第2話 王都 ユニガン

 王都ユニガンへ降り立った二人。

 以前、魔獣に襲撃されてひどいダメージを負ったが、今は街も落ち着きを取り戻しているようだ。名物料理を出す宿屋に向かいながら、あの日のことを話す。

「ここでエイミと再会したんだよな。あの時は本当にびっくりしたし、助かったよ。」

 そう、魔獣との争いのなか、危険を顧みずにエイミは未来から時空を超えてきてくれたのだ。アルドがエルジオンに着いた時に初めて出会った未来の人間がエイミでもある。ウェポンショップの看板娘で、合成人間と戦うハンターをしている。付き合いの長い頼もしい仲間だ。

「何言ってるの。先にあなたがエルジオンを救ってくれたのよ。当然のことよ。」

 ふふっ、と笑ってエイミが答える。

「そもそも、お人好しなのはアルドなんだから。こうして私のワガママに付き合ってくれてるし。ほら、もうお宿に着くわ。話は食べてからにしましょうよ。」

 ははっ、目の前の飯が優先か。


 カランコロンと扉を開けて中へ入る。

「えっと、食事したいんですが。お豆の王国風スープを二人前ください。」

「かしこまりました。どうぞお席でお待ちください。」

 どうやら他に客はまだいないようだ。テーブルに着き、食事が運ばれるのを待つ。するとその時、二階から降りてきたのは見知った顔だった。


「あれ、アナベルじゃないか。おーい。」

 驚いた表情で金髪の騎士がこちらを見る。

「あら、アルドにエイミ。こんなところで会うなんて珍しいこともあるのね。」

「そうだな。アナベルはどうしたんだ?」

 他に客がいないことを確認し、少し声を落として答える。

「王国騎士団の仕事に決まってるでしょう。王様がここにいらっしゃるんだから。今後のお城の再建のこととか、傭兵のこととか、進めなきゃいけないことがいっぱいあるのよ。」

「ああ、そう、そうだよな。忙しいのに旅に付き合ってくれてるんだよな。なんか申し訳ないな。」

 アナベルが慌てた様子で続ける。

「何言ってるの。あなたたち、王の恩人なのよ。こちらこそどれだけお礼を言っても言い足りないくらいよ。お手伝いできることがあったら喜んで引き受けるわ。」

 頼もしい言葉だ。

「この後もまだ仕事なのか?」アルドが聞く。

「いいえ、ちょうど終わったところ。もう夕方だもの。王もちゃんとお休みして頂かないとね。」

 エイミが待ってましたとばかりに言う。

「良かった!一緒に食事しましょうよ。私たちそれが目的でここに来たの。アナベルさんもお豆のスープ好きでしょう?」

 誇らしげな騎士の顔が少し赤らむ。

「よ、よく知ってるわね。ここのスープはお勧めできるわ。」

「私、店員さんに伝えてくるわ!追加でお願いしなきゃ。すいませーん!」

 厨房に駆けていくエイミ。

 目を丸くし、クスッと笑いながらアナベルは席に着いた。

「どうしたのよ。そもそも食事が目的でユニガンに来たなんて、何があったっていうの。」

 アルドは今までのことを伝えた。

「ふふ、そうね、エイミにも息抜きしたい時くらいあるわよね。せっかくだから私も一緒にここでゆっくりスープを頂くことにするわ。あなたたちと一緒なら一人で食事するよりもずっと美味しいもの。」

 エイミが戻り、しばらくすると名物のスープが運ばれてきた。


「うん、美味しい。このお豆のプチプチした食感たまらないわ!」

「うふふ、そうでしょう?あら、アルド食べないの?」

「あ、いや、熱いのが苦手なんだよ・・・」

 歓談しながら食事を堪能する三人。楽しい時間が過ぎ、お皿も空になった。


「ああ、美味しかったあ~。ごちそうさまでした!ねえ、アルド、次は何食べる?」

「おいおい、食後すぐに言うセリフかよ。お腹いっぱいだろ?」

「もちろん今はもう食べられないわよ。明日よ明日。どこ行く?」

 まいったなあ。何も思いつかないぞ。アナベルに応援の目線を送る。

「アナベルは今までで何か美味かった飯って覚えてるか?」

「えっ、そうねえ・・・」

 思わぬ展開にうろたえるアナベル。

「ええと・・そうだわ。古代のすごく綺麗なお水が流れてた町、あそこのデザートは初めての味と食感だったわ。また食べたいと思える美味しさだったわね。」

 しばらく考えた末、目を細め恍惚の表情で確かめるように答えるアナベル。

 エイミがパッと立ち上がった。

「オーケー!食後のデザート、いいじゃない、いいじゃない!行きましょう!甘いものは別腹よ!ねえ、アナベルさんも一緒に行きましょ!」

「えっ」

「さあ、鬼竜に乗ったらあっという間よ!レッツゴー!」

 エイミはアナベルの腕をがっちりつかみ、駆け足でもう外へ出て行ってしまった。

「おいおい、無理に連れて行っちゃ・・・」と言いかけたアルドも二人の後を慌てて追いかけた。アナベルの緩んだ口元に気が付くことも無く・・・。

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