第8話 気合と根性

「うぇー! すっげ! いやー、羨ましいわー」


 調子の良い久留米の声が俺の頭へダイレクトに響いた。

 ELE-が〜るのマイちゃんがいた事を教えた途端、こんな時に限って〜と後悔している様子。だが、学校での雰囲気の通りその雰囲気はどこか楽観的だった。


「その割には大分楽しそうだよな」


「いや、だって奇跡だろ? もうそんなんリスペクトでしょ」


 なるほど分からん。

 久留米は何かと説明を大きく省く。それを付け足すのに毎回労力を使い、1回1回喋るのにも疲れる。

 だが、こういう底なしに明るいヤツは基本退屈はしない。そういう人付き合いに限っては楽でいい。


「そんじゃ、さっさと行こうぜ〜!」


 久留米はさっきまでのやり取りがあったからなのか、いつも以上に上機嫌だ。

 学校にいる時では見られない。気を許した人だからこそ見せる表情だ。

 ただ、いくら仲良くなったからと言ってもまだ話し始めたのは最近だ。その割には信用しすぎなのではと思わなくもない。

 友達ってこんなもんなのか?


 ◆ ◆ ◆


「みたか!? 今フルコン!」


「すごいな」


「いやー。この曲マジ難しいからさ。やっとって感じだよね」


 久留米と遊ぶ時は大体ゲーセンに行って音ゲーだった。そして、音ゲーをした後にCDを探しに行ったりカフェとかファストフード店でアイドル談義をする。

 俺自身、そこまでするほどアイドルにどハマりした訳では無いが、ぼっちで何もしないよりかは退屈しなくて済むし、なんだかんだ遊ぶことになる。

 それにしても、久留米は音ゲーが上手い。サッカー部でも身体能力が高くて重宝されるらしく、ここでも能力は惜しみなく発揮される。特に動体視力は相当なものだ。初見だったとしても、不自由なくクリア出来る。

 

「んじゃ、今度一郎な」


「分かった」


 こんな感じで順番でプレイしたり、後はスコアを競ったりして遊ぶ。

 勿論、実力は久留米の方が上だし大概は久留米が勝つ。

 ただ、偶に勝てることとあるからそれもまた面白い。


「久留米は学校でいつも居るグループとはゲーセン行かないのか?」


「いや、行くぜ。でも、ゲーセンに行ったとしても遊ぶのは基本UFOキャッチャーだからな。音ゲーは他のやつはやってないから、俺がプレイしてもすげぇで終わり。知らない曲は盛り上がらないし、空気が変になるんだよ。だからあまりやらないな」


「へぇ……そんなのがあるのか」


 確かに、趣味がバラバラなら盛り上がる要素も変わる。空気を読むっていうのはそういうところでも使うのか。

 グループの方が遊ぶのは楽しそうだと思っていたが、そんなことが有り得るのか……。

 

「その点、一郎なら遠慮する必要なないし楽だよな」


「まあ、遠慮する必要が無いしな」


 寧ろ、趣味合うやつと遠慮しあっていたらそれこそ何のために遊んでいるのかわからなくなる。


「そんじゃ、そろそろ勝負しようぜ」


 久留米はそう言って、もう1つのゲーム台に立つ。

 それを見て俺は小銭を取り出して、ゲーム機へ投入した。

 

「行くぜ!」


 久留米の掛け声と共に曲が始まった。

 ELE-がーるの中でも人気のある曲だ。アップテンポで韻を踏んでいてリズム感が抜群の曲。

 音ゲーをするなら絶対外せない。

 久留米がスラスラと進める中、俺は何とか譜面について行こうとする。ただ、それが精一杯で何度もミスタッチがしてしまう。

 結局、久留米の圧勝だ。


「よっしゃ! んじゃ、次の場所行こうぜー!」


 自慢げな久留米の声。

 俺はそれを聞きながら、久留米の後ろをついて言った。

 

 ◆ ◆ ◆


「あー! やっぱお前といると楽しいわー!」


 久留米の大きな声がハンバーガーショップの中で響いた。

 周りの人は迷惑そうに冷めた目で見つめてくる。こういうところは直して欲しいところだな。俺自身もとばっちり食らうわけだし。


「あ、そういえば俺これ買ってさー」


 久留米が見せたのはサッカーの週刊誌。久留米はサッカー部で、好きなのだろう。

 俺も一時期サッカーはやっていたし、話が分からないでもないので、アイドル以外の話でも聞いている。


「ここ、載ってんだよ俺」


「……マジかよ」


 とあるページに映るのは久留米本人。写真が小さいとはいえ、かなり注目されているみたいだ。

 サッカーが上手いことは知っていたが、まさかここまでとは……。


「これは……サイン案件だな」


「お? なら、クラブ入ったら真っ先にお前にサインしてやるよ」


 社交辞令……という訳でも無さそうだ。それなら是非お願いしたいところだな。


「サンキュ。値打ちが出るまでは大切に保管しておくよ」


「売る気かよ!?」


「冗談に決まってるだろ? それと、もう1つ頼みたいことがあるんだけど」


「ん? なんだ?」


 よし、ここからが本番だ。

 俺がリア充になれるか否か……。重要な場所だ。


「もうすぐ球技大会があるだろ? 俺バスケで出ようと思ってるんだ」


「おう。それがどうかしたのか?」


「ただ、経験がなくてさ……。やってみたいってのはあるけど、足は引っ張りたくないし、というかなんなら活躍したい。だから、俺のクラスでバスケが1番上手い人とかいたら練習付き合って欲しいな……と思うんだけど」


 バスケが1番上手いやつ……。自分でも白々しい頼み方だとは思う。

 だが、なんだかんだこの頼み方が1番効果的だと思って選んだ。

 久留米も、なんとなく誰のことを言ってるか察しは着いたみたいだった。 


「全然いいぜ! ま、OK貰えるかは別だけどな。取っておきのやつ呼んでやるよ。そいつも、球技大会には結構気合い入れてるみたいだからな。戦力が増えるとなれば大喜びだろ」


「お! 助かる!」


「でも、あいつの練習は相当だぜ。いつ堪えるか分からない。それこそ三日坊主なんて全然有り得る話だ。それでもいいな?」


「ああ」


 寧ろドンと来いだ。俺だって、中学の頃にサッカー部に入っていたんだ。ブランクがあるとはいえ体力には自信がある。

 身体能力も低くは無いと思ってるし、キツかったとしても気合いでついていける。

 それに、ここで立ち止まる訳にはいかない。

 久留米は俺の声を聞いて笑った。


「なら決定だな。すぐに声をかけておく……が、あいつも部活があるから暇なわけじゃない。多分、自主練に付き合う形になるから遅い時間になる。それでも構わないな?」


「ああ。その時間は適当に時間を潰すよ」


 暇な時間には慣れている。中学の頃に嫌という程味わったからな。

 部活をしてても暇なことっていうのはある。特に昼休み。あれほど退屈な時間はない。あと休みの日、ゴロゴロしてるだけだった。


「なら、決まりだな」


 良し、準備は整った。これでその後の話は久留米が纏めてくれるだろう。俺はそれが終わるのを待つだけ。

 あと必要なのは……根性だけだな。

 どっかのプロレスラーという訳では無いが本当に、元気さえあれば出来る。

 さて、気合い入れないとな。

 

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