第17話 打ち上げという名の合コン

「おいおい、おせーぞ一郎!」


「いやぁ、ちょっと寄り道しすぎた」


「ったく、お前はこのクラスのMVPなんだからシャキッとしてくれよ?」


 お好み焼き店に入ると、何故かいきなり久留米に説教をされた。正直、よく分からん。間に合ってたら良くないか? とか思うんだけど。

 ……って。


「MVP? 俺が?」


「そうだよ。なんかおかしいこと言ったか?」


「いや、MVPとかもっと他にいるだろ」


 俺なんか経験者ではないし、どれかを引っ張った訳でもない。なんなら決勝で柄にもなく出しゃばっただけ。こんな俺がMVPとは、流石に違和感を感じるというものだ。


「そんなやつ誰かいるか?」


「久留米なんてサッカー優勝の立役者だろ? 1番適任だと思うんだけど」


「何言ってんだよ! 優勝の立役者ならお前も一緒じゃねぇか。それに、お前には未経験者が大活躍っていうちょー羨ましい実績があるしよ。お前以外誰がいるってんだよ」


 自分が思ってたより凄いことしてたんだな。久留米がここまで言ってくれて、バスケ部の皆にも祝福された。

 それに加えて、未経験者って考えると……うん、俺がやったとか考えられないな。


「まあ、そうなのか。あまり実感わかないけどな」


「クールなやつだなー。ま、取り敢えずなんでもいいから盛り上げようぜ」


 お好み焼きの材料が次々持ってこられて、初めに頼んだジュースがピッチャーに入れてきた。

 そして、打ち上げを始める準備が整うと、久留米が立ち上がった。


「皆! 取り敢えず乾杯するぞ〜! 今日は男子はどっちも優勝。女子もバスケ優勝で半端ない成績だった。このままの勢いで、体育祭も文化祭も盛り上げていこうぜ。乾杯!」


 一斉にグラスを打付ける音が響いた。

 打ち上げが始まると、俺は久留米達が集まるテーブルに座ってお好み焼きを焼いたりして楽しんだ。

 こういう底なしに明るいグループは少し苦手な部類でもあったのだが、今はそんなことは全くなく、寧ろ一番仲がいいかもしれない。


「……そういえば、久留米は遊佐川について何か聞いたりしてるか?」


 遊佐川はまだ打ち上げに顔を見せていない。元々は来る予定だっただけに、居ないとなると怪我の具合も心配だ。


「病院の話では捻挫だから安静にしてろだってさ。でも、打ち上げは参加したいっつってたからもうそろそろ来ると思うぜ」


 そうか、それだったら良かった。打ち上げ来ないだけならまだいいが、怪我が長引けば部活の足を引っ張るだけだからな。そんな遊佐川の姿は出来れば見たくないし、怪我が軽いと聞いて安心した。


「なら安しn――」


「佐藤ー! ちょっとこっち来てー!」


「……堀田?」


 いつの間にか堀田は別の女子同士のテーブルに集まっていて、何やらニヤニヤしているように見えた。

 にしても、女子しかいないテーブルになんの用があって俺が行かないといけないんだ?

 あれか? 晒しものか? 晒されちゃうのか?

 恐る恐る向かってみると、何か女子の雰囲気が少し違うことに気づいた。

 いつも委員会やクラス絡みの業務連絡の時とは違い、何かゆるい雰囲気だが何か甘ったるくて変な感じがする。


「どうかしたのか?」


「いやー。佐藤活躍したし、この子もバスケ部だからちょっと話聞いてみたいってさ」


「話……?」


「佐藤くんのプレー見てたんだよ! ドリブルとか凄かったけど、本当に未経験者なの?」


「まあ……そうだけど」


「えー!? 私あんなに上手くないのに……。ねね、練習とかどうしてたの?」


 なんて話から、バスケ談義が始まる。まあ、俺は遊佐川に教えて貰っていただけだし大したことはしてない訳だが。

 それにしても、何とも中身のない話な気がする。バスケ部とは言ってたものの、練習についてはあまり深く聞いてこないし、どちらかというと俺の日常とかプライベートについてが多かった。

 なんていうか、はなからバスケの話に興味はなさそうな感じだ。なんか、変な感じだなーなんて思いながら話していると、ふと一人が話を変えてきた。


「そうだ、せっかく話したんだし〇INE登録しようよ」


「あ、いいね! 佐藤くんやろ!」


「ん? ああ、そうだな」


 なんか、成り行きで連絡先を交換している。俺的には、友達登録が少なかったし願ったり叶ったりなんだが……なんか腑に落ちないというか、なんというか……。

 そして、そこを境になんか話が一気にそれで行く。友人関係の話をそれとなくされた後に、恋愛についての話をされた。

 女子の恋愛事情とかは普段聞くことはほっとんど無かったし、俺としては面白い話だが……。


「――おい、お前彼女いるのにいいご身分だなぁ」


「は……? 海星?」


 突然海星が話に割り込んできた。嫌悪感を全く隠すことなく、すっごい面倒くさそうな顔をしている。

 女子たちにはあまりバレてはいないようだったが、よく海星と話す俺には演技だということはバレバレだ。


「あ、そうだったんだ。そうならそうと言ってくれたら良かったのにー」


「そうなんだよこいつ。見た目に反して意外とロック緩いんだよ」


「あーなんかわかる気がするー」


「だろ? ちょっとこいつ借りるぜ。説教してくる」


 海星がそこまで言うと、俺を引っ掴んで連れていく。そして「お疲れ様〜」なんて気の抜けた声が、さっき居たテーブルから聞こえてきた。


「ったく、何勝手にフラフラしてんだよ。お前あんなことしてる暇あるならさっさと凪の相手してやれ。さっきからすっごい不安そうにしてたからな」


「いや、でも呼ばれちゃったからさ」


「それならしっかり断れ。そんで口説かれる暇があるならさっさとこっち来い」


 口説……ああ、なるほど。だから、なんか違和感があったわけだな。

 

「……さっきぶりだね」


「おう、もうちょっと早く来るはずだったけど遅くなった」


 凪のいるテーブルは、人がいない。多分、海星が追っ払ったのだろう。


「あの、えっと。なんか、話があるって聞いたんだけど」


 おお、もうそこまで話が進んでいたとは……。つくづく海星のサポート力はすごいものを感じる。

 俺、もうほとんどやることないんだけど。


「ああ、よくよく考えてみたら一緒にバスケの練習とかはしたけどお互いのことよく分かってないような気がしてさ。それで、良かったら色々知る機会に出来たらと……思ったんだけど」


 俺がそう言うと、先程まで曇っていた凪の表情がぱあっと明るくなった。


「うん! じゃあ、何から話そっか」


「そうだな……凪は部活とかは入ってないって言ってたっけ」


「うん。佐藤くんもなんだよね。でも、なんで入らなかったの?」


「あー。元々部活始めた理由が目立ちたかったからだったからさ。部活入っても目立つことは無かったし、高校はいいやって思ったんだよね」


「それなら、今からバスケ部とか入るってこと?」


「いや、部活には入らないよ。入らなくても、十分今目立ってるし」


 そういうと、凪は確かにね。と微笑んだ。


「てことは、凪はどちらかというとインドアな方?」


「うーんと……そうかも。でも、外にも出てみたいなぁ。やっぱり憧れとかもあるから」


「なるほどね。てことは、旅行とかはあまり行かないんだ」


「そうだね」


「旅行に行ったら食べたいものはある?」


「やっぱり海鮮丼かな……」


「なら、海か山って言ったら……」


「海! だって楽しいもん」


 良かった。学校でのこともあったし話すのが気まずいとか思っていたが、話してみると案外スラスラと話せるものだ。

 多分、なんだかんださっきの堀田達よりこっちのゆるい雰囲気の方が相性は合うんだろうな。

 

「じゃあ、海は何度か行ったことある?」


「うーん……あんまり、かな。家にいることが多いし」


「そっか……」


 そっか……じゃねぇ! もっと言うことあるだろうが! 言え! 言えよ! 

 なんのためにここまで話したと思ってんだよ!


「あんまり行ったことないならさ……その、あー……」


「?」

 

「俺がさ。連れてってあげるよ。海」


 その言葉を凪がどう理解したのかは分からないが、その真っ赤な顔を見れただけでも十分満足だ。


「ふぇ……? あ、その、じ、じゃあ是非行こう……かな? 海。うん、一緒に行こう?」


 何とも気の抜けた会話になってしまったが、デートに誘う約束は何とか出来た。

 俺は、テンションが上がり叫びそうになるのを必死に抑えながら話した。


「それなら、後で連絡するよ。どこに行きたいかとか俺も調べるけど、凪も行きたいところあるだろうしちゃんと調べてな」


「……うん! すっごい楽しみだね!」


 珍しい凪の花開くような笑顔を、俺はどうしても直視することが出来なかった。


 

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