12/8 サンタクロースの指令

 ぽっぽっぽっぽっ……

 突如、壁の鳩時計が時間を告げる。


 はっとして見上げると、針は12時を指していた。

 12時……

 昼の? それとも夜の?


 近くにあった窓に駆け寄り、カーテンを僅かに開けて外を伺う。


 暗い。光はどこにもなくて、ただひたすら暗闇が広がっている。


 でも、これでわかった。

 今は午前零時を過ぎたところらしい。


 再び視線を鳩時計に戻した僕は、その下にカレンダーが掛けられていることに気づいた。


 こんなもの、あったっけ?


 まるでたった今現れたかのようなソレに、じっと目を凝らすと、12月8日の部分にピンクのハートが描かれている。その中には、ぷくりとした可愛らしい丸文字。


『ポケットに、ご注目♡』


 えっ……?


 途端に、腰に巻いていた黒エプロンのポケットに、スンと重量感が生まれた。

 

 慌てて手を差し込むと、指先にかさりと何かが触れる。取り出して見ると、それは四つ折りにされた小さな紙だった。


 妙な胸騒ぎがする。


 恐る恐る開いて見ると、そこにはカレンダーのものと同じ筆跡。今自分誰も書いてないくらい丸っこい文字で、メッセージが書かれていた。


『はじめましてはコンニチハ。マザーグースの森へようこそ。突然だけどクリスマスまでに、美味しいクリスマス・プディングを完成させてね。そしたら元の世界に戻してあ、げ、る♡  サンタクロースより』


 ……はあぁぁぁ???


 何が何だかわからない。


 不安と憤りがないまぜになって、僕は久しぶりに人に聞かせられないような悪態をついた。

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