天知米(あげちまい)のオコメヒメ

虹色水晶

第1話

 豊穣神オコメヒメの前に転がっているのは奇妙な死体であった。

 それはトラックに跳ねられた若者。ではない。

 プリウスに乗って勲章を持って車のブレーキが故障していたんだ私は悪くないんだという元通産相幹部の運転する自動車に跳ねられた被害者でもない。

 医療現場に金を回せばいいのに「旅行業界と私は近しい関係にあるんだ。GOTOキャンペーンをやれ」という無能な日本政府の政治家により、令和のインパール作戦に巻き込まれ病死したわけでもない。

 いや。厳密には彼はその令和インパール作戦の結果この世界に来ているのだ。ただし、今回の直接死因ではない。というだけである。

 ブラック企業で過労死したわけでもなければ老衰でしんだわけでもない。

 その若者は。

 定期的に死亡と蘇生を繰り返し続けているのだった。司法解剖用の用意された、検死解剖のためのベッドの上で。ジェーン・ドウも真っ青である。


『どう思う。夜鳴よ』


 オコメヒメに呼び出された医療神は腹をかきむしりながら息絶え、そして再び蘇っては死ぬ哀れなキリストのなりそこないをのぞき込んだ。


「私は忙しいのですが」


『そこにある男なのだが』


「これは死体?に見えますが。生きているような。あるいは死んでいるような」


『ご覧のとおりだ夜鳴よ。かの者は死と蘇りを繰り返しておるのじゃ』


「そんなものは言われなくてもわかります。この患者はどこから?」


『夜鳴。お主が普段遊びに行っている地球とかいう世界がおるであろう』


「遊びではなく仕事です。あの世界はどこもかしこも国王が無能なので私のような医療神が人間のふりをして助けに行かないと医療崩壊をしてしまうのです」


『そうであったか。地球とかいう世界は儂達の世界よりも医学が劣っておるのか』


「そうです。これをみてください」


 夜鳴は記録映像を見せた。



『ウォーーー!ドサンプ!ドサンプ!』


『ドサンプ!ドサンプ!ドサンプ!』


『アメリカ国民のみんなー!!俺様に投票しろーー!!アメリカを世界一偉大な国にするぜええええ!!!!』


『ドサンプ!ドサンプ!ドサンプ!』


『どうしよぉおおおおハレス!!このままだとぼくドサンプに負けちゃつよおおお』


『落ち着いてくださいパイオツ。貴方は民主党の候補なんです。あと私の胸を触るのはやめてください』


『失礼。ちょっとよろしいでしょうか?』


『誰だい?君は?』


『医師の夜鳴です。私の書いた原稿を読むだけで貴方は選挙に勝つことができます』


『アメリカ国民のみんな!食事の前には手を洗おう!うがいをしよう!そしてなによりも!!』


『外出時にはマスクをするのよっ!!』


『うぉおおおおお!!!パイオツパイオツ!!』


『パイオツ!!!パイオツ!!!』


『ホーリーシット!このドサンプ様がパイオツに選挙で負けてしまった!これは不正選挙だっ!!!』


『ありがとう夜鳴君!!君のおかげで選挙に勝てたよ!!』


『お礼より医療部門への援助増額をお願いします。あと私の胸を触るのはやめてください。不衛生です』



『地球とかいう世界の。アメリカと申す国の人々は食事の前に手を洗わんのだな。儂達よりも遅れておるな』


「ええ。まさに異世界医療は遅れています。それに加えて不衛生です」

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