22話 素敵な朝、素晴らしい朝


ようやく朝だ。


清々しい朝だ。


さっきまでの真っ暗な明け方や、陽が差し始めた薄暗い、ろうそくの中の光とはちがって……いい光の差すお天気だ。


僕みたいに光よりは闇寄りな住人にとってはちょっとばかりまぶしすぎるけど、でもそれはそれとしていいものだ。


それに今日は、いつものジュリーさまのお世話に加えてシルヴィーさまのお世話もできる、かもしれないんだから……そりゃあ期待も高まるってもの。


いやーほんと、楽しみ楽しみ。


……まあ、こうしたお泊まり会でもシルヴィーさまはいっつも、お付きのメイドさんに着替えさせてもらっているから僕の出番はないんだけど。


もちろん提案はしてみるけど、まあ……いつも通りだろーなぁ。


だけどいつかこの手で、あのお方を僕の手でいろんなとこを触りつつはだかに剥いてやるんだ……おっと煩悩が、いけないいけない。


僕はただのお世話好きな、小さな女の子。


ただそれだけの存在でなければならない。


それに、お体自体はおふろでなら堪能できるんだから、これ以上は望みすぎってやつだろう。


それに、煩悩っていうのは……まだ性欲こそ生まれてはいないけど、それでも邪な気持ちや視線っていうのは……女として産まれたからには、そういうモノにさらされるようになった少女以上の女性なら、かんたんに知れること。


なにせ、脳内は男なままの僕でさえ分かるんだからなぁ……新おっさん、ほどじゃなくってもそういう人ってのがなんとなくで分かっちゃうくらいには。


女の第六感ってすげー。


女じゃないけどな。


というわけで、僕は秘めなければならない。


隠し通さなければならない。


おんなじご趣味……厳密には違うけど……いわゆるガチで女の子が好きな女の子って子に出会うまでは。


この……毎朝・夕・晩と、1日に3回もジュリーさまのおはだかを見て触っているのが、ただのご病気の経過観察かつただのお着替えやマッサージやお背中を流すことのお手伝いだって。


じゃなきゃ……女が女を好きになって、性的な意味で……いずれは興奮するっていうのがバレたら、もう……恐らく一生、ジュリーさまのお顔も拝むことができなくなるんだから。


まったく、世界は世知辛いものよのー。


と、さてさて。


……朝の廊下は寒いなぁ。


ぶるぶると震えながら僕は歩く。


……昨日も結局ずっと、夜だけだけど……おそばでジュリーさまとシルヴィーさまのキャッキャウフフを拝見させていただけたわけだし、今日も丸1日あるんだ。


ぜいたくは言っちゃいけない。


昨日の夜は……おふろももちろんのごとくに3人で入ったから、肌色空間を存分に堪能させてもらえたし、柔らかかったし、柔らかかったし、同性だからって隠すどころか開けっぴろげだったから……これ以上はぜいたくを通り越して飽食だよな、きっと、うん。


昨日のステキ空間を思い出しつつ、とてとてと長い廊下を歩いて、使用人のエリアからお貴族さまのおエリアへと渡り廊下をこたこたと歩いて、また廊下を……ひたすらに歩いて、何人ものメイドさんや使用人の人たちとすれちがう。


すれちがうたびに……女の人とじっちゃまたち限定でわざと立ち止まって、しゃがんでもらって撫でてもらうっていうかわいさアピールで万が一なにかやらかしても守ってもらえそーな感じにしつつ。


ひと言ふた言話して、用事や伝言を済ませたりして、それでようやく足が疲れてきたころになってシルヴィーさまの……じゃない、お客さま用に、別に用意してあるお部屋へと到着できたわけだ。


これまでは使用人さんたちがお掃除するだけのお部屋……ジュリーさまのお父さまが、いつかジュリーさまのお友だちが止まりに来たらってお作りになった、ガーリィなお部屋。


んでシルヴィーさまに始まり、何人かのお嬢さま方がお泊まりに来られるようになって、むっちゃ喜んでいらしたお部屋。


………………………………いくらなんでも号泣しながらたっかいお酒開けてぐびぐびしてたのにはみんなドン引きしてたけど。


あ、もちろん僕もするっとお付き合いして、たんまりいただいた。


……いつかこんなお酒をぐびぐびできるような生活をするんだ。


そのためには、いずれはここを発ってお金回しをできる環境に行かないとなぁ。


もちろん女神ジュリーさまは大切だけど、ジュリーさまにはアルベールくんがいるんだし、つまりははじめっから期間限定なんだから……そのあとのことを考えておかないとだもんな。


お嬢さま扱いは存外に疲れるし、お金を好きに使えるって考えたらやっぱ無難に父さんを継ぐって感じかなー?


と、そんなお部屋の扉の前には家の、とと、ジュリーさまの家の使用人の人とシルヴィーさまのお家の人も……顔見知りな人だったから軽く話しかけてみて撫でてもらって抱っこされてかわいいかわいい言われながらおっぱいサンドイッチの感覚にひとしきり和んでから聞いた限り、どうもまだおふたりはお目覚めでないらしい。


かといって、起こすなって言われているから起こせないでいるとかなんとか。


ま、お泊まり会なんだし、そのへんゆるーいのは当然か。


だけど僕はそんなこと知ったことじゃないって……どうせジュリーさまの、朝のお着替えを手伝っているんだ、僕が入っても怒られやしないっていう理由で扉の前に、おっぱいから降ろしてもらう。


非常に残念だけど、この余韻は当分残るし、なによりももっともっとすっごいものが待っているんだ、ここで浸っている場合じゃない。


何回かこつこつと大きめに叩いて、それでも返事がないからお部屋へ、………………………………………………………………。


………………………………やっぱり僕は非力だ。


結局今日もおっぱいさんたちに開けてもらう。


木のドアとはいっても、やっぱり僕の非力さじゃあ開けられないんだよなぁ……。


おかげでこのお屋敷の中でさえ、何カ所か僕だけじゃ通れないし開けられない場所があるんだし。


住人なのに開けられないとは、いったい。


鍵がかかっているとかじゃなく、ただの純粋に筋力が足らないからっていう……。


けどま、ムリはいけない。


人には向き不向きがあるんだし。


それに、開けられはする。


するんだからいいんだ。


……するんだけど、そのせいで手首痛めたし。


そのせいで政務のお手伝いできなかった経験があるもんだから。


………………………………………………………………。


えーと、それで………………………………あらすてき。


カーテンのすき間からこぼれてきている幾筋の光に照らされているそのお部屋の中は、それはそれはすばらしい匂いで包まれている。


おふたりのシャンプーとかの匂いと芳しい体臭と……ちょっとヘンタイっぽいけど、僕は匂いに敏感なんだからしょうがない。


うん。


すぅっと吸っては吐くこと数十回。


よし。


やっぱりジュリー様の匂いがいちばんだけど、シルヴィーさまの匂いもこれまたちがって性欲もないのに興奮してきそう、おっと変態禁止、で、お日さまがそれなりに昇っていて廊下も結構うるさくなっているのに、やっぱりおふたりともぐっすりすやすや寝ていらっしゃる。


これからお着替えだろうって、いつものことだからってすぐに扉も閉めてくれているしな、外のおっぱいさんたちが。


おかげですやすやという寝息しか響かない、かすかな光しか入らない、静寂で静謐で聖域な空間が完成している。


それを、僕だけが、………………………………とと、いい加減にしとかないと。


きっとおふたりとも、夜遅くまでのガールズトークで盛り上がったんだろうなーいいなー僕も参加したかったなー、でもどうせ僕は話すことないんだけどな。


ヘタに恋バナなんか向けられたってしょうがないし、ジュリーさまのアルベールくんへののろけとか聞いたら悲しくなるし。


……でもおふたりとも、ベッドの中で………………これは、すばらしい至宝だ。


もーだめだ、抑えきれない。


だってだっておふたりが少しだけ抱き合うようにしてあああ無意識で指まで絡めていらっゃるそんな状態でお顔まで近づけて寝ていらっしゃるなんてなんと美しいことだその上におふたりともネグリジェみたいなぎりっぎり見えないようなでも実はろうそくじゃなけりゃぽちっぽちっと見えちゃうそんなそーんなすっけすけなお召しものを着ていらっしゃるものだからそれはもうすばらしいんだだってふとももなんかめくれ上がってしかも下着は履かれていないから片脚でも縦以外の方向に向かっていればのぞき込めば見えちゃうんだしいつも見てるし!?


………………………………………………………………。


…………………………………………………………ふぅ。


ま、僕は甘えるフリしてどさくさまぎれにいつものジュリーさまの分に加えてシルヴィーさまのその下の聖域もしかと見たから満足しているんだけど。


ふぅ。


………………………………金色も銀色も、どちらもすばらしい。


もちろん体毛の話。


けど……、………………………………ふぅ。


髪の毛のことだけど。


とにかく昨日もずぅっとスマホとかカメラが存在しないのが実に悔やまれて悔しくて、だからもう、これだからもう中世ってもんはって散々に………………とと。


昨日の光景にタイムトリップしていたけど、戻ってきてもおふたりはまだまだ寝息を立てていらっしゃる。


美しくかわいらしい寝相とかわいらしくてかぐわしい寝息が響くこの部屋は……、やっぱり国宝にでも認定した方がいいと思う。


まー、めったにないんだけどなぁ、ジュリーさまがこうしてお付きも外しておふたりだけでお眠りになる仲のご令嬢は。


……望むべくは僕も、この、おふたりのあいだの聖域の中の天国にすっぽりと収まって一晩を過ごしたかったんだけど、それは叶わない桃源郷。


この美しい百合空間に男が混じってはならぬ。


それは世界の法則だ。


…………百合に男が混じったらどうなるかは火を見るより明らかなんだから。


というか僕が許さないとも。


そんな感じで、あれこれを見られただけで僕は満足したんだ。


いやー、早い内に……助けられてから数日っていう超スピードで恩返しついでに役得ありそうってお世話を買って出てよかったー。


で、さて……そろそろ起こさないとジュリーさまのお父さまとお母さまが待っていらっしゃる食卓が冷めちゃうだろうし。


名残惜しくはあるけれど、僕はそれを充分に堪能したんだ。


幸せは短い時間でどばーって浴びるよりも、少しずつ少しずつ、光合成するように浴びる方が僕の好みなんだから、とりあえず今はこれくらいにして。


なにより、これからは物理的接触と視覚で楽しめるんだしな。


ということで。


「………………………………お嬢さま方ー。 朝ですよー」


僕の、実にろりろりしくってちっこい声がお部屋に響いた。

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