第36話 翔んだドラカップル

それは10日前の事。俺は斉藤、エーリカ、ユーリカと山梨県との県境辺りまで日帰りの探索に出かけたのだ。目的地は広瀬ダムの人工湖で、途中途中で見つけた魔物を屠り、異世界からの転移者を探す予定だった。


一ヶ月近く前に女神様の神託を受けてから、こうして探索に出ては転移者を探している。しかしながら、未だに彼等と出会う事が無く、見つけた魔物を狩って終わる、というパターンが続いていた。なので、本格的に探索の範囲を広げてみよう、という事になったのだ。


とは言っても、俺達も人数が限られているので、秩父山中を虱潰しに探すなんて真似は出来無い。ラミッドとアミッドは随分と魔法も格闘技も上達したが、探索に加えるにはまだ不安が残るのだ。斉藤からは過保護だとからかわれたが。


国道を、微かな魔力を求めて進みながら目的地に近づくと、徐々に強い魔力を感じ取れるようになった。そして、広瀬ダムに到着すると、そこで俺達が見たものは、二頭のドラゴンが人工湖で水浴びしながらはしゃぐ姿だった。


「「「「………」」」」


呆気にとられた俺達だったが、俺達の存在に気づいたドラゴンは、早速近づいて来るや、念話で話しかけてきた。


" なんか、恥ずかしいところ見られちゃったなぁ。俺は火竜のバーン。君達は誰? "


戸惑いながらも、火竜には敵意が無いどころか非常にフレンドリーなので、俺も名乗る事にする。


" 俺は竜太。この世界の人間だ。"


続いて斉藤、エーリカ、ユーリカも自己紹介すると、もう一頭の火竜もバーンに寄り添いながら名乗った。


" 私はゾフィ。バーンの妻よ。"

" 俺達、最近番になったばかりなんだ。"

" " ねー。" "


バーンとゾフィは念話でそのように俺達に伝えると、互いの頭部を擦り付け始めたのだ。俺と斉藤は、図らずも、この世界で初めて新婚の火竜夫婦がいちゃつく様を目撃した人類となっていた。


もっとも、向こうの世界でも、やっぱり珍しいらしく、エーリカもユーリカも初めて見たと言っていたが。


" それはそうと、ここは何処なんだい?"


バーンはゾフィとさんざんいちゃついた後、あっそうだ、みたいな感じで俺に尋ねた。俺は手短に、ここが異世界である事、魔王国軍の侵略のため、君達は大精霊の力でこの世界に転移して来た事、今この世界も魔王に魔物を送り込まれて侵略を受けている事等を伝えた。


" そりゃあ大変な事になってるな。でも、俺はゾフィが居てくれれば何処でもいいけどね。"

" 私もバーンにどこまでも付いて行くわ。"

" ゾフィ "

" バーン "


「「「「……」」」」


「ねえ、リュータ、翔んだバカップルだけど、話は通じそうだから、炎龍の加護を受けてるんだし、彼等と話をつけてよ。」

「そっ、そうだな。」


エーリカの推しで、俺はバーンとゾフィに俺達の事情を話し、友達にならない?と提案すると、バーンとゾフィはすぐに賛成してくれた。


" いいよ。じゃあ、俺達今日から友達だな。それに、リュータからは龍神様の息吹を感じるしね。俺達、火山も近くてこの湖が気に入ったから、ここら辺にすむよ。何かあったら念話で呼んでくれよ。"

" よろしくね、皆さん。"


こうして、俺達と火竜の夫婦は友達となったのであった。




駐車場には多くの兵士達が倒れ、バーンの咆哮に耐える事が出来た兵士も、四つん這いになり、或いは両膝を地面に突いて、とても銃など構えていられない状態。バーンのひと吠えで、包囲の輪は崩壊した。


稲葉女史は、先程の威勢はどこへやら、白目をむいて意識を失って倒れていた。神崎大尉は流石に腐っても国防大出の将校、一時の混乱から持ち直して立ち上がった。


「神崎大尉、でしたっけ? まだ続けますか?」


神崎大尉はバーンを見上げ、次いで辺りを見回して自分の指揮下にある部隊の状況を確認すると、力無く首を左右に振って両手を上げた。


「いや、止めておくよ。降参だ。」


今西大尉はすかさず部下に命じ、俺達を包囲していた部隊の武装解除に取り掛かった。その途中で稲葉女史は意識を回復させたものの、自身は拘束されており、目の前にグルグルと唸る(もちろんわざと)火竜を見て、再びその意識を手放した。


" リュータ、どうだった?少しは役に立ったかい?"

" ああ、大助かりだよ。ありがとう、バーン、ゾフィ。"

" 困った時はお互い様だよ。ねー、ゾフィ?"

" 友達を大事にするバーンって素敵。"

" …"


火竜のバーンとゾフィは、投降した部隊の武装解除が終わると、広瀬湖へて帰って行った。


今西大尉と朝倉少尉は、それぞれのルートでそれぞれの原隊へ、この事件について報告した。そして、その日の内に鎮圧部隊が出動し、投降した部隊を拘束、回収していった。


明くる日、今西大尉達の任務部隊が満峰山から撤収する事となった。最後まで残っていた避難民のグループも同じヘリで救出されるため、この日から暫く満峰神社には、神社を守るため自らの救出を拒否して残留する神社関係者と俺達のグループだけになる。


そして、雪枝と北川さんは、というと、


「あーあ、私達もお尋ね者になっちゃったら帰れないなぁ。」

「私も下界に戻ったら謎の組織に密かに誘拐されちゃうかもしれないから、怖くて帰れません。」


彼女達も魔法を覚え、魔法が使えるようになっている。俺達を捕らえようとしていた連中については、軍の情報部と憲兵隊により捜査される事になっているが、まだそれも始まったばかり。その実態は未だ闇の中だ。雪枝と北川さんの情報が、いずれ漏れて連中に把握されるのは時間の問題だろう。そうなれば、連中が二人に再び触手を伸ばす可能性も十分考えられる。そのため、彼女達の身の安全を考慮するならば、まあ、このまま俺達と満峰神社にいた方が良いだろう、という事になったのだ。


「これからもよろしくね、兄さん。」

「先輩、私、足手まといにはなりませんから。」


二人はそう言うと、それぞれ俺の両腕にしがみついて来た。


エーリカ 「ちょっと、舞、リュータが嫌だって。離れなさいよ。」

舞 「 そんな事ないですよね、先輩?」


サキ 「雪枝さん。リュータさんが困ってます。離れて下さい。」

雪枝 「サキちゃん、妹が兄と腕組んでるだけよ?何かおかしい?」

サキ 「うぅぅ、私だってリュータさんにくっつきたいのにぃ!」

ミア 「サキちゃん、頑張って。」


ラミッド 「流石兄貴。モテモテだなぁ。」

アミッド 「嫁はいらねぇ。戦いあるのみさ。」

アックス 「まあ、強い雄に多くの雌が群がるのは自然の摂理って事ですね。」


斉藤 「リュウ、モテる男は辛いな。」

ユーリカ 「タケシもモテたいの?」

斉藤 「いや、俺は大事な女性(ひと)は一人でいい。」

ユーリカ 「 ふふ、良かった。」


俺の両腕を引っ張っていた四人も、今西大尉が歩み寄って来た事で漸く放してくれた。今西大尉はその様子を見ていたようで苦笑していたが、俺の前に至るや表情を引き締めて右手を差し出した。


「いろいろあったが、世話になった。ありがとう。君達を狙う連中については、俺もあらゆる手段を駆使して叩き潰し、君達が山から下りられるよう地均しをしておくよ。」


俺も今西大尉の右手を握る。


「でも、まあ、大尉はまた秩父に戻って来るんじゃないですか?なんか、そんな気がしますよ。」

「そうか?実は俺もなんだ。」


そう言って俺達は笑った。


「その時はよろしくな。」

「ええ、こちらこそ。」


そして、今西大尉は別れ際に朝倉少尉に「ライバル多いけど負けるなよ。」と囁き、離陸準備が出来ているヘリへと駆けて行った。それに対する朝倉少尉の呟きは、魔法で強化した聴力でも聞こえなかった。


離陸した陸軍の大型ヘリは高度を上げ、上空で編隊を組むと、東に向けて飛び去って行った。

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