言葉が焚きつけてくる

ななくさつゆり

1話目【昂揚の芽吹き】

 私とヒヨリさんは、「同じゲームが好き」という点だけで繋がる間柄でしかなかった。繋がりというにはささやかなもので、その繋がりを得た時期やきっかけだって、あまり覚えていない。思い返せば、そろそろ二年は経つのかな。


 こちらは地方で、彼女は東京にいる。コミュニケーションのほとんどはSNSを介した他愛のないもの。音声通話の機会は皆無で、対面して会話したのも数回だけというありさまだった。

 それなのに、ヒヨリさんの存在感は自分の中で決して小さくない。理由は様々。たとえば、SNSのタイムラインをざっと眺めていると、日に一度は躍動する当人の創作物を見かけるから、というのがある。彼女の日々の活動が自分の内側にするりと入りこんできた。それが彼女の存在感を徐々に強めていくのだけれど、やがてその刷り込みじみたものが、さらに一歩踏み込んだ作用を自分にもたらしてくる。

 ヒヨリさんはイラストを描く。

 新作の公開。ドローイングの配信。活動を重ねるごとにフォロワーを増やし、活動の幅を広げていた。それを追うなかでふと、彼女自身の胸の内にあるもの——ひたむきさの正体のような何か——を考えるようになっていく。タイムラインに立ち並ぶ成果物たちを前にして。


 こうも日々動けるものなのか。

 なにが彼女を動かしつづけているのか。

 描くほどに上手くなっている。

 描くのが速くなっていく。

 線に迷いがなくなっていく。

 去年よりも、先月よりも、昨日よりも。


 そうした姿を目の当たりにして、いつしかそれを眺める自分の内に、ひとつの小さな昂揚感こうようかんが芽生えはじめていることに気づいた。

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