~ボッチの成り上がり~ 目指せスクールカーストトップ

いちぞう

第1話 開幕ダッシュは関係ない

「お兄ちゃん起きて! 遅刻だよ遅刻!」


「……は?」


 ゆさゆさと布団を揺さぶられ、サーッと血の気が引き俺は思い切り飛び起きた。


「うわぁぁぁ!! ぼっち嫌だぁぁ!」


「ひゃあ!」


 マイシスターの悲鳴を聞きながら、高速で朝食を済ませて高速で歯磨き。

 そして入念な……セッティング。ふむ。髪は大丈夫……てか、ちゃんと髪セットしたらそれなりにイケテね? んなわけないか。


「お兄ちゃん早く早くー! あんなに息巻いてたのに……!」


「やっべ。早く行かねぇと……!」


 入学式が終わり、高校の1歩目を踏み出すというのに、いきなり妹に世話になってしまうとは……。

 先が思いやられるな……。


 ◆ ◆ ◆


「……大丈夫、だよな?」


 緊張感を持ちつつ、俺は教室の扉の前で立っていた。

 今日から始まる高校生活に胸を高鳴らせつつも、俺は不安に押しつぶされそうになっていた。

 ぼっちを打開するための、一世一代の大勝負に出るからだ。

 こうしていても誰も待ってはくれない。時間は有限だ。というより、こうしている間にもグループはでき始めて……。


「ぼっちは嫌だぼっちは嫌だぼっちは嫌だぼっちは嫌だぼっちは嫌だぼっちは嫌だぼっちは嫌だぼっちは嫌だぼっちは嫌だぼっちは嫌だ――」


 と俺はブツブツ言いながら勢いよく扉を開けた。

 そこには案の定グループは既に出来上がっていて、いきなり友達作りのハードルは上がる。

 あっちのグループは地味系。こっちは派手系……。見た瞬間分かる。スクールカーストの順位が……。

 俺はランク的にはどれくらいだろうか。そもそも1人なので対象外である。


「とにかく誰かに話しかけないと……いや、取り敢えず席に着くか」


 席に着いて、隣か前か後ろの席の人に話せばいい。席はランダムで決められているため、俺は窓側の前から3番目。地味な場所になってしまった。

 高校デビューにと髪もセットして来たのだが、これも全て無駄足。スタートダッシュは早速失敗だ。


「よっ。お前、溢れたのか」


「……ああ。もうちょっと早く来ればよかった」


 失意の元席へ辿り着いた。

 すると、後ろの席の男子が話し掛けてくれた。こいつもぼっちになったのか。可哀想に……。


「てか、お前も溢れたってことだろ? 良いのかよ何もしないで」


「俺の場合、知り合いなら学校以外にいっぱいいるから。それに、今はSNS社会だぜ? 話したい時は何時でもどこでも話せる」


 そう言って、男子はチラチラとスマホを見せびらかした。


「俺は永川海星。お前は?」


「佐藤一郎だ」


「一郎か、よろしく。それにしても、高校って面白い場所だよな。皆が皆……無駄なことして生きてる」


「何の話だよ」


 無駄なこと……友達を作ることが無駄なことということだろうか。


「どうせ、社会人になったら高校の友達なんて会わないだろ。なら、勉強ほっぽり出して友達と遊んだりしてさ。んな事してたら結局大人になっても無駄な時間を過ごすリーマンになるだけだぜ?」


「なんか鼻につく言い方だな。てか、お前偉そうだな。そんなこと言える根拠があるのか?」


「まあな。起業して3年経つから」


 3年……てことは中1で起業!? いや、なんだこいつ。宇宙人か何かかよ。


「天才かよ」


「いやいや、ペーペーだよ。色んな話聞いて、経験が増えただけ。実績はない。だから毎日毎日営業続きだから」


「いや、でも3年持ってれば凄いだろ」


「資産運用下手くそだからさ。もうちょっとちゃんとしないといけねぇ。まあ、んな事はいいんだよ。俺が言いたいのは、お前はあそこのヤツらみたいになるか、それとも何か努力するのかどっちになりたい? これが聞きたかったんだ」


「いや、友達作りたいだろ」


 そんなこと聞かなくても分かるだろ。起業とかそんなリスク背負いたくないし。普通にリーマンで十分だわ。


「だろうな」


 ニヤッと笑った。コイツ、マジでなんなんだよ。

 てっきりお前も起業家の道を進め! とか誘われるのかと思いきや、そんな感じでもなさそうだ。

 

「そんなこんなで1つ質問だ。友達を作りたいとは言ってるが、見たところ溢れてて半ば諦めかけれるだろ」


「う……」


 痛いところを突かれる。今のところ気合い入れたはいいが完全に空回りで、このままでは中学同様寂しいぼっちライフを送ることになりかねない。

 現状打開できる案もない。グループが出来る前に友達を作ろうとしていた。それは、グループに混じるほどのコミュ力は持ち合わせていないからだ。


「どうなんだ?」


「いや……察してくれよ」


「分かってるよ。そして、俺はそろそろ教育について学ぼうと思っててな。まだ早いとは思うが知識くらい詰めておきたい。だから――取引だ。お前、友達を作る時の目標は?」


 友達を作る時の目標? そんなの決まってるだろ!


「リア充に、俺はなる!!」


「よし、なら俺のスキル向上のために培った知識をお前にぜんぶ詰め込んでやる。高校デビューに遅れてもあのグループにねじ込める方法だ。知りたいか?」


 海星が指さしたのはひときわ目立っているグループ。イケメンと美少女。いわゆるスクールカーストトップのグループだ。

 アニメだと平々凡々なやつが人気者になる話とか良くあるよな。


「流石に無理だろ。顔とか俺そうでも無いし」


「その時点でお前はダメなんだ。大事なのは顔じゃない。ブランドだ。安いなら安いなりの価値がある。それをお前が見つけりゃいいだけの事だろ」


 おおっ? なんかちょっとかっこいい響き。てか、説得力が凄い。

 それもこれも海星のブランドがなす技なのだろうか。分からないが、兎に角海星について行けば全てを変えられる気がする。


「なあ、教えてくれ。リア充になる方法を……」


「よし来た。あとお前詐欺には気をつけろよ」


「……お前俺の事詐欺ったの?」


「違ぇよ。もうちょっと疑った方がいいぜってことだ。ま、安心してくれ。普通に考えりゃわかると思うが詐欺は学生にはやらん。金持ってないやつから巻き上げてもたかが知れてるからな。さて、そんじゃ放課後にカフェで話そう。改めて、これからよろしくな」


 海星が手を伸ばしてきた。

 正直に言おう。胡散臭いことこの上ないし、何を考えてるのか分かったもんじゃない。

 ただ……今まで何も出来なかった俺が変わるチャンスかもしれない。怪しかったら逃げりゃいいんだ。だから今は――。


 俺は、差し出された手を握った。

 そして、海星はニヤリと笑った。


「――交渉成立だ」


「……やっぱお前詐欺師か?」


「違ぇよ」

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