返事も聞かずに飛び立つモモ。一人ポツンと取り残される。


「いや〜、アチコさんに一人でも勝てるか聞いとくべきだったね!」


 ドンドンと嫌な予感が脳内に溢れる。気合を入れ直し、エンチョに向かって叫ぶ。


「お前らをぶっ飛ばして、ヒナちゃんを妹にするんだっ!!」


 追加でフラグを立てるジョー。


♦︎♦︎♦︎


『エンチョのモンスターがやられたわ!』


 無線から焦った女の声が響く。


「何やっとんねんあのオッサンは」


 返事を返す男。ナニかに座ってタバコに火をつける。


『ドクターが危険よ。助けに行って!』


 無線から発砲音が数回聴こえてくる。


「やなこった。コッチの用事は終わっとんねん、そっちはそっちで頑張り〜や」


 フーっと煙を吐き出して無線を切る。通話が切れる間際、女の毒付いたセリフが聞こえたが気にした様子は無い。


「収穫ゼロやんけ」


 もう一度タバコに口をつけ、肺に煙を吸い込む。チリチリとタバコが燃えて灰が広がる。


 タバコを持った手を伸ばし、人差し指でトントンっとタバコを揺らし灰を落とす。腰掛けた男のに灰がゆっくりと落ちる。


「コイツは使えそうやったけど、Giveギヴがイマイチやったなぁ。メッチャワロたけど」


 思い出し、ニヤニヤする黒と黄色のスーツを着た男。


♦︎十分前♦︎


 レンは手に持った金槌を振り上げ男に襲いかかる。相手の蹴りを交わし、ちり紙様のGiveギヴで相手の視界を奪い、左手で相手の脇腹に拳をねじ込む。しゃがんで金槌の釘抜き部分を相手のアキレス腱に引っ掛け、力ずくで手前に引き倒す。


「よう、君をボコボコに殴るマン」


 相手の両手を両膝で押さえつけ、馬乗りになるレン。右手に持った金槌を手放し、拳を固く握りしめる。


「ちょい待て待て! さっきのティッシュはお前のGiveギヴか!?」

 

 窮地に追い込まれた男。何故か目を輝かせレンに問いかける。


「ティッシュじゃねぇ、俺のGiveギヴ【ちり紙様】だ」


「何やねん、ちり紙様!? めっちゃカッコえぇやん!」


 男は抵抗する様子もなく、レンのGiveギヴに喜んでいる。


「最高や。お前ギャグセン高いやんけ」


 レンのGiveギヴをバカにしたように、ゲラゲラと笑いだす男。


「頭のネジが何本か抜け落ちてるみたいだな……。悪いが時間がないんでね、終わりだ」


 相手の態度に一瞬迷いが生じるレン。ジョーやモモのことを考え、拳を相手の顔面に振り下ろす。


 強い衝撃と共に視界がグルリと回るレン。


「ナ〜イスパンチ!」


 男は立ち上がり、倒れるレンを見下ろす。


 落ちてゆく意識の中で、自らに起こった出来事を考えるレン。


( 痛みがあったのは、俺のアゴと……右の拳……?)


 うつ伏せに倒れ、意識を失っていく。

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