第20話 停学中はゲームが楽しい
停学と言うのは難しいもので、制限がいろいろと複雑である。
というのも、学校や塾といった生徒と会う可能性のある場所に行くことは禁じられているが、家から出てコンビニに行くくらいなら許される。
まあよくわからなかったら、積極的に生徒と会いに行くのはやめましょうという認識で大丈夫なのだが。
そして俺がなぜこうも停学について詳しいのかと言えば……何回も停学になったことがあるからである。あれ、ひょっとして俺って問題児なんですかね?
「あ~反省文を書くのめんどくせえ~」
ちなみに反省文というシステムも存在しており、これは一日に原稿用紙一枚分を書く必要がある。
そして毎日のように教師が反省をしているのか見に来るので、そこで提出していくという流れになる。
「めんどくさいのは、わざわざ暴力沙汰を起こしたあなたのために学校を休んでいる私の方なのですが」
と、ふと横を見ると、相坂さんがいた。
ただ言葉とは裏腹に、楽しそうにほおを緩ませながら俺の家にあったゲームを遊んでいる。
「相坂さんあれですよね? 休む口実ができたーって絶対喜んでますよね?」
「何を馬鹿なことを。私だって本当は学校に行きたくて行きたくてしょうがないのですが、総理に『彼の方を気にしてくれ』と言われたので仕方なく、しかたなーく学校を休んであなたの面倒を見ているのですよ」
「面倒を見てるって、ただゲームをしているだけなのでは……」
そんな俺の言葉を意に介する様子もなく、相坂さんはテレビの方に夢中になっていた。
「はぁ」
もうかれこれ停学から3日目の木曜日だ。
ということは3日もの間、相坂さんと一緒に暮らしていたことになる。
今は遊んでいるが、とうぜん相坂さんがやってきたのは俺の勉強やその他もろもろを見るためだ。
ここ3日間で勉強した量は学校に行っていた時よりも多い。しかも1日に数学を5時間も勉強しているのだ! あーえらいえらい、おれ。死ぬ。
「でもまさか、あなたが幼馴染のために上級生を殴るとは思いませんでした」
相坂さんがテレビを見ながら、思い出したように語る。
事件のあらましについては、相坂さんにすべて知られていた。俺が語る前に。
「というか上級生相手に殴り勝てるほど、喧嘩慣れしているとも思いませんでしたが」
「それは喧嘩慣れというか、まあ人間リミッターさえ外してしまえばそれくらいできますよ」
「幼馴染のためにその枷を外せる人は、そうはいないと思いますけど……」
そもそもリミッターを外すこと自体難しいでしょう……と、相坂さんは頭痛がするような顔で言う。
「でもすみません……リミッターついでに歯止めまで効かなくなっちゃって」
「それはほんと馬鹿です」
「返す言葉もございません……」
まあでも、と相坂さんはつづけた。
「世間がなんと言うかは知りませんが……女の子のために体を張れる、上級生相手に殴り返せるというのは、私は美徳だと思いますけど」
「美徳、ですか」
「美しくはないので長所、でしょうか。ともかく、そういう男は私は嫌いじゃないです」
相坂さんは淡々と、それでも熱のある言葉をかけてくれた。いつも通り表情は変わることはないが、その場しのぎの言葉には聞こえなかった。
たぶん相坂さんなりの励ましなのだろう。そう思うと、俺も熱くなってしまう。
「あ、そういえばどうでもいい話ですが」
「?」
「あなたを殴った男3人。リーダーの人間は4週間、付き添いの人間は3週間に停学時期が伸びたらしいですよ」
「へ~……ってまさか、相坂さん……」
「何もしてませんよ」
疑うような視線を相坂さんに向けるが、彼女の表情は変わらない。
むしろ「何を疑っているんですか?」と言いたげな不機嫌な顔が返ってきた。
「じゃあどうしてこのタイミングで?」
「どうしてでしょうね。あ、あと一人は大学推薦をもらう予定だったらしいですが、それも取り消しになりましたね。まあそれは普通でしょうけど」
「そんな人もいたんだ……」
推薦をもらう予定の人がこんな暴力騒ぎに参加したのか。
受験生になると、1,2年生には分からないストレスがたまるものなんだろうか。それとも単純に嘉瀬先輩のことが好きでしょうがなかったからだろうか。たぶんどちらも、なのだろうな。
まあどちらにしても自分には関係のないことだけど。
「ああ、あと教師が一人ついでに異動になったらしいですが、これは本当にタイミングが被っただけでしょうね」
へえ……なんか俺の知らないところで謎の意志が働いているように見えるけど……まあそれは本当に気のせいだな。
「……………………ていうか、いつまでゲームしてるんですか相坂さん‼」
「あなたもやります? 例のレーシングゲームですが、ちょうどレートがきりよく5桁になったので」
「やるやるー!」
それから相坂さんと2人で3,4時間ほど遊んでしまった。
結果は……完敗でした、ハイ‼
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