——だっしゅ——

 少女はお腹がいっぱいになり、落ち着いたのか皆の質問に答えてくれた。


 名前はヒナ。両親は既に亡くなっており、友達とそのお母さんの三人で一緒に移動しながら生活していたらしい。七歳にしては背が小さく、身体は痩せ細っていた。


「大変だったわね……」


 アチコはヒナの背景にある道のりを想像し、胸が締め付けられる。この世界で、幼い少女が生き残るのは容易くなかっただろうと。


「ヒナちゃんのGiveギヴは何なの?」


 ジョーがヒナに質問する。


「つかえないの……みんなには『ロスト』っていわれた」


 ヒナがいうロストとは、幼い子供や想像力の乏しい人間が、過度な能力を想像した場合に多く見られた現象である。願ったが想像力が足りずに発動しない。発動はするが使えないクラッパーとは違っていたが、使えないことは同じだった。


「そっか、じゃ僕が守ってあげるから安心して! ドクターを見つけたら、一緒にトモダチノ国に行こうよ!」


 ジョーの発言にビクッと反応して震えるヒナ。


「ドクターはイヤッ! こわい、ヒナをそこにつれていかないで!」


 突然大きな声を出され、ビックリする三人。


「大丈夫よ、ヒナちゃんをソコに連れて行ったりしないから」


 アチコがヒナを優しく抱きしめる。


「アーくんも、その人につかまった……。あーくんのママはヒナを逃すために死んじゃった……。アーくんのママのことをどうやって話したらいいか分からないの! ヒナはもうアーくんと友達に戻れない! アーくんに会いたいっ!!」


 大きな声で泣き出すヒナ。泣き疲れて眠るまで、誰も声を出さなかった。


 アチコに抱かれ、ヒナが泣き疲れて眠る。ゆっくりと口を開くモモ。


「会って判断って言ったけど、どうやらクズみたいね」


 穏やかに、小さな声で喋るモモ。ジョーだけが心中穏やかでないモモに気付いていた。


「ごめんなさい、私のGiveギヴだと、その人の人間性までは分からなくて」


 アチコが申し訳なさそうに謝る。


「気にしないでアチコさん。それよりどうする?」


 モモは決まっていたが、確認の為に質問する。


「こんな小さな子供を泣かせるような奴、いらないよ!」


 トモダチノ国では最年少のジョー。この時代に生き残っている数少ない歳下のヒナを、本当の妹のように感じていた。


「そうだな、だが野放しには出来ない。ヒナの友達も生きてるなら取り返したい」


 太い首を左右に揺らし、ゴキゴキっと音を鳴らす。直ぐにでも出発したいレン。


「私が明日の朝、ドクターの居場所を探るわ。戦闘では役に立たないからヒナちゃんとココで待ってる」


 アチコも内心はドクターを殴り飛ばしたかった、でも怯えるヒナを一人ぼっちには出来ない。


「私の分までお願いします」


 ヒナを抱くアチコを中心に、三人が顔を見合わせて頷く。


「医者探し改め、医者殺しね。分かりやすくて良いわ」


 物騒なことを言いだすモモ。八つ当たりが怖いジョーは影を薄くする。


 稀有な能力を有していた。


♦︎♦︎♦︎


 翌朝、アチコのGiveギヴでドクターの居場所を探る。道中出会った人から確認した市立病院で間違いなさそうだった。


「アチコさん、僕達三人ならドクターに勝てるよね?」


 ジョーがアチコに質問する。勝ち負けをGiveギヴを使って確認する。


「勝てます。連れてこなくて良いから、しっかりとお灸を据えてきて下さい」


「おけ! 思いっきり吸ってくるよ!」


 いまいち意味の分かっていないジョーが、元気よく返事を返す。


「アチコさん、朝食は全部置いていくわね。家の中に缶詰もあったから、一日分はあると思う」


 メルからの食事は、全てモモに向かって飛んできていた。三人はアチコとヒナの為に届いた食事を全て置いていく。


「もしも明日の朝までに帰ってこなかったら、その時はヒナを連れて村に帰ってくれ」


 レンがアチコに頼み、三人は病院へ向けて出発する。


♦︎♦︎♦︎


 病院までの距離は歩いて一時間。急ぐ必要はなかったが、昨夜のヒナの涙を思い出し、自然と走り出す三人。


「良いかジョー、油断するなよ!」


 角から飛び出してきたゴブリンの体に猪の頭のモンスターを、腰道具から取り出した金槌かなづちで殴る。頭を潰され苦しむモンスターを、後ろから着いてきていたモモが蹴り飛ばす。三人はモンスターを蹴散らしながら走り続けた。


「分かった師匠!」


 返事を返しながら、右腕だけが妙に太いゴブリンを左の裏拳で倒す。病院に近付くに連れ、変わった形のモンスターが多く出没した。


「やっぱり情報通りね!」


 モモは飛び上がり、羽の生えたゴブリンを蹴り、民家の屋根へと落とす。


 道中で知り得たドクターのGiveギヴ、それは異なる遺伝子の結合。


「悪趣味な野郎だ!」


 まるで病院を守るように配備された魔物。そのことから敵が一人では無いことを予測するレン。最低でも後一人、モンスターを操っている人間がいる。


 病院が目と鼻の先に迫り、手を上げて動きを止めるレン。


「一旦ここで休むぞ」


 戦闘をしながら疾走した為、三人とも息が上がっていた。乗り捨てられたバスの中に入る。


「体力あるなお前ら」


 ふうっと大きく息を吐き出し、話始める。レンは普段から走り込み、身体を鍛えていた。


「元陸上部なめないで」


 手首に着けたリストバンドで、額の汗を拭うモモ。


「ぼっ、僕はけっこう疲れたっ!」


 ドサっと椅子に座るジョー。


「分かってると思うが敵は一人じゃない。ドクターがGiveギヴで作り替えたモンスターだとしても、操っている奴は別にいる」


 レンは念の為、口にだす。


「大丈夫、分かってる」


 モモが持っていた飲み物を飲み、レンに渡す。レンが飲み、蓋をしてジョーに投げる。


「ありがとっ! 敵が二人なら三人の可能性もあるね」


 残りを全て飲み干し、分かっていなかったが、流れに乗るジョー。


「何、当たり前のこと言ってんのよ?」


 キリッとした表情のジョーにイラッとしながら返すモモ。


「よし、休憩しながら確認するぞ。まず第一優先は囚われている人間の安否確認」


 レンとモモの視線が交わる。


「生きてたら、そのまま救出ね」


 頷いて返すレン。


「それが済んだら……」


 三人の視線が合う。


「「「医者をぶっころばす!」」」


 三人の声が揃う。一人だけ若干違うモモ。






 

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