26話 戯れるお嬢さま方と、巨と普と未発達


僕は悶えている。


さっきっから、ずーっと。


………………………………ああただでさえお嬢さまたちの温かさと柔らかさが左右の腕に押し付けられてるし髪の毛もふんわりかかっている上にさらにさらにおふたりからの香しい香り(文字どおりに)が漂っているあああああ……。


………………………………。


ふぅ。


ここは天国だ。


やはりここは死後の世界なのやもしれぬ。


僕の理想の世界っていう。


……なんてことを、意識が半分お空に浮いている状態ですんすんすんすんしながら木陰で気持ちよく寝っ転がっているうちに、いつの間にか話題は僕がいかに貧弱かっていうものに移りつつあるらしい。


そんな雰囲気がしてたから我に返っちゃったんだけど。


ああ、まだまだトリップしていたかった……。


あ、僕については別に慣れているどころかもはや当然のことになっちゃってるから、どーでもいいけど。


むしろ体が弱いってことで、ふらってする演技とかでふにょんって介抱してもらえるから文句どころか感謝さえしているしな。


「……少しなら分かるけどねぇ。 私は別にそこまででもないかしら。 体、少し動かすだけで満足しちゃうのよねー」

「そうですか。 リラも、……そもそも動くこと自体が苦手ですし、人それぞれなのですね」


「ジュリー? また、話し方」

「あ、……ごめんなさいシルヴィー、私、気を抜くとすぐに」


「まー私と知り合ってもまだそんなに経っていないもの。 そんなにすぐに直せると思っていないわ。 あくまで公私をはっきり分けた方がいいんじゃない? って思ってのくだけた話し方なんだから、ムリはしちゃだめよ。 あくまで自然に、よ」


「ありがとう。 ……ところで私、いつも思うのです、だけれど、……こうして遠出をしたりしているとき。 リラとも一緒に走り回ることができたら、もっと楽しいって思ってしまうのよ」


やっぱり来た。


「あまり陽の光に当たりすぎると倒れてしまうというのも大変ですね。 リラも、思い切り走り回ったりしたいでしょうに」

「気にしていません、ジュリーさま。 僕はそういう体質ですゆえ」


「それって? ……えーと、リラがジュリー治したとき……私は聞いただけだけど……みたいに、南方?とかの高度な治療法とかじゃ治らないの?」


「体質とは生まれつき持っているものです。 ジュリーさまの場合は、あくまで環境のせいでしたゆえ、こうして元気になられておりますが。 僕のもの生まれつきなのです。 こうして体が小さいのと同じく。 まだ胸さえ板きれのような体型のように」


「そうなの。 ……あなたってほんとうに、こどもの体、そのものだものねぇ」

「です。 あ、いえ、その、こども以下でもあります。 ちょっと動くと貧血なので、そもそも陽の光はあまり関係もない気がしますし」


「でも傘を差さないとあっという間なのでしょう?」

「そうですね。 数分と持ちませぬ。 まさに貧弱です。 ですのでご期待に添えず、申し訳」


「知っていますわ、リラ。 言ってみただけですっ。 ……それにリラはそのぶん頭がとても良いのですから、あまり卑下されないでくださいっ」

「いえ、卑下ではなくてただの事実です」


「そーそー、大半のお嬢さま、ってのはリラ……よりちょっと元気な程度なんだから」

「…………わかりました、ジュリーさま。 シルヴィーさまもありがとうございます」


「あら、私はついでなの?」

「僕はジュリーさまの妹ですゆえ」


「いいわねー、そこまで一筋だと」

「もう、シルヴィーったらっ……」


僕の好意を素直に受け入れてくださって、けどやっぱり少し恥ずかしがっておられて顔が赤くなられてきたジュリーさまかわいい。


そしてほんとうにお優しい。


そうまでしてこの貧弱な僕をかばってくださるなんて。


……だけどまぁ、たしかに。


秘密にはしているけど、セーブしているから今のところバレてないけど、30分行かないくらい?の時間を歩き回っただけで……町中でもぶっ倒れるっていうのは、ちょっと、……やばいかもなぁ……。


体力をつけなきゃってのは分かってるけど……ちっこいこらからずっと、だもんなぁ。


何してもダメだったんだし、もう今さらだ。


みんなは、僕の体が小さいから……成長が遅れているだけで、まだまだ伸びしろはあるって思ってくれているけど、でも、僕には分かる。


僕は、これ以上は……そこまでは成長できないだろう。


おっぱいだって、せいぜいがおっぱいだと確認できるほどのものになるか、あるいはこのまま……まな板のままだろう。


いや、少しはふにふにしていて男じゃないってのは明らかだけど、この先に進めるかどうか。


いくら食べても、いや、食べられないからこそ痩せているゆえに分かる悲しみ。


それはとってもとっても悲しいけど、……今のところ僕にはジュリーさまのがある、あ、いや、ジュリーさまがいるんだから、いつでも楽しめるし、どうでもいい。


お乳が恋しくなれば、適当な人を泣き落として直に揉ませてもらえるだろー自信もあるし。


もっとも、今はジュリーさまので大満足だから……何も問題はないんだ。





「それにしても、どうかした? ジュリー。 そんな顔して」


ジュリーさまにならってシルヴィーさまと僕もまた、おんなじもこもこを用意してもらって寝そべって……木漏れ日がちょうど目に当たらないように調節しつつ、ついでにおふたりの間にうまく収まりつつ、右手と左足でお二人の体にごく自然に触れながら、ぼーっと話を聞く。


左から右から右から左から、交互におふたりの声が響いてくる。


……あれ、これもしかしてやっぱり天国?


これってもしかして、僕が死んだ後の……死後の世界だったりしたりするの?


………………………………。


そんなことを、最近よく考えるけど。


やっぱ……ここは、現世がいいな。


だって、……寝ても覚めても求めて満足している女体はリアルに限るんだもんな。


それに、狂おしく愛しいジュリーさまが、いつでもおそばにいらっしゃるんだから。


「……、リラが来るまでは知りませんでした。 シルヴィーとお友だちになるまでは、したこともありませんでした。 こうしてお出かけをして……今まではずっと、はしたないからと思い込んで。 だからこういう格好も試すことすらしなかったのだし。 ……なによりお嬢さま、なのだから、そんな男性のような、子供のような、はしたないことをしてはいけませんと、強くおっしゃる人もいて。 白い目を向けてくる人もいて、……だから今が私、すごく嬉しいの。 楽しいの。 こうして……今回はたまたま忙しかったからひと月も空いてしまったけれど、それでも、シルヴィーを始めとして何名かのお友だちも、こうしてお出かけに付き合ってくださいますし」


「はーい、ジュリー? あんま恥ずかしいこと言わないでよー?」

「……はい、抑えめにしますね。 つい、感傷的に。 ……それで、なによりも使用人の方も、みんなリラのおかげで。 少し前みたいに、お厳しかった教師の方の言いつけ通りに静かにしていなさいとか、外に出てはいけませんとか……そのようなことも言ってこなくなりました」


静かながらも、少しだけうわずった感じのジュリーさまのお声と、困った感じなシルヴィーさまのお声が聞こえる。


……どうやら気が付かないうちに、おふたりともシリアスモードに入ってしまわれたらしい。


なぜに僕の貧弱さから飛躍されているのだろうか。


………………………………。


僕がおふたりの香りで静かに昇天しそうになっている間に、話は続く。


「気持ちはよくわかるわぁー、すっごく、ね。 だからこそ私は幼い頃から思いっきり反発して……私はこうだ、文句あるか、ってやってたから好きにできるんだけどさー。 ジュリーはほんっとマジメ、だったからねぇー。 ……リラと私で不良にしちゃったのかしら。 くすっ」


「そんなことない、わ。 真面目とか不良とか、そういうことではなくって……リラが教えてくれたように、言われるがままのお人形ではなくて、きちんと私は私だという意志を持つこと。 ただ、それだけが必要だったの。 そしてそれが分からなかったら、何度でも自分に問いただしてみて、何をしたいのか、どうしたいのか。 そうして、自分を知るというものが大切だということも」


「ほんっとリラって、なんでもできてしまうのねぇ。 その考え方も、また商家の娘としてあっちこっち行って学んだ思想、というものだったっけ? ………………………………。 ……ねえリラ? あなたもしかして、私たちよりもずぅっと年上だったりしない? だって私、お会いしたことあるのよ。 結婚されてお子さんまでいらっしゃる方なのに、見た目は……どう見たって私たち、あ、リラじゃなくってジュリーと私くらい……の歳にしか見えないご婦人を」


「正真正銘、ジュリーさまともシルヴィーさまとも、同い年、ですよ」

「………………………………………………………………、そうよねー! 言ってみただけっ。 けっこうぼーっとしてることあるし、頭は良くても抜けてるとこあるし」


ぼやっと聞いてたらシルヴィーさまからの思わぬ一撃で、すっかり目が覚めた。


手のひらがじんわりしている。


……反応に遅れちゃったけど、言い方が完全に冗談ぽい感じだったから……僕がいわゆる転生ってやつをして、通算で…………少なくとも倍以上の年齢だっていうのに気が付かれたかって思って、一瞬体が冷たくなった。


けど、………………………………ま、あるわけないよな。


そもそもこの世界の宗教的に輪廻転生ってありえないし?


ま、冗談なんだからどーでもいっか。


あー、緊張しちゃった。


その代わりにおふたりの髪の毛を両手でもてあそばせていただこう。


勝手に。


……あ、さっきからしてた。


んじゃ今からはより念入りにさわさわさわさわとしよーっと。


「…………………………それでね? 先ほどのようにメイドの方々に遊んでもらうというのとは別に、こうして遊ぶというのは久しぶりだったから。 だから、楽しいの」


「まー、今回みたいに……そうね、2、3日程度なら。 これからなら時間取れそうだから、いつでも誘ってちょうだい? そうねぇ……、今度は馬がいいわ! もちろんここじゃムリだけど、ふたりで馬に乗って追いかけっこするなんてどうかしら? うちじゃ、お父さまが危ないからってお怒りになるからムリなんだけれど、お付きに頼んでこっそりちょっとだけやってみたら、とっても面白いんだもの! おとなしい馬で、手綱をしっかり握っていればそうそう事故は起きないんだって、リラが言っていたのだし!」


馬に乗っておいかけっこなんてゆー、お嬢様としては……公爵のご令嬢としてはありえない発想をお持ちのシルヴィーさま。


最初聞いた時はこっちがたまげたけど、ちゃあんと大人しい馬だったら大丈夫……らしいし。


あ、でも、かけっこって言っても本っ当に小走り程度にさせないといけないから、その辺は後であちらのお家のお付きの人たちとも要相談だなー。


あとは万が一が起きないようにするための対策とか練らないとだし、お父さま方にもご相談しておかないといけないし。


あとはー、ヘルメット的なものもどーにかして調達して……あー、そもそもお馬さんもちっちゃめの種類のに、ポニーだっけ?そんなのにしなきゃだしなー。


それじゃつまんないとか言われたらどーしよ。


……あれ、もしかして僕、うっかりでまずい提案シルヴィーさまにしちゃってた?


「そうですね。 あれは……少し怖いけれど、でも、そんなに楽しいものでしたら次のときには用意させておきますわ。 ね? リラ」

「はい。 ………………………………あ。 えっと、たぶん、です」


「そ? ありがとっ。 ……あ、そーそージュリー」


シルヴィーさまのお顔が僕の真横に来て、僕を経由してジュリーさまをご覧になるからなんでか知らないけどすっごくいい匂いの吐息が僕にかかってあああああ!


「追いかけっこって言えばなんだけど、さっきのことだけどぉ、……楽しいからって本気で走ってきて、私の背中を押して私までそんなに走らせるのはもうやめてよ? 私は加減をしないと……あなたと違って胸が痛いんだから。 もう、本当に」


………………………………………………………………。


あっ。


ジュリーさまに、コンプレックスなお胸の話題。


あかん、かも。

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