第40話 stay with me ②

その後、ユーリカの言葉は私の心の中に残り続けた。その頃、私はリュータから、自分達も魔法を使えるようになるのだろうか、と質問を受けた。私は当然出来ると答えた。だって、この世界には魔法は無いってリュータは言うけど、実際にリュータもタケシも魔法を使っていたから。二人は、それは魔法じゃないって言うけど、あの時二人が魔法でゴブリンキングを倒したのは、私とユーリカには紛れも無い事実だったのだから。


そして、リュータとタケシに魔法を教えると、紆余曲折はあったものの、二人は魔法が使えるようになった。魔力交流でリュータの魔力が私の中に入って来た時、ドキドキしたのは内緒だけど。


リュータとタケシの魔法修行は、その後も順調に推移し、元々習っていた錬気術で得た素養もあって、あっという間に強力な攻撃魔法を使えるようになった。



私達姉妹がリュータとタケシと一緒にいる事、それが彼等の善意に縋った我が身可愛さと打算から始まった事は否めない。だって、私もユーリカも生きて行かなくちゃいけないのだし、より安全を求めるのは当然でしょ?だから、リュータが特に強い魔力を持ち、強力な魔法が使えるようになった事は、守られている身としては安心出来て、嬉しい限りだった。


また、この頃から、私はリュータが私に好意を抱いている事を感じるようになった。そして、私も自分を守ってくれて、強く、優しく、格好良くて、誠実なリュータの事を好ましく思うようになっていた。リュータと居ると楽しく、話をしたり、からかったり、お互いの世界の知識を教え合ったり、ゲームをしたり、歌を歌ったり。こんな暮らしもいいなぁ、なんてその時はちょっと思ったりした。


だけど、そんな穏やかな日々が、そう長く続く訳もなく。大きな避難所を目指して移動した先で、アラクネに襲われていた獣人の子供達を助けた事を皮切りに、避難所ではオークの群れに襲われてオークキングまで現れた。私達はこれらと戦い、リュータは八面六臂の大活躍をしたけど、その戦い方はなんか危なっかしくて。


そうしたら、この世界の狼の女神様から呼び出されて今回の事態の真実を告げられ、加護を授けられ。その後、この国の軍隊に拉致されそうになりと、非常事態が連続した。


そうした中でも、リュータは私達のリーダーとして何時も最前線で体を張って戦い、私を、仲間達を守ってくれていた。もちろん、私も一緒に戦ったけど、リュータの戦い方は自分一人が前に立った戦い方だ。


今まではそれでも魔物に勝つ事が出来ていたが、こんな事態がいつまで続くのかわからないし、より強力な魔物や魔族が現れないとも限らない。今のままリュータの戦い方では、いずれ敗れ傷つく時が来るかもしれず、一人で戦い続けていたら、誰もリュータを助ける事が出来ない。もし、そうなったとしたら、その時、私はリュータを喪う事になるのだ。


私はその最悪の未来に恐怖した。リュータが私の前から消えてしまうなんて、居なくなってしまうなんて、そんなの嫌だ。絶対ダメだ!


だけど、皮肉にもリュータが失われた世界を思う事が、リュータの存在が私にとって如何に大きくなっているか、そして大切な人になっているかを、私は思い知る事となったのだ。


私とリュータの関係は、初めは確かに、この異世界で自分と妹を守ってもらうための打算から始まった。でも、でも、今では打算の関係なんかじゃない、私の大切な人で、そして、そして大好きな人なんだ。


だから、私が絶対にリュータを死なせやしない。私がリュータを守ってみせる。そのためには彼の戦い方を変えないといけない。一人で前に出るんじゃなくて、彼がリーダーとして指揮を執り、チームで戦うよう改めさせなくてはならない。



そして、軍隊と避難民が満峰の山を引き揚げていった日の夜、慰労会が終わって部屋に戻る時、私は一人で宿坊から外へ出て行くリュータを見かけたのだ。


いつもはシャキッとしている彼の両肩が、心なしか下がっているように見えた。その姿が、私にはリュータが両肩に乗せている見えない重荷に、一人で何も言わずに耐えているように見えたのだ。


( 一人で背負わないで。私にくらい話してくれたっていいのに。リュータは私を信頼してくれないの?)


私は彼の後ろ姿に愛しさとも苛立ちともわからない感情を覚えた。


その間にも、彼の後ろ姿は小さくなり、私は考え事をした一瞬によって、その背中に声をかけるタイミングを逸してしまった。


「お姉ちゃん!」


呆然とする私に、ふいに後ろから声がかけられた。我に返って声がした方へ振り向くと、そこにはユーリカとタケシが並んで立っていたのだ。




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